憲法研究会 実施報告

憲法研究会 第10回  実施報告

『武井由起子先生講演会』  
【日時】2019年1月19日(土)14時~17時
【場所】伊藤塾校舎203教室
【参加人数】 18名
 
  目的:「憲法と死刑制度」を知る。   概要:武井先生の講演の後、先生を交えた全体ディスカッションを行い、死刑制度についての知識を高め、様々の考え方を共有した。   詳細と感想  弁護士で「明日の自由を守る若手弁護士の会」所属の武井由起子先生は、福島の原発事故直後に「関東にいては危ない!」と言われ、お子様と地方に逃げ、その際に、無関心だった政治に対して「人に任せていたら子どもを守れない」と感じて、自分で考えたり、政治に声を上げたりしようと思ったそうです。 また、昨年の「オウム真理教13人死刑執行」時には、本気で海外に家族で移住しようと考えたという。この「日本」という国の在り方について、大きなショックを受けたからだ。   「死刑は国家による殺人」=> 戦争と同じ?   世界(約2/3の国)は、死刑を廃止している。   イギリスのエバンス事件:妻と子供の殺人容疑で逮捕された夫が死刑になったが、死刑執行3年後に真犯人が判明し、えん罪と分かった。このことがイギリスでは大きな社会問題となり、死刑廃止のきっかけとなった。   しかし日本では、死刑は合憲   死刑の基準となる「永山基準」:「犯罪予防などの観点から、死刑の選択も許される」   「光市母子殺害事件」:犯行当時18歳になったばかりの少年に死刑判決が確定。被害者の夫が死刑切望の声を上げ、マスコミが取り上げ、世間が注目した。 その後、加害者は無期懲役から死刑判決へ。   憲法と死刑について 13条:生命権、個人の尊重 → 公共の福祉のための死刑は妥当か? 31条:適正手続 それがあれば死刑は可能か?→ そもそも誤審の可能性もある。 36条:残虐刑の絶対的禁止 → 死刑は残虐な刑罰ではないのか? 一般予防・特別予防の見地から残虐でないと言えるか?火あぶりはダメで絞殺なら良いのか? 裁判官は死刑を見たことがあるのか?   9条:戦争放棄 → 戦争とは公権力による殺人である。それを禁止した9条を持っている日本では、同じ公権力による殺人たる死刑は違憲ではないか。   武井先生の講義の後には、以下のような全体討論を行った。   ・現行犯で自認があれば、死刑もありか。 ・死刑以外では罪と罰が一致していない。死刑だけ「殺されたら殺してもよい」と考えてよいのか ・再犯の可能性があるから、死刑か。 ・実質的な終身刑がない日本では死刑がやむを得ないのか。であれば、終身刑があれば、死刑を廃止できるのではないか ・被害者感情を救済する方法として死刑でよいのか。被害者はそれを望んでいるのか。 ・死刑に社会的な抑止力はあるのか。 ・犯罪者に対する「更生プログラム」がないから、再犯率が高くなるのでは。   私自身、「オウムの死刑執行」について、違和感をもっていた。ある種「見せしめ」のような執行で、気分が悪くなった。それは「国」が命の重さを判断するというところで、戦争につながることを意識したのだと思う。人の命を国家が判断する恐ろしさを改めて感じた。 国民はある日突然、えん罪で死刑を宣告されることがあると、自らに置き換えて考えていかなければいけない。そのことが、ある日突然、国家から戦争に行けと言われることを防ぐことにもなるのではないかと感じました。 記:渡辺暁子

憲法研究会 第9回 実施報告  
【日時】2018年12月15日(土)14時から17時
【場所】伊藤塾校舎203教室
【参加人数】18名
 
第9回目は来年度の憲法研究会についての話し合いを行いました。
<テーマ案>
・マイノリティの方について知る
・憲法の基本書をおさえる
・広く一般の方に向けて憲法について知ってもらう活動
・外国人の人権について学ぶ
・民主主義について学ぶ
・他国の憲法を知り、日本国憲法と比較をする
・憲法・個人の尊厳について学ぶ
・相続、婚姻、氏の問題について学ぶ
等々多くの意見が上がりました。全体的に、現在日本で問題となっていることについての知識を深めていこうといったテーマ案が多かった印象です。
また、課外活動に関しては、戦争体験された方のお話しを聞くこと、今年も行った人権プラザに行く事などが上がりました。
 
続いて、憲法に関するイベントの情報共有をしていただき、最近の政治動向について各々の意見を述べ合いました。
大多数の方が来年度の憲法研究会の参加意向を示し、来年度もより一層濃い研究会になると確信しています。

(報告者 磯野由佳)

憲法研究会 第8回 実施報告

【日時】2018年11月17日(土)10時~12時半
【場所】東京都人権プラザ
【参加人数】13名

1.    映画『Lifersライファーズ~終身刑を超えて~』の上映会
2.    研究会メンバーによるディスカッション、人権プラザ職員の方の補足
3.    施設見学、ボッチャ体験

東京都人権プラザは、人権について学べる展示室や資料、人権に関する相談を受け付けている人権啓発のための施設になります。
映画『Lifersライファーズ~終身刑を超えて~』はアメリカで犯罪者の更生プログラムを実施して成果を上げている民間団体「アミティ」の活動についての内容でした。Lifersとは「一生罪を背負う者」として終身刑や無期刑受刑者を指し、そういった凶悪犯罪を犯した受刑者が他の受刑者の手本としての役割を果たしていると言う驚くべき内容でした。上映後は東京都人権啓発センターの職員の方から映画の内容や人権に関連する補足知識をいただきました。
憲法研究会の今期のメインテーマでもある『死刑制度』との関連も深く、また、日本の刑務所のイメージとの大きな違いの驚きなどもあり、研究会メンバーからは様々な意見が出ました。

施設見学では、施設は入り口から奥に行き次第、『気づく』→『理解する』→『体験する』→『交流する』という流れになっていて、人権について詳しく学ぶことが出来ました。
最後に重度脳性麻痺者や四肢機能障害者のために考案されたスポーツのボッチャ(パラリンピックの正式種目)を体験しました。


(報告者:梅澤慎一郎)

第7回  実施報告 【日時】2018年10月13日(土) 14時から17時
【場所】 砂川平和ひろば
【参加人数14名】

  砂川フィールドワーク 報告書   目的:「砂川事件」を知る。 場所:立川駅からバスで10分ほどの自衛隊立川駐屯地北側の「砂川平和ひろば」とその周辺 内容:「砂川平和ひろば」で、館長の「福島京子」さんとご挨拶した後、砂川事件のドキュメンタリーフィルム「草の根の人々」の映画上映30分を拝聴し、簡単な説明の後、事件周辺を説明受けながら歩き、最後に全体を通した交流会を行う。   詳細と感想:(判例 報告者要約編集) 館長の福島さんは、砂川町基地拡張反対同盟の代表者であった「宮岡政雄」氏の次女である。 宮岡氏が、基地拡張計画中止後にすぐに一部宅地に転用した(再び基地計画が浮上しないよう、都市計画ができるように)その場所にある、砂川事件の資料館「砂川平和ひろば」とその周辺を一緒にまわりながら、丁寧に解説してくれました。    砂川事件とは、立川米軍基地内の滑走路の延長に伴う基地拡張計画に対する地元住民らの反対運動の過程で起きた、反対派による基地不法侵入を問う事件である。   基地に立ち入った基地拡張反対派7名が「刑事特別法第2条」違反の容疑で起訴される  ※刑事特別法第2条:正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域であって、入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、1年以下の懲役又は2千円以下の罰金もしくは科料に処する   東京地裁での1審では、無罪となった(伊達判決)。  判決:憲法9条は「自衛権」を否定しているものではない(自衛権は認めている)が、憲法は自衛のための我が国の指揮管理下にない戦力の保持を認めていない(合衆国軍の駐留は違憲)。 刑事特別法は無効。   しかし、高等裁判所をすっ飛ばして「跳躍上告」で行われた最高裁判決では破棄差戻しとなり、最終的に逆転有罪となった。  判決:わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとりうることは、国家固有の機能の行使として当然のことといわなければならない(自衛権は認める)。憲法9条2項がその保持を禁止した戦力とは、我が国が主体となってこれに指揮権、管理権を行使しうる戦力を言う(駐留している合衆国軍は「戦力」にあたらない。反対解釈)。合衆国軍の駐留の根拠となっている日米安保条約の憲法適合性は、高度な政治性を有するので司法判断はなじまない(判断回避)。主権を有する国民の政治的批判に委せらるべきものであると解するを相当とする(国民の判断に委ねる)。   福島さんのお話しでは、日米安保条約に向けた動きから、アメリカ政府と日本政府が相当な圧力をかけたとのこと。さらに、当時最高裁長官であった田中耕太郎氏は、判決前に、米国大使館に何度も通い、事件について説明し、判決の見通しを説明していたことが、のちに判明している(「司法の独立」が崩壊した歴史上の汚点)。   その後、立川米軍基地拡張計画は中止となり、基地自体も米軍から全面返還(自衛隊利用へ)となる。この返還は1970年代の関東計画によるもので、関東地方の基地が再編され、6つの基地は返還され、横田基地に集約された。一方沖縄においても整理、統合計画が検討された。  
基地内の民有地返還訴訟においては、基地内地権者が政府の和解案に応じることとなった。
福島さんは、「宮岡政雄は、この民有地返還訴訟は沖縄の基地問題を見据えた闘いと捉えていたので、「和解」という結果は沖縄に繋がる闘いが途絶えたことでもあり、その点では残念な結果であった。しかし直前の「長沼事件」の判決結果から判断すると、厳しい判決が出ることも予想され、宮岡自らが基地内民有地の地権者ではないこともありやむ得ない結果であった。日本政府としては、「和解」であっても勝利を意味するものであった。「和解」は、沖縄に続く道を閉ざしたことを意味するものであった」
とおっしゃっていました。
  当時の拡張予定地は、防衛施設庁から財務省管轄になったが、いまだ空き地(雑木林・荒地)となったまま。周辺に宅地の少ないこの自衛隊基地に、今後オスプレイが配備されるのではないか、と危惧していた。    福島さんのお父様である反対派の代表、宮岡氏は江戸時代から続く「普通」の農家だったという。福島さんが幼少のときはその姿を見てきたが、この米軍基地拡張の計画を聞いた次の日に、宮岡氏は「六法」を買ってきたという(平和ひろばに資料あり)。そしてボロボロになるまで、読み込んでいたという。 映画フィルム内の闘争の様子では、「非暴力」「不服従」の闘いを徹底するために、反対派の地元農民や学生や支援者が、互いに腕を取り合って、武装警察隊の測量の行く手を阻止しているのが印象的でした(しかし衝突はあり、1200名ほどの負傷者を出す)。   そして、近年、安倍政権では、あの「安保法制」の集団的自衛権の合憲性を、この「砂川事件」の最高裁判決を根拠にしている。しかし、上記のとおり、最高裁の判決では「自衛権は認めるが、日米安保条約については高度な政治性により、司法の判断はできない」としているだけである。しかも、明らかに日米の政府の圧力がかかった裁判であった。ムリがありすぎる。   福島さんは、ただ平和を願って、また、この地を住民のための有意義な場所にしたい、という思いであふれていました。昔も今も、遠い沖縄の基地問題までも、気にされていました。また、このような闘争で一番ストレスになるのは、地元住民が賛成派・反対派で分断されること、とおっしゃっていました。いまでも、その名残はあるという。   福島さんの闘いは、まだ続くのかもしれません。(オスプレイ配備など) 広く、この砂川での闘争の本当の意味が、伝われば良いと思いました。  
記:渡辺暁子

第6回  実施報告 【日時】2018年9月22日(土) 14時から17時
【場所】 伊藤塾校舎203教室
【参加人数】14名
 
死刑制度検討チームの2回目の発表でした。
死刑制度の存否について、
死刑制度検討チームメンバーが、死刑反対派・死刑存置派に分かれて、
進行役 井川先生で、下記の論点について話し合いました。
 
1 死刑制度は合憲か違憲か。
2 死刑の存廃について世論や国民感情を考慮すべきか。
3 死刑に犯罪抑止力があるか。
4 被害者(遺族)の感情の鎮静ために死刑は必要か。
5 凶悪犯罪者の再犯の可能性を除去するために死刑は必要か。
6 誤判の可能性は、死刑廃止の根拠になるか。
7 死刑廃止の世界的潮流を考慮すべきか。
8 死刑の非人道性について。
9 終身刑の態様について(相対的終身刑と絶対的終身刑)
 
山田先生・野村先生・柳下先生・石井先生・
磯野先生・倉本さん・木寺先生・関根さんより発言がありました。
 
以上オープンエンド形式でディスカッションいたしました。
 
報告者 新保健介
 
 
 

 第5回 実施報告
【日時】 2018年8月25日(土) 14:00~17:00
【場所】 伊藤塾校舎203教室
【参加人数】 17名
 
死刑制度検討チームの1回目の発表でした。死刑制度の存否は憲法、刑法等の法律以外に個人的な感情、倫理観、道徳観、宗教観にかかることが多く、議論が広がりすぎる恐れがあるため、まずは死刑制度についての前提知識の講義を野村先生にしていただきました。そして憲法の考え方、判例の考え方、それに対する疑問等を井川先生に発表していただきました。最後に死刑制度班メンバーから、死刑制度に、論点ごとの意見ではなく、賛成か反対か、その主な理由は何かを制限なく簡単に話してもらいました。また講義の前に憲法研究会の参加メンバーに、死刑制度存続に賛成か反対かを挙手にて聞いてみたところ、賛成5人、反対11人であったところ、講義後は賛成3人、反対11人、どちらか分からない3人となりました。次回は論点ごとに一人ずつ意見を述べていく形式で、死刑制度の存置派、廃止派に分わかれてのディスカッションを行います。
 
報告者:柳下昌紀

第4回実施報告書
【日時】 2018年7月21日(土)
【場所】 伊藤塾校舎203教室
【参加者】 11名
 
第4回は憲法改正問題検討チームの第2回発表で、テーマは「日本国憲法の改正条文案について」でした。
同チームは今年の3月に報道された自由民主党による日本国憲法の改正条文案(※)を各自が自由に調査・検証し、最終的にそれらの採否についての意見を各自が自由に形成・発表し、知見を深めるとともに、他者の意見を共有することを目的としました。従って、それら改正条文に関する意見を一つにまとめることは目的とはしませんでした。また、途中の検証過程や最後の発表機会に於いては自由に質問や意見を述べることとしましたが、その際は丁寧な言葉づかいと建設的・論理的な態度を旨とし、主観的・感情的な態度は厳に慎むこととしました。
(※)自由民主党の日本国憲法改正条文案具(体的な条文案は文末に掲げます)

1. 自衛隊の明記
2. 緊急事態条項
3. 合区の解消
4. 教育の無償化
各自は、それぞれが任意に選んだ改正条文案に関する意見を「1.規範の定立:各条文案が扱う分野において、どのような理念を実現すべきと考えるか(以下、「規範」)」、「2.事実の検証:各条文案の採用によって、どのような変化が発生すると考えられるか(以下、「事実」)」、「3.結論:各条文案の採否とその理由(以下、「結論」)」の3段階に分けて形成し、以下のとおり発表しました。

1.自衛隊の明記
この条文案を調査して意見を寄せて頂いたのは6名で、いずれも「結論」としては改正案を「否」とするものでしたが、その「結論」に至る「規範」、「事実」には異なりがみられました。
まず、「規範」については、「憲法の条文は内容が明確であるべきで、更に条文が帰属する章の表題や関連する国際法とも整合するものでなければならない」という点は概ね一致していましたが、日本は9条によって「一切の戦争を放棄している」か、あるいは「自衛のための戦争は放棄していない又は放棄すべきではない」という意見に分かれました。そして「事実」については、当該改正案(9条の2)はその1項前段(「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な」)が拡大解釈される可能性、武力行使の対象や目的に実質的な制約が課されなくなる恐れを指摘する意見、同後段(「そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊」)が現行の9条2項を死文化させる、自衛隊への法律による統制に支障を来す、同2項(「自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」)が、法律の留保を認め、期限の設定もないことから、同項に基づく国会による自衛隊統制は実質を伴わないのではないか、と評価する意見が多く述べられました。「結論」は冒頭に述べたとおり、いずれも改正案・9条の2を「否」とするものでしたが、その理由として、「9条の掲げ絶対平和主義と矛盾する」、「結果として侵略戦争を招きかねない」、といういわゆる平和主義・戦争放棄貫徹の立場からの立論と、「首相権限の過度な拡大により全体主義を招きかねない」、「自衛隊の統制が実質的に内閣総理大臣のみに委ねられかねない」という三権分立堅持の立場からの立論が為される一方で、「9条の2を追加するのではなく、現行9条の第2項を修正して自衛のための戦争は行うことが出来るという趣旨を明記すべき」という自衛戦争容認の立場からの立論も為されました。
これらの発表に続いて、発表者を含む参加者から意見や質問が活発に交わされました。特に、「自衛権を保持すること」と「自衛戦争を戦えること」の違い、日本は自衛権を保持しているとしても、その行使に際しては『戦争又は武力の行使・威嚇』を専らの手段と考えるか、それら以外の『外交』、『取引』その他の手段を考慮・優先すべきと考えるかについて意見が交わされました。また、自衛隊の実力についても「今日の世界情勢に照らせば増強は不可欠」、「外交や取引を優先させるとしても、その背景に相応の実力を具備していることが交渉を有利に進めるうえで不可欠」という意見に対し、「軍拡には終わりがなく、究極において日本が軍拡競争に勝てるとは思われない」、「今日の武器市場に照らせば増強は不経済」等の理由から、自衛隊の実力増強に否定的な意見も出されました。そのうえで、日本国憲法は国に対して国民の基本的人権である生命、身体、自由、財産その他の保護や侵害排除を義務付けていると考えられることから、仮に他国の武力行使等によりそれら基本的人権が侵害されるときに傍観することは許されないはずと言う点では異見なく、その意味では国民の基本的人権の保護と言う目的を実現する手段の採否に関する意見の違いであるということも確認されました。

2.緊急事態条項
この条文案を調査して意見を寄せて頂いたのは4名で、うち3名の「結論」は改正案を「否」とするものでしたが、1名の「結論」は改正案自体は「否」としつつ、然るべき修正を加えて同趣旨を日本国憲法に追加すべきという意見。また、その結論に至る「規範」、「事実」についても上記「1.自衛隊の明記」に比べて多様な意見が述べられました。
まず、「規範」については、憲法13条に基づいて国民の生命、身体及び幸福追求の権利は守られるために、国は最大限の努力をしなければならないと言う点に異議はなかったものの、それとの関連で「緊急事態においては迅速な対応が図られるべき」、「緊急事態下においては指揮権の所在が明確であるべき」という意見に対して、そのような場合でも「個人の権利は決して簡単に制約されてはならない」という意見もありました。そして「事実」については、条文案は「事態発生の判断が内閣のみに委ねられてしまっている」、「事実上、内閣総理大臣の専権拡大に歯止めが効かなくなる」という三権分立論に基づく意見、「内閣が制定する政令について、目的のみを明記して制約を記載せず、かつその内容を法律による留保に委ねてしまっていることから、結果的に無限定となりかねない」、同じく「内閣が制定する政令について、国会による承認を義務付けているものの、時限設定や不承認の際の効果の記載が無いことや、我が国司法が付随的審査制や統治行為論を採用していることから、国民救済が遅延し、結果的に回復不可能となりかねない」という基本的人権尊重論からの指摘もありました。これらをうけた「結論」では、改正案自体は否定するが、国会事後承認の期限と不承認の効果を補充する修正を施したうえで同旨改正案は考慮されるべきという意見と、これらについては法律が相当に整備されており、今後も憲法を改正せずとも条例や法律で対応可能であるため同旨改正案は不要とする意見に分かれました。
このような発表を受けて、発表者、参加者双方から活発な質問や意見が交わされました。そこでも緊急事態に迅速的確に対処して国民の生命、身体が保護されなければならない目的に異議は示されなかったものの、「そのような場合に、指揮権を中央に集中させるのではなく、逆に地方に分散させることのほうが肝要」と言う意見や、「そのような場合に、既存のルールを無視して一部の人間の裁量に委ねるのは危機管理策として逆行しているのではないか。そうではなくて、危機管理に備えたルールを不断に見直してゆくことこそ肝要」との意見もありました。
なお、この緊急事態条項に関しては内閣の政令制定権と共に国会の議員任期延長権の創設も盛り込まれているが、こちらについては時間の関係で議論はあまり行われませんでした。但し、事前に述べられた意見は、国会議員の任期延長は議院の自律権の外にあると考えられること、参議院の緊急集会制度との関係が整理されていないことから、公務員任免権と言う国民の基本的人権を制約するだけの合理性に欠けるとして、同改正案を否定するものでした。また、いずれにせよ、このように行政や立法の権能を強化するのであれば司法の権能も相応に強化、例えば“非付随的違憲審査権”も認めてゆくべきではないかとの意見も述べられました。

3.合区の解消
この条文案を調査して意見を寄せて頂いたのは3名で、いずれも「結論」は改正案を「否」とするものでしたが、その結論に至る「規範」と「事実」については若干の相違がみられました。この項目についての各人の意見の流れは以下のようなものでした。
まず、「規範」については、地方自治を中央集権に対する権力分立の一態様であって、地方の意見は国政に反映されなければならないという点に異議がありませんでした。但し、そこから派生する規範を、国会議員と国民との関係を「命令委任」ではなく「自由委任」であることに基軸を置く意見と、国会議員は人口動向に従って選出されるべきであると共に、将来世代に対する負担を徒に増やすべきではないことに基軸を置く意見が述べられました。前者の立場からは、「事実」として改正案が地方自治体を「広域」と「基礎的」に二分してしまっているとしたうえで、「結論」として、そもそも国会議員は「自由委任」によって活動するのであるから、そのような区分は不要であること、地方に対して選挙区を保障することで逆に国による地方に対する支配が強くなりかねないとして改正案は不要とします。一方の後者の立場からは、「事実」として、おりしも国会で可決成立した参議院の議席数を6議席増やす法案は人口動向と整合しないとしたうえで、「結論」として、将来世代の負担増加に繋がりかねない同法案を支持せず、この改正案は採用されるべきではないとするものでした。

4.教育の充実
この条文案を調査して意見を寄せて頂いたのは2名で、いずれも「結論」は改正案を「否」とするものでしたが、残念ながら時間の関係でこの項目については発表、議論共にできませんでした。
なお、寄せられた意見としては「規範」として教育は学校だけでなく家庭においても行われなければならないとし、「事実」として改正条文案は行政の負担が過大なものしかねないとしたうえで、「結論」として、改正条文案が意図する大学の一律無償化は不要と述べています。また、もう一つの意見は「規範」として憲法改正は十分な必要性と妥当性に基づくべきとし、「事実」として改正条文案は政府の履行義務と努力義務の関係が整理されていないことから妥当性を欠き、更に「高等教育の無償化」は現行憲法に於いて禁止されていないことから改正の必要性もないと述べています。それらに基づいて「結論」として、同改正条文案を採用すべき理由が見当たらず、改正は不要としています。
時間の関係で「3.合区の解消」と「4.教育の充実」については発表や議論はあまりできませんでしたが、「1.自衛隊の明記」と「2.緊急事態条項」については、相応に議論が展開し、各自がそれぞれの分野に関する「知見を深めるとともに、他者の意見を共有する」という所期の目的は十分に達せられたと思います。

次回第5回は8月25日(土曜)14:00から、死刑制度検討チームによる第1回発表です。
以上

第3回実施報告 【日時】 2018年6月16日(土) 【場所】 伊藤塾校舎203教室 【参加者】 15名   第3回は憲法改正問題検討チームの第1回発表で、テーマは「日本国憲法の制定過程についての検討」でした。 同チームでは日本国憲法の制定過程をそれぞれが自由に検証し、最終的に日本国憲法制定過程に「日本国憲法は“押し付け”られたのか?そしてそれゆえに日本国憲法は改正されるべきか?」という命題について、各自が意見を形成・発表し、知見を深めることを目的としました。従って、必ずしも真実を発見することやチームとして意見を一つにまとめることは目的とはしませんでした。また、途中の検証過程や最後の発表機会に於いては自由に質問や意見を述べることとしましたが、その際は丁寧な言葉づかいと建設的・論理的な態度を旨とし、主観的・感情的な態度は厳に慎むこととしました。 当日の発表は、全体を「1.規範の定立」、「2.事実の検証」、「3.結論:規範を事実にあてはめ」の3段階に分けて進めました。 「1.規範の定立」では“日本国憲法の制定過程においてどのような事柄があれば“押し付け”があったと言えるか“について、各自が規範の定立を試みました。主な意見は、「日本国憲法制定当時の連合国と日本国は対等な関係でなかったのだから、制定された憲法の内容に関わらず“押し付け”があったことは明らか」、「日本国に拒否権が無かったのだから“押し付け”があった」、「起草過程及び修正過程の双方に日本国の関与が無ければ“押し付け”があった」、「日本国の自由意志の有無と連合国の強権的要素の有無の比較衡量による。前者が後者を下回れば“押し付け”があった」、そして「日本国の意思に反して日本国憲法が制定され、連合国が不当な目的又は手段(武力による威嚇又は武力の行使)を以て具体的な害悪を告知して日本国に畏怖を生じさせ、それにより日本国は義務が無いにも拘わらず日本国憲法を制定させられた、あるいは日本国の権利行使が日本国憲法の制定により妨害されたのであれば“押し付け”があった」というものでした。 これに対し、「当事者間に対等な関係が無かったとしても、あるいは他方に拒否権が無かったとしても、両者の間の行為が全て“押し付け”になるとは限らないのではないか。」その他の意見が出されました。 「2.事実の検証」では、独立行政法人国立公文書館『平成29年春の特別展 誕生 日本国憲法』2~25頁と衆議院憲法調査会事務局『衆憲資第2号 憲法制定の経過に関する小委員会報告書の概要』1~88頁を基礎資料として、日本国憲法の制定過程を「第1期 ポツダム宣言受諾(1945.8.14)から松本案の成立(1946.2.2)まで」、「第2期 マッカーサー・ノートの提示(1946.2.3)から総司令部案の成立(1946.2.10)まで」、「第3期 総司令部案の交付(1946.2.13)から草案の議会提出(1946.6.20)まで」、「第4期 衆議院での審議(1946.6.21)から日本国憲法公布(1946.11.3)まで」の4期に分けて事実を検証しました。 調査結果は、ポツダム宣言を出発点として、松本案、当時の政党や民間団体の改正試案、総司令部案、日本国政府と連合国総司令部との間の質疑と修正、衆議院での質疑と修正、貴族院での質疑と修正、それぞれの内容とその変遷を追い、その過程で1946年3月7日に公表された日本国政府の憲法改正草案要綱に関する、外務省調査による政党、財界、学界、新聞各紙の反応、毎日新聞調査による世論動向、及び1946年4月10日に実施された衆議院総選挙における各政党の選挙公報の記載内容と選挙結果、及び日本国憲法制定の前後において極東委員会や米国政府(国務・陸軍・海軍三省協同委員会)が示達した方針や条件その他を含めていました。 そこでは、1946年3月7日に日本国政府の憲法改正草案要綱が公表される前に示されていた松本試案や一部の政党の改正試案と同要綱との間には相当の懸隔があったにも拘わらず、同要綱が公表されて以降は制定手続きに異議を唱えた一部の枢密院顧問官や起草が日本人の手に依らなったことに関してナショナリズム的な見地から異を唱えた一部の貴族院議員及び天皇制廃止を主張した一部の政党を除けば根本的な反対はなかったように見えました。一方で、衆議院選挙における各党の主張の中心は必ずしも憲法問題ではなく、当時の生活問題であったことや選挙に先立って公職追放やあるいは戦時中に拘束されていた政治犯の釈放等が行われていたことなども説明されました。 「3.結論:規範を事実にあてはめ」では、チーム各自が上記「1」と「2」に基づいて意見を説明し、参加者からの質疑が行われました。そこでは、「日本国憲法の制定に際して、連合国が一定の言論統制を敷いていたと言われており、やはり“押し付け”があったことは明らかではないか」、「日本国憲法草案の国会審議の過程で、9条1項及び2項の修正があり、25条の生存権規定など重要な条項が追加されていることから、日本国憲法の制定過程に日本国の自由意志が反映されていなかったとは言えず、“押し付け”であったとまでは言えないのではないか」、日本国憲法の制定の前後に於いて、日本国の平和を願い国民の総意との懸隔は認められないので少なくとも国民に対しては“押し付け”があったとは言えないのではないか」、「帝国憲法下の人権は天皇主権のため「臣民権」であり、法律の範囲内においての保障、権力分立制はあったが最終的には天皇の大権であり意味がないものであったが、ポツダム宣言の受諾や降伏文書への調印によって国際標準の自然権としての憲法の目的である人権保障を基礎とする改正を求められ、選挙による特別議会が審議した草案可決、国民の自律的決定に基づき制定されたものと言えるため、押し付けではないと考えるのが妥当ではないか」との意見が述べられました。また、憲法草案の国会審議には十分な時間の確保と実質的な修正も実現していたこと、連合国総司令部の関与によって日本国が一定の畏怖を感じていたとしても同司令部の関与の態様と根拠に違法性や不当性はないこと、日本国憲法の制定(帝国憲法の改定)はポツダム宣言や降伏文書に由来する日本国の義務であったと言えなくはないと思われることから、“押し付け”があったとはは言えない」という意見もありました。 これらに対して、「その後の経過を見ても日本国民に対して“押し付け”があったとは言えないかもしれないが、少なくとも日本国政府に対する押し付けはあったのではないか」、「当時の世論調査結果や新聞論調などは、それらが連合国総司令部の言論統制下にあったことを考慮すれば、必ずしも国民の真意を表しているとは言えないのではないか」との意見も出された一方で、「当時日本はポツダム宣言を受諾し、降伏文書にも署名していたのであって、それらの中で掲げられていた条項を遵守するため、あるいは日本国に遵守させるための相当の関与であれば、そこに不当性も違法性もなく“押し付け”があったとはいえないのではないか」との意見も出されました。この点に関して更に、「押し付けの有無と内容の当否に照らして改正の要否を整理すると、結局、改正の要否は内容の当否に左右され押し付けの有無には左右されないのではないか」、「起草者が誰であったかということは、制定過程における“押し付け”の有無とは関係が無いのではないか」との意見も出されました。 「2.事実の検証」の説明の時間が長引いたことと「3.結論:規範を事実にあてはめ」において質疑が活発に行われたことから、14時に始まった会が終わったのは予定を若干上回る17時過ぎになるなど充実した内容で、参加者がそれぞれに日本国憲法の制定過程に関する知見を深めるという所期の目的は達せられたものと思われます。

次回第4回は7月21日(土曜)14:00から、今回と同じく憲法改正問題検討チームによる第2回発表で、テーマは「日本国憲法の改正条文案について」で、自民党改憲条文案(※)の内容は適切か?命題として採り上げる予定です。 (※)自由民主党憲法改正推進本部が2018年3月22日に明らかにした改憲4項目

報告者:藤井輝久
 

 第2回 実施報告

【日時】  2018年5月19日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】14名

はじめに、野村政史先生より、芦部信喜著『憲法』に基づく「憲法総論」の講義、続いて2012年に発表された「自民党憲法改正草案」の特徴について、現行憲法との比較表を用いた解説が行われました。参加者は熱心に耳を傾け、活発な質疑応答も行われました。
続いて、憲法に関するイベントや映画の上映会に参加してきたメンバーから、内容の紹介がありました。
最後に、本年度の研究テーマである「憲法改正」と「死刑制度」それぞれの班に分かれて、発表の打ち合わせを行いました。次回からいよいよ、各班による発表が始まります。第3回と第4回は「憲法改正」班の発表です。
(報告者 井川水史)

第1回実施報告

第1回実施日:2018年4月21日(土)

今年度第1回目の研究会ということもあり、まずは企画者、企画班各人のあいさつ、研究会参加者の方々にも各人自己紹介をいただきました。参加者は企画班含め16名でした。
参加者の中には昨年度から引き続きの参加をされている方々もいて、自己紹介の中でもそれぞれ研究会に対する要望、自身が憲法を学ぶ意義など、自由闊達な意見が述べられました。
続いて、今年度の活動予定などを大まかに説明し、昨年度の参加者に、昨年各回の実施報告をしていただきました。そのうえで、参加者全体に「憲法改正」と「死刑制度・えん罪」というテーマごとの班に分かれてもらい、テーマへのアプローチを含め、各回の進行を話し合ってもらいました。
テーマごとの2班では、それぞれグループリーダーを決め、リーダーを中心に、様々な意見交換がされていました。
次々回以降、まずは「憲法改正」班から、グループごとの発表を行う運びとなります。

報告者:飯塚知恵



 

【2018年度 憲法研究会オリエンテーション】 
【開催日時】2018年3月24日(土)14時~16時

 桜が見ごろの季節の中、2018年度憲法研究会オリエンテーションを開催致しました。
 はじめに、この研究会を立ち上げた理由、研究会の目的について説明しました。
 私がこの研究会を立ち上げたのは、秋桜会に入会して、憲法自主勉強会に参加した事がきっかけとなり、
①憲法を学び続ける場として②会員同士の交流や人脈づくりの場として③行政書士として憲法の正しい知識を社会に伝えていく。この3つの目的を達成したいと思ったこと、その思いが「憲法研究会」という形となり、会の運営にご協力くださる多くの方の支えによって、昨年度の活動を無事に終えることが出来た旨をお話させて頂きました。  
 そして、今年度は『行政書士試験合格後こそ憲法を学ぼう~憲法「改正」が現実実を帯びるいま~』をメインテーマとし『憲法改正・死刑制度』について、今年度の座長である飯塚先生からお話して頂きました。
 飯塚先生は、大学ご卒業後、10年以上法律事務所で働いていらっしゃるご経験の中で、『街の身近な法律家』と銘打たれた私たちには、憲法や法律について学び続け、知識、見識を深め、社会に還元し発信する責務があるのではないか。行政書士は多種多様な経歴を持った方が多い。きっと研究会に参加される方々お一人お一人に異なったバックグランドがあり、目指すべき行政書士像があるのではないか。この研究会を自由な意見が闊達に交わされる場にしたい旨をお話してくださいました。
 続いて、今年度も引き続き企画班メンバーとして、運営に携わってくださる 井川先生より昨年度の活動報告をして頂きました。研究会に参加した方々の声を代読され、実際に参加した3名の方も登壇し、それぞれが憲法研究会に参加した動機や、憲法に対する熱い思いを語ってくださいました。  
 後半は、本年度のメインテーマである憲法改正について、司法書士の野村政史先生より自民党憲法改正草案の特徴、9条改正案や緊急事態条項について等、最新の情報を取り入れた詳しいレジュメに沿ってご説明頂き、飯塚先生からは、死刑制度について本研究会ではどう捉えていくかという説明がありました。  
 そして最後は、昨年同様、実務講座の講師でもある山田健太郎先生によるミニ講義でした。憲法について行政書士としての考え方、関わり方、またいかに説明できるかが大切であること等について、ご自身の実務経験談もまじえて、ご講義くださいました。  
 このオリエンテーションを通じて、秋桜会会員規約第2条の『本会は、世界の幸せを増やすために憲法価値を実現する人の育成に貢献する。』という会の理念を大切に活動している本研究会の思いを伝えることが出来たのではないかと思っています。今年度も、昨年以上に充実した研究会になることを期待しています。  
 オリエンテーション終了後、さっそく懇親会も行われ、既に研究会に申込をした方、参加ご検討中の方との親睦を深めることができました。今年も熱い研究会になりそうな予感のする懇親会でした。
 オリエンテーションに参加できなかった方でもお申込できます。 皆さんのご参加を研究会メンバー一同、心よりお待ちしています。
(文:関根泰子)