第31号 難民と教育 ~ミャンマー出身者に対する「日本語教室」の取組み~
堀越 貴恵 東京大学 寄付講座「難民移民(法学館)」スタッフ
日本語教育は、一般に日本語を第一言語としない人に対して(つまり第二言語として)行われる日本語の教育として認識されていますが、この第二言語としての日本語教育は、二つに区別することができます。
一つは JSL(Japanese as a second language)教育と呼ばれる、主に日本国内で第二言語として日本語を学習するもの、もう一つは JFL(Japanese as a foreign language)教育と呼ばれる、主に国外で外国語として日本語を学習するものです。
国際交流基金が発表する日本語教育機関調査(2012 年度)によると、国外で日本語教育を実施している機関は約 1 万 6,000 箇所、日本語学習者は約 399万人とされており、この数値は 2009 年度に比べて機関数は約 1,000 箇所、学習者数は約 33万人増加したことを意味しています。
この調査では、日本語学習の主な目的は「日本語そのものへの興味」、「日本語でのコミュニケーション」、「マンガ・アニメ・J-POP が好きだから」が上位を占めていました。
では日本国内で実施されている日本語教育はどうでしょうか。
文化庁発表の日本語教育実態調査(2013 年度)によると、国内の実施機関は約 2,000 箇所、学習者は約 16 万人とされています。
この数値によれば、前年度に比べて機関数は約 30 箇所減少し、学習者数は約 1 万 7,000人増加したことになります。
都道府県別に見てみると、いずれも東京都が最多となっており、約 300 箇所、約 4 万 8,000 人とされています。
法務省による在留外国人統計(2013 年 12 月末)によると総在留外国人数は約 230 万人ですから、約 7 割の外国人が、すでに日本語を学習していないことになります。
これら日本語を学習していない外国人に関して、その実態については上述した数値からだけでは読み取ることができません(これまでに日本語の学習経験がまっ たくないのか、または短期的な学習経験はあるのか。独学か、または日本語教室等で学習した経験があるのか。日本語学習経験者の場合には、日本での滞在年数 の高い人なのか、日本に来て間もない人なのか、など。)。
それでは、国内で日本語を学習している目的は何でしょうか。
この点について上述した調査では明らかにされていませんが、同庁による「日本語に対する在住外国人の意識に関する実態調査」(2001 年度)では、生活面での向上を目的とした学習が示唆されています。
このほか、日本語教育を行う団体等によって、地域の人々との交流、生活に必要な日本語を学ぶことなどを目的として活動していることから、日本における生活で抱えている問題を解決するために、日本語を学習しているように見受けられます。
ここからは具体的に、これまでご紹介してきた日本語教室の参加者に目を向けてみましょう。
この教室の参加者には、難民も含まれています。
難民である場合には、この教室で学習する以前に日本語を学習した経験があることになります。
この教室参加者から日本語を学ぶ目的を聴いたところ、日本語を習得することで新たな職業にも結びつく知識や技術を日本で身につけたい、という考えをもっており、その先には日本で身につけたことをミャンマーで活かしたい、という声もありました。
難民であることあるいは外国人であることによって、日本語教育の機会や日本語習得の難しさに違いは見られるのでしょうか。
また、日本語を母語としない日本語学習者にとって共通する課題とは何でしょうか。
この教室参加者からは「職場は日本語を話さなくても済む環境である」という声を聴くことができました。
この教室に参加する以前に、文化庁から事業委託された機関で日本語習得の機会を得てきた人もいれば、他の団体やボランティア等を通じて日本語を学んできた人もいます。
ただ、継続的な学習を経てきたかといえば、そうではないことも窺えます。
この点については、仕事と日本語習得との関係性を踏まえつつ、次回以降も引き続き考えてみたいと思います。
ご紹介した日本語教室ではこれまでに、ひらがなの読み・書き、カタカナの読み・書きの学習を終え、8 月初頭には実際に暑中見舞いの葉書を書いたうえで、自分で郵便ポストに投函する、といった日本の風習にもふれた学習が行われました。
現在(8 月 31 日時点)は、漢字の学習が始まったところです。漢字の学習にあたっては、漢字検定 10 級の対象漢字数 80 字の習得を目指して取り組んでいます。
希望者は、来年の 1 月に実施予定の漢字検定を受けることにもなっています。
次回以降は、引き続き日本語教室の様子をお伝えするとともに、日本語教育の機会や学習経験について、仕事との関係性を踏まえつつ、難民の子どもの教育問題についても考察を広げていきたいと思います。
伊藤塾塾便り229号/HUMAN SECURITYニュース(第31号 2014年9月発行)より掲載