憲法のことは千葉に訊け!

憲法の学習を「楽しく」します!

千葉 穣講師

【プロフィール】
2014年行政書士試験合格。2016年より伊藤塾行政書士試験科で講師として受験指導を開始する。
これまで「早起き特訓」やカウンセリングなど、主に個別指導を通じて一人ひとりの受験指導を行いながら、講座テキストや模試などの制作にも携わり、精密で分かりやすい教材の提供を行っている。
自身が法律初学者の時に、学習につまづいた経験を踏まえ、暗記中心の学習ではなく、どうすれば法律を楽しく、深く理解できるかを常に研究し続けている。
最近では、伊藤塾 行政書士試験公式メールマガジン「かなえ~る」にもコーナーを設け、受験生に向けて有益な情報を発信し続けている。

第15回 幸福追求権とは?

2018.1.30

みなさん、こんにちは。
伊藤塾行政書士試験科 講師の「千葉 穣(ちば みのり)」です。
 
前回は、憲法13条前段の条文を確認してみました。
今回は13条後段の条文を確認してみましょう。
 
 
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
後段については、いわゆる幸福追求権を認めた条文です。
 
 
さて、幸福追求権とは何なのか?について簡単にお話しします。
後々勉強していくように、思想良心の自由(19条)、表現の自由(211項)、職業選択の自由(22条1項)など、憲法は様々な人権を保障しています。これら個別の基本的人権を包括する人権が幸福追求権であると考えられています。
 
 
では、単なるお題目だけで具体的意味はないのか?という点ですが、社会が発展していくと、憲法制定当時には予想していなかった「プライバシー権」などの新たな人権が主張されるようになります。
しかし、プライバシー権など新しい人権は憲法に明文化されていません。
 
 
但し、プライバシー権などのような社会において保護に値するべき重要な価値があるにもかかわらず、憲法に明文化されていないという理由だけで憲法の保護を受けられないというのは、人権保障をうたう憲法の存在趣旨に反するわけです。
 
 
そこで憲法に明文化されていないけれどもその重要性から新しい人権として認めていくべき人権を、13条後段の幸福追求権の一内容として保障していこうと現在では考えられています。
 
 
では、幸福追求権としてどのような人権が保障されるか?
これは学説によって異なります。
 
 
ここに面白い裁判例があります。
異性との合意に基づく交際を妨げられることのない自由(恋愛の自由といってもよいでしょう)は、幸福追求権の一内容であるとしているものがあります(東京地判平28..18)。
この裁判例は、アイドルのいわゆる恋愛禁止条項が問題になった事案です。
興味のある方は、幸福追求権の勉強にもなりますので、参照してみてください。
 
 
以上、13条後段の幸福追求権についてお話しましたが、ポイントとして、幸福追求権は、憲法の規定にない人権を保障するものなんだということを押さえてみてください。

では次回にお会いしましょう!


第14回 そうだ具体的な条文、みてみよう!!

2018.1.23

前回までは、憲法の基本的な概念や、判例の読み方について学んできました。
今回からは、具体的な条文の話に入っていきたいと思います。
 

とはいっても、実務上・学問上重要でも、行政書士試験対策としては、それほど重要ではない条文もありますから、まずは憲法の中でも中核となる第3章の条文(10条~40条)の中でも、特に重要な条文についてだけ確認したいと思います。
 

ではまず最初に、憲法13条から見てみましょう。
構造的には、句点で区切って、前段、後段と分けることができます。
 

「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
 

初めて見た方もいるかもしれませんが、なかなか良いことを言っていると思いませんか?
 

今日はまず、前段を見ていきます。
 

前段では、「すべて国民は、個人として尊重される」としています。
実は、ここが私たちの「人権保障」の出発点で、とても重要な概念です。
 

なぜなら、表現の自由(憲法21条)を代表格とした各種基本的人権の保障も、個人を尊重してこそのものですから、13条は最初にこの点を明確にしているわけですね。
 

もしも仮に、個人を尊重しないとなると、表現の自由が保障されるとしても、それは集団の表現の自由だけであって、あなた一個人の表現の自由は、規制しても構わないよね。なんてことになりかねません。
 

個人を尊重することこそが、すべての基本的人権の保障の出発点である。
今日はこのことを確認しておきましょう。
 

次回、13条後段の幸福追求権についてお話します。
では次回にお会いしましょう!
 


第13回 マクリーン事件 その3

2018.1.17

みなさん、こんにちは。
伊藤塾行政書士試験科 講師の「千葉 穣(ちば みのり)」です。
 

今回は、前回に引き続き、マクリーン事件の中身を確認してみましょう。
 

前回、2つのポイントを挙げました。
 

1)日本国憲法の基本的人権の保障は、権利の性質上日本人のみを対象としているものを除き、外国人にも及ぶ。日本の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動を除いて、政治活動の自由も有する。
 

しかし、2)政治活動ができるとしても、それを在留期間の更新の際の消極的な事情としんしゃくされない保障までも与えられているわけではない。
 

覚えているでしょうか。
 

今回は2)のポイントを確認しましょう。
 

さて、2)のポイントが言っている意味をかみ砕いて言うとこうなります。
 
「あなたが外国人であっても政治活動はできるよ。ただ、政治活動をしたら、あなたの在留期間更新の審査の際、当該政治活動をしたことを、更新しない方向の事情として考慮されても文句は言えないよ。」
 
ということです。
 

「え、それだと外国人は在留期間の更新がされないことを恐れてしまって、政治活動の自由なんて、あってないようなものでは…」と思う方もいるかもしれません。
 

実際にそういう批判もあります。
ただ、判例は上記のように考えているので、試験対策上は、まずは判例の考え方を押さえましょう。
 

以上、3回にわたってマクリーン事件について解説してきました。
重要な判例ですので、しっかりポイントを確認してくださいね。
 

また次回にお会いしましょう!
 


第12回 マクリーン事件 その2

2018.1.10

今回は、マクリーン事件の中身を確認してみましょう。

論点は多岐にわたりますが、まずは、特に大事な「外国人にも、日本国憲法の保障があるか」という論点を押さえます。
 

この論点に関して、マクリーン事件では、
 
 
1)日本国憲法の基本的人権の保障は、権利の性質上日本人のみを対象としているものを除き、外国人にも及ぶ。わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動を除いて、政治活動の自由も有する。
 
 
2)しかし、政治活動ができるとしても、それを在留期間の更新の際の消極的な事情としんしゃくされない保障までも与えられているわけではない(つまり、政治的行為をした場合、そのことを考慮して、在留期間を更新しないとすることも許されます)、と判断しました。
 
 
まず、1)のポイントから確認していきましょう。
 

判例は、権利の性質上日本人のみを対象としているものを除き、外国人にも日本国憲法の保障が及ぶ、と考えた理由を特には説明していませんが、基本的人権は、前国家的(国家ができるより前に、人間として保障されるべきであるということ)なものであるということが理由の1つとして考えられます。
 

外国人に、ある日本国憲法の基本的人権の保障が及ぶかが問題になるときは、この権利の性質から考えるというのが、現在に至るまでの判例の考え方ですので、しっかり覚えておきましょう。
 

次回、2)のポイントについてお話したいと思います。
 


第11回 マクリーン事件 その1

2017.12.26

みなさん、こんにちは。
伊藤塾行政書士試験科 講師の「千葉 穣(ちば みのり)」です。
 

ここまで複数回にわたって、判例の読み方についてお話してきました。
そこで今後は、それを具体的な事例に落とし込んで、皆さんに憲法学習の基本の1つ「判例学習」のやり方を体得していっていただけたらと思います。
 

そこで、適宜具体的な判例に触れて、解説をしたいと思います。
第1回目はマクリーン事件(最判昭53.10.4)です。
 

マクリーン事件は、外国人の人権享有主体性を学習する際には、絶対に触れられる判例です。
当然、本試験においても多数出題実績のある超重要判例です。
 

「人権享有主体性」なんて難しい言葉を使っていますが、要するに外国人にも日本国憲法の人権規定の保障が及ぶのか?という点についての代表的な判例ということです。
 

さて、前置きはこのぐらいにして、事案を確認してみましょう。
 

マクリーンさんは、アメリカ国籍を有する外国人です。語学学校に雇用されることを目的とし、在留期間を1年として、日本への在留が許可されていました。

マクリーンさんは、在留中に語学学校の英語教師として勤務するかたわら、琵琶と琴を習い、ゆくゆくはアメリカの大学でアジア音楽の教授をしたいと志していました。
 

その後、さらに日本での英語教育に加え、琵琶及び琴の研究を継続する必要があるとして、1年間の更新申請をしたところ、出国準備期間として120日間の在留期間の更新のみが認められました。

そのため、マクリーンさんは、1年間の在留期間の更新を再申請したところ、更新を許可しないとの処分(本件処分)がなされました。
 

本件処分がなされた主な理由は、マクリーンさんが政治活動を行っていたということでした。
すなわち、マクリーンさんは、外国人ベ平連(在日外国人が、アメリカのベトナム戦争介入反対等の活動をしていた団体)に所属し、政治活動として、反戦集会に参加したり、デモ行進等を行ったことが問題視されました。
 

マクリーンさんは、本件不許可処分を不服に思い、その取り消しを求めて、訴訟を提起しました。
 

以上長かったかもしれませんが、マクリーン事件の事案はこのような感じです。
普段これだけ長い事案を読むことはないかもしれませんが、小説を読むような感じで事案を読んで、当事者に思いをはせてもらえたらと思います。
 

次回、判例の中身を検討しましょう。
ではまた来年お会いしましょう!
 


第10回 判例学習は、ここに注目!その3(最終回)

2017.12.19

みなさん、こんにちは。
伊藤塾行政書士試験科 講師の「千葉 穣(ちば みのり)」です。
 

今回は先週の続きで判例を学習する際のポイントその3をお伝えします。
 

『判例の言いたいことを考える』
 

裁判で、争いとなっている点が明確になると、当事者は互いの主張をぶつけ合います。
これに対する判断が、判例ということになります。
 

争いとなっている人権がわかると、判例がその人権が制約されたとする主張に対してどのような判断を示しているのかがわかります。

この判例の考えを簡潔にまとめたものが、各テキスト等に記載のある判旨だと思ってください。
 

今回の3つのポイントを改めて振返ってみますと、
 
 
先ずは、「実際にあった事件であることを意識する」
 
そして、「争いとなっている人権を意識する」
 
最後に「判例の言いたいことを考える」。
 
 
でした。
 

判例を読んでも意味がわからないという状況も多々あります。
そんなときは、一度飛ばして、勉強を先にすすめてみましょう。
 

法律の勉強すべてに通じることだとは思いますが、全体を把握することで、知識が身に付き、前にわからなかったことがわかってくることは、受験生あるあるです。
 

何度も繰り返して勉強して、やっと判例の言いたいことがわかってきた、それで大丈夫です。
一度読んですべてを理解できるなんて人はいませんよ。
 

ではまた、次回にお会いしましょう!
 

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