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第9号 日本における第三国定住プログラム Third Country Resettlement Programme in Japan

三浦 純子(東京大学 難民移民ドキュメンテーションセンター学術支援員)

日本は難民を受け入れない国と国際社会で批判されますが、難民受け入れに際して新たな取り組みを始めています。
現在、タイ・ミャンマーのタイ側の国境には9つの難民キャンプがあり、約14万人が暮らしています。
難民キャンプは約30年間存在し、20年以上滞在している難民が多いといわれています。こうした背景から日本政府は、東南アジアの難民問題に貢献すること を目的に、タイの一部の難民キャンプから、試験的に3年間で90名(年間30名)の難民を受け入れることを2008年に決定、今年3月には2年間の延長が 決まりました。2010年に事業を開始してから、多くの子どもを含む、既に45名の難民を受け入れています。
しかしその過程において,定住にむけた様々な課題が浮き彫りになっています。
制度が本格化するか否か、制度設計の包括的な見直し等が議論される必要があります。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は難民問題の恒久的解決法として、①出身国への自主帰還、②第一庇護国の社会への統合、③第三国定住の3つをあげています。
深刻な難民問題の1つとして、『長期化した難民(protracted refugees)』と呼ばれる、キャンプのような状態で5年以上暮らしている難民があげられます。
このような長期化した難民の1つの解決方法として、第三国定住プログラムが推進されています。
米国、オーストラリア、カナダ等が再定住難民を受け入れている主要国ですが、定住可能な枠と再定住を必要としている難民の数には非常に大きな開きがあるのです。

 こうした国際的動向を受け、日本も「アジア地域で発生している難民に関する諸問題に対処する」ことを目的に第三国定住による難民受け入れをパイロットケースとして実施することを、2008年12月の閣議了解にて決定しました。
日本政府が発表している第三国定住難民の候補者を選定する条件は、①「UNHCRが国際的な保護の必要な者と認め、我が国に対してその保護を推薦する 者」、②「日本社会への適応能力がある者であって、生活を営むに足りる職に就くことが見込まれるもの及びその配偶者又は子」の2つです。
これに加え、「家族単位」での受け入れが候補者の選定条件としてあげられています。

 2010年、再定住難民としてUNHCRの推薦を受けた候補者となる人々から、書類選考、現地タイでの面接調査、国際移住機関(IOM)による健康診断及び出国前研修を経て到着した第一陣では、5家族27名が来日しました。
到着後は都内でアジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)の支援センターにおいて、日本語教育、社会的生活適応指導、就 職 支 援等の研修を180日間受けました。
研修終了後、2家族は千葉県で、3家族は三重県で定住生活を開始し、農業法人で6か月間の職場適応訓練を行いました。
三重県の家族は、雇用契約に至りましたが、千葉県に場所を移した2家族については、雇用契約締結に至らず、都内に転居することになりました。
また、第二陣となる4家族18名は2011年秋に来日し、研修を終えて現在、埼玉県に4家族が一緒に暮らしています。
第三陣として今年秋に来日予定だった3家族は、タイ国内で研修を受けていたものの、日本での生活に対する不安や家族の反対を理由に出発直前でキャンセルしました。
これにより、30名という枠があるものの、試験事業3年目を迎える今年の再定住難民はゼロ人となってしまいました。
これを受けて、難民支援をするいくつかの団体は、本年度の「再募集」や「選定基準の見直し」等を訴えています。
難民キャンプにいる限り、難民にとっては帰国もしくは再定住以外に選択肢はないのです。
米国やオーストラリアは人気なのに、なぜ日本行きは人気がないのでしょうか。当初、再 定 住希望者の募集は、1カ所に約5万人が暮らす大規模な難民キャンプが対象とされていたため、日本政府としては希望者が殺到することを予想し、どのように 30人の枠に収めようか、と想定していたはずです。
しかし、予想外の事態に関係者も混乱しているといえるでしょう。
どのような原因が考えられるのでしょうか。
「移民」を受け入れるヒントになりうる、難民受け入れから学ぶ意義は大いにあると考えられます。


 
伊藤塾塾便り207号/HUMAN SECURITYニュース(第9号 2012年11月発行)より掲載