1 問題の概要
事案は、以下のような内容です。
平成21年1月17日、M埠頭の海中でVの死体が発見され、その死因が頸部圧迫による窒息死であることが判明したことから、Vに対する殺人罪及び死体遺棄罪の捜査が開始された。埠頭付近に設置された防犯カメラに甲が写っていたことから、甲を取り調べたところ、甲がVを殺害し死体を海に捨てた旨の供述をしたことから、警察は甲を逮捕した。
甲が、Vの殺人はT社を経営する乙から依頼された旨供述したことから、司法警察員警部補Pらは、同年1月26日、捜索差押許可状の発付を受け、
T社に対する捜索をして、その捜索中に、コンクリートの壁にボールペンで書かれた文字を消した部分[写真(1)]、X銀行の預金通帳(T社の従業員Aの名義)の表紙及び印字されているすべてのページ[写真(2)]、Y銀行の預金通帳(Aの名義)の表紙及び印字されているすべてのページ[写真(3)]、乙名義のパスポートの名義の記載があるページ、乙の名刺10枚、はがき3枚のあて名(乙名)部分及び印鑑2個の刻印(A名義)部分[写真(4)]を写真撮影した。なお、Pらは、X銀行の預金通帳を差し押さえたものの、Y銀行の通帳、パスポート、名刺、はがき及び印鑑をいずれも差し押さえず、捜索差押えを終了している。
その後、Pらは、M埠頭において、海中に転落した本件車両と同一形式の実験車両及びVと同じ重量の人形を用い、本件車両を海中に転落させた状況を再現する実験を行った。この実験結果については、実況見分調書が作成されている。
その後、甲は、乙と共謀の上、Vを殺害してその死体を遺棄した旨の公訴事実で起訴された。
設問は、「〔設問1〕[写真(1)]から[写真(4)]の写真撮影の適法性について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。〔設問2〕【事例】中の実況見分調書の証拠能力について論じなさい。」というものでした。
2 問題の特徴
まず、形式面については、昨年と同様、捜査法の分野、証拠法の分野から各一題の出題でした。ただし、問題のページ数は、4ページから5ページ、資料は1つであったものが2つへと増えています。限られた時間の中でこれらをどのように読んで問題を処理できたかが重要であったと思われます。
また、内容面については、設問1では[写真(1)]から[写真(4)]の違いを踏まえた上で、事実に対する評価・意味付けをして写真撮影の適法性を検討すること、設問2では実況見分調書の要証事実を踏まえた上で、実況見分調書の証拠能力を検討することが求められていたと思われます。その際には、重要と思われる問題については深く掘り下げて論じ、問題が少ないと思われる問題についてはあっさり処理することが必要となると思われます。
3 設問1
設問1では、捜索差押えの執行時における写真撮影の適法性が問題となります。[写真(1)]から[写真(4)]までの違いを踏まえた論述が必要になると思われます。
具体的には、まず「強制の処分」(197条1項ただし書き)につき、判例・学説の規範を論じたうえで、具体的に写真撮影がこれにあたることを指摘すべきと考えられます(本件写真撮影は、公道上等ではなく、捜索差押えの現場で行われているものですから、任意処分と解する余地はないでしょう。)。その上で、本件写真撮影に捜索差押許可状の効力が及ぶか、及ぶとしてもどこまで認められるのかを論じていくことが必要と思われます。あてはめに際しては、捜索差押えの対象物に含まれるか否かを明示し、含まれるとしても写真撮影の必要性があるかどうかを検討していくと良いでしょう。
[写真(1)]については、壁の記述部分が、捜索差押許可状の対象となる場所の一部であり、差押えることのできない建造物であるという特殊性があるため、その点を踏まえた論述をすることが必要となるでしょう。
[写真(2)]については、X銀行の預金通帳は本件捜索差押許可状の「差し押えるべき物」の対象になっており、実際に差し押える必要性が認められる物件であるという特殊性があると思われます。その上で、Bの抗議反してまで差し押える物をあえて写真撮影する必要性や相当性があるのかどうかが問題になると思われます。
[写真(3)]については、Y銀行の預金通帳も本件捜索差押許可状の「差し押えるべき物」の対象となっているものの、差し押える必要性がない物件であるという特殊性があると思われますので、それを踏まえた論述が必要となるでしょう。
「写真(4)]については、パスポート、名刺、はがき、Aという刻印のある印鑑は、本件捜索差押許可状の「差し押えるべき物」の対象に含まれていないものと思われるため、そのような特殊性を踏まえた上で、写真撮影が許されるのかを検討していくことになるでしょう。
4 設問2
本件実況見分調書の証拠能力として問題となるのは、伝聞法則(刑事訴訟法320条1項)適用の有無となります。
本件実況見分調書の特徴は、甲が本件車両を海中に転落させた状況を再現し、その再現経過として写真が添付され、その写真の下に被疑者甲の説明が記載されているという、いわゆる犯行再現実況見分調書であることです。
設問2は、このような本件実況見分調書の特徴を踏まえつつ論じることが必要となると思われます。
なお、参考になる判例として、平成17.9.27(平17重判刑訴7事件)があります。
具体的には、(1)実況見分調書は原則として刑事訴訟法320条1項の伝聞法則の適用がなされるが、例外的に刑事訴訟法321条3項の適用がされることとその理由、(2)写真部分について、実況見分調書の一部として(1)に従えば足りると考えてよいのか、そうでない場合、要証事実との関係で、刑事訴訟法321条以下のいかなる条文を適用すべきか、(3)写真の下の甲の説明部分について、写真と一体として(2)に従えば足りると考えるべきか、そうでない場合、要証事実との関係で、321条以下のいかなる条文を適用すべきか、(4)(2)で刑事訴訟法322条1項の適用を問題として写真を供述録取書に当たるとした場合、本件では「被告人の署名若しくは押印のあるもの」という要件を満たしているといえるか、等が問題となると思われます。
これらを論じる際のポイントとしては、以下が考えられます。
(1)については、検証調書と実況見分調書の類似性を理由に、321条3項が適用されることを簡潔に示すべきでしょう。
(2)については、検察官の示した立証趣旨を挙げつつ、これにとらわれず実質的に要証事実を考えるべきであることを示した上で、要証事実が写真で示されたとおりの犯罪事実の存在(内容の真実性)であるのか否かを自分なりに具体的に検討することであると思われます。その際、添付された7枚の写真をそれぞれについて、その要証事実を検討することが極めて重要です。
(3)については、7つの説明記載の性質(一般に、現場指示と現場供述の2種類があるといわれる)とその要証事実を、(2)と同様、自分なりに具体的に検討することにあると思われます。
(4)については、写真が被告人の供述録取書に当たるとしても、その機械的な正確性から署名・押印が不要となるか否かを、伝聞法則の趣旨から示すことが良いでしょう。
5 伊藤塾全国公開模試の問題が的中
試験直前に行いました伊藤塾の「新司法試験 全国公開模試」において、本問と類似の事案を用いた問題を出題していました。
刑事系第2問では、実況見分調書の記載・実況見分調書に添付された犯行再現写真について、立証趣旨・要証事実を踏まえ証拠能力について検討させるという内容の問題です。(的中内容詳細>>>)
この点に関して、受講生の皆さまに、本番で答案を書く際に上記模試での演習をお役に立てていただけたのであれば、幸いです。
|