1 問題の概要
事案は、大要「建設業者であるAが、B県内にある自己の所有地に大型マンション(本件建築物)を建設すべく、周辺住民らに対して説明会を開催し、協議が行われたものの、話合いはまとまらなかった。それにもかかわらず、Aが建築確認をB県建築主事に申請し、建築確認がなされたため、周辺住民のうちF、G、H、Iの4名が審査請求を経て、訴訟を提起しようとしている」という内容でした。
設問は、「1.Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)を挙げた上で、それを用いる場合の行政事件訴訟法上の問題点を中心に論じなさい。2.考え得る本件確認の違法事由について詳細に検討し、当該違法事由の主張が認められ得るかを論じなさい。また、原告Fがいかなる違法事由を主張できるかを論じなさい。」というものでした。両設問とも、建築基準法43条2項の委任するB県建築安全条例(以下「安全条例」)4条の定める接道義務が主要なテーマとなります。
資料としては、法律事務所の会議録(資料1)、現場付近の説明図(資料2)、関連法令(建築基準法、安全条例、B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「紛争予防条例」)。いずれも抜粋。資料3)が付されていました。
分量は、問題文と設問で1ページ弱(昨年より若干少ない)、資料1が2ページ(昨年よりかなり長い)、資料3が4ページ(昨年とほぼ同じ)でした。また、資料2は1ページでしたが、このようなビジュアル的な資料はここ2年見られなかったものでした。その結果、設問・資料合計で8ページとなり、昨年より2ページ増加しました。誘導がわかりやすく論点を発見しやすいので問題の難易度は低下しているといえますが、条文のページが全体の半分を占めていますので、個別行政法令を短時間に的確に読み解く力が必要となります。特に主要な法令については事前にある程度の理解をしておくべきと思われます。
2 問題の特徴
設問1が法的手段(仮の救済含む)、設問2が違法事由についての検討を求めるものであるというのは、過去2年と同様であり、この形式は定着したといえるでしょう(行訴法上の手段を問う問題である限り)。
ただ、設問1については、過去2年では、考え得る複数の法的手段の比較検討が要求されていたのに対し、今年は、ほぼ取消訴訟しか考えられない事案が設定されているので、その点では負担が軽減されています。また、重要論点ながら過去に出題されたことのない原告適格をかなり重点的に論じさせるものとなっていると考えられます。
設問2についても、違法事由に関する誘導が、昨年と比較して具体的になっており、論点を落とす危険が軽減されています。行政法に関しては、論点抽出能力よりも、論点の存在を前提としてそこから法的議論を組み立てていく能力の方にウエイトが置かれる傾向が年々強まっているといえるでしょう。
3 設問1について
用いるべき訴訟手段と仮の救済は何かがまず問われていますが、前述したように訴訟手段は取消訴訟しか考えられず、その結果、仮の救済も執行停止のみということになります。ただ、執行停止については類型(処分の効力の停止)にまで言及する必要があると考えられます。
取消訴訟の検討では、要件を全て的確に指摘することは一般的には好ましいことですが、本問では、問題文の中で、論ずる必要のない要件が指摘されていますので、気を付けるべきでしょう。もちろん、メインは原告適格ですが、訴えの利益(マンションが完成していないこと)についても一言触れたほうがよいでしょう。原告適格については、4人の属性を個別に考慮して論述することが明示的に求められています。この論点では「法律上保護された利益説」に立つ方が多いでしょうが、本問ではF〜Iが処分の名あて人ではないため、行訴法9条2項が問題となります。ここでは、建築基準法と紛争予防条例の目的を比較し、同条例が同項にいう関連法令であるという結論を導くことが重要と考えられます。また、各人の原告適格を裏付ける材料としては、(1)近隣関係住民(紛争予防条例2条4号)であること(F、G)、(2)至近距離の施設の利用者であること(H)、(3)説明会の開催を求める権利が与えられていること(F〜I)が挙げられます。それぞれ本問のような事案との関係では直接に判示したといえる有名な判例はないので、個人ごとの事情や、考慮すべき条文が異なることを意識しながら丁寧に論述すべきでしょう。
執行停止は、「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」ことと、「本案について理由がない」とはいえないこと、という2つの要件が中心となりますが、後者については、簡単に触れれば十分でしょう。前者については、行訴法25条3項を参考に考慮要素を挙げて、あてはめを充実させるべきでしょう。
4 設問2について
考えられる違法事由は、弁護士間の会話で挙がっている、(1)道路幅との関係での違法、(2)児童室との関係での違法、(3)Aの紛争予防条例(説明会開催義務)違反、(4)公聴会開催義務違反であり、これらを検討することが求められていると思われます。
(1)では、本件建築物が接すべき道路の幅員、道路に接すべき長さとも、形式的には安全条例4条1項、2項の要件を満たしていますが、Fが懸念するように、火災時などに消防車等が進入することが困難で、防災上問題があること等の理由で違法となりえないかが問題となります。遮断機の存在により公道に出入りする部分の幅が3mとなっている点や、緊急時に遮断機を上げられない可能性があるという点をどう評価するかがポイントと思われます。その際に、建築基準法21条や43条2項が何を意味するのかを検討することが必要になってくるでしょう。
(2)では、児童室の出入口と駐車場出入口との間が10mしかないことから、安全条例27条4号に抵触し違法となります。加えて、同条ただし書の「交通の安全上支障がない」という要件を基礎付ける事情は見当たらないことに触れておけばよいでしょう。
(3)では、紛争予防条例違反が本件確認の違法を基礎付けるかという点を検討することになりますが、紛争予防条例の手続を踏むことが本件確認の手続要件ではないため、違法ということは困難でしょう。
(4)では、行政手続法10条の指摘が最大のポイントでしょう。
以上で違法としたもののうち、Fがいずれを主張できるかについては、行訴法10条1項を挙げ、どれがFの「法律上の利益」にかかわるのか的確に指摘すれば足りるでしょう。
5 最後に、伊藤塾全国公開模試の問題との的中について
試験直前に行いました、伊藤塾の「新司法試験 全国公開模試」において、本問と類似の事案を用いた問題を出題していました。
本問では、設問1にて、建築確認処分に対する取消訴訟に関して、複数の当事者の原告適格を論ずることが重要となっています。上記伊藤塾模試でも同様に、建築確認処分に対する取消訴訟に関して、複数の当事者の原告適格を論ずることを求める問題を出題しました。(的中内容詳細>>>)
この点に関して、受講生のみなさまに、本番で実際に答案を書く際に上記模試での演習をお役に立てていただいたのであれば、幸いです。 |