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Vol.03 人権活動家 土井 香苗先生

国際人権活動家・土井香苗さんが語る「法律で世界を変える方法」

Profile

所属:国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
専門分野:国際人権法、人権アドボカシー、法制度改革、国際法務
主な実績:エリトリア国にて法制度構築支援、児童福祉法改正、LGBT理解増進法制定、国連北朝鮮人権調査委員会設置への貢献

法律家を目指したきっかけと人権活動の原点

Q: 法律家を志した理由を教えてください。

司法試験の勉強を始めた当時は、法律家になる気はあまりありませんでした。司法試験に受かった後、やっと弁護士の方々と知り合いになったのですが、そのときにたくさんの人権派弁護士の方々と知り合いになって、その人たちにとても憧れたというのが法律家になりたくなった理由です。

Q: どういうところに憧れたのでしょうか?

もともと弁護士のイメージが私の場合はそれほど良くはありませんでした。社会で困っている人を助けるというイメージがあまりなく、どちらかというと社会で成功している人といった印象を持っていました。
ただ、人権派弁護士の方々に会って、「こんなに社会で困っている人たちを助けることができる仕事なんだ」ということを初めて知り、すごく感激しました。

Q: 人権活動に関心を持ったきっかけを教えてください。

私が人権活動に出会ったきっかけと言えるのは、中学3年生の頃、ある本を読んだことがきっかけです。
それは、犬養道子さんという方が書かれた『人間の大地』という本で、アフリカやアジアの難民キャンプを彼女が訪れて、難民たちに出会ってその現状を書いた本なのですが、その難民キャンプの現状にすごくショックを受けたのがきっかけだったのを覚えています。

Q: その『人間の大地』はたまたま手に取った本ですか?

『人間の大地』は中学3年生の頃に学校の先生が授業の副教材として配ったものでした。プリントで10ページぐらいだったと思います。
その内容にすごく衝撃を受けて、学校の図書館にその本自体を借りに行って、全部読んだ記憶があります。

Q: その衝撃を受けて、どうしたいと考えましたか?

もともと国際的なことに興味があったのですが、ただ、国際的であればいいということではなく、難民たちが生まれるその原因、そういった人道危機や人権危機を解決するのに何らかの貢献ができる仕事がしたいと思うようになりました。
でも、そのときはこれだというのはわかりませんでした。あまりロールモデルがいなかったと思います。当時、緒方貞子さんが国連難民高等弁務官だったのですが、強いて言えば彼女のような人に憧れていました。ただ、あまりにも偉い方だったので、すぐに彼女を目指すという感じではありませんでしたが、そういった国際的な人権危機、人道危機に何らかの形で解決に関わりたいと思いました。

土井先生01

人権弁護士としての志と法律家の役割

Q: 土井先生の志は、端的に言うと何ですか?

世界中全ての人の尊厳が守られる世界をつくることです。

Q: その志は中学の頃から大きくは変わってないですか?

そうですね。志は一直線です。もう30年、同じ志でぶれずに生きていますね。

Q: 中学のときにそういう志を持つのはすごいですね。

『人間の大地』に出会えたことは運がよかったと思っています。こういう志を持つことは少なくないと思うのですが、現実の中で志とは違う仕事に就かざるを得ない方は多いと思います。
今では、少なくとも日本国内の人権問題や社会問題を解決するために、法律家が役割を果たすということは、ある程度は認識されていると思います。ですが私は当時、その点の認識が足りませんでした。また、国際的な危機まで解決するために、実は法律家が最短ルートの一つだということは、当時も今も日本では認識されていないのではないでしょうか。
私の場合は偶然司法試験に合格しており、そして偶然にも志を実現するのに法律家という職業が本当に最短ルートだったのです。

伊藤塾での司法試験勉強と憲法との出会い

Q: 司法試験の勉強をするきっかけと、伊藤塾での経験について教えてください。

講義で、初めて憲法について学びました。そして学んでみてその素晴らしい内容に本当に驚き、興奮しました。憲法13条の個人の尊厳が全ての中心だということを学んで、すごく感動したのを覚えています。その後は先生たちの言うとおり最低限のことを繰り返していたら司法試験に合格できました。

Q: 伊藤塾の何が良かったと思いますか?

とにかく最低限必要なものを全部わかりやすく教えてくれましたし、それしか勉強しませんでした。正直それほどたくさん勉強できなかったのですが、ギリギリだったかもしれませんがとにかく合格できました。
なにより講義の内容がよくまとまっていました。先生の話を聞いて、しっかりそれを繰り返して覚えるだけで、本当に合格できたので、とてもコスパの良い講義をしていただいたのではないかと思っています。
また、講義の内容が面白かったです。ですので、司法試験は難関資格ですが、続けられたというところはあると思います。

法律を学ぶ意義と社会変革への道筋

Q: 法律を学ぶ意義を教えてください。

法律は社会を作る骨組みだと思います。社会のあり方は法律が規定しているので、社会のあり方を大きく変えるためには、やはり法律を変えるしかない、あるいは作るしかないと思います。骨組みである法律を学んで、そして、それを作ったり、変えたりする力を持つということが法律を学ぶ意義の一つだと思います。
ちなみに少しだけ付け加えると、日本で法律を学ぶ際には、既存の法律をどうやって使うかのプロになると考えることが多いです。私も、司法試験勉強していた当時も、弁護士になった当時もそう考えていました。それはもちろんすごく大事なことなのですが、一方で、法律を作るとか変えていくためにも、法律家の力というのはすごく活きてきます。
しかし、それはまだ日本ではあまり認識されていない力ではないかと思うので、これからの人たちに期待しています。

エリトリア国での法制度構築支援と実務経験

Q: 司法試験合格後、エリトリアでボランティアされたそうですね。

アフリカの小さな国でエリトリアという国があり、司法試験合格後、すぐに1年ほどボランティアに行きました。
当初はアフリカで肉体労働のボランティアなどできればそれでいいと思っていたのですが、「司法試験に合格しているのだったら、法律作りの手伝いのボランティアがいいんじゃない?」というアイデアを受けました。「エリトリアは独立したばかりの新しい国なので、法律を作っているから、手伝えるのではないか」ということで、行く国をエリトリアにしました。
実際に、伊藤塾で学んだ刑法、民法や商法などを作っていたので、刑事法分野の法律作りの手伝いをしました。具体的には、日本の法律や世界中の刑事法の内容について調べて調査報告書を出すような仕事をしていました。

Q: 日本に戻ってきて改めて法律家の仕事を?

もともとは司法試験に合格した際に「これで法律とはさようならだわ」と思い、難民支援や国際的な危機を解決する仕事をしようと思って、その現場経験のためにエリトリアに行きました。しかし、その経緯で初めて本当の法律家たちに会ったのです。多くの人権派弁護士の方々に会って、法律家として人権侵害の被害者とともに権利回復を求める仕事ができると知り、素晴らしい仕事だと考え直して、それで弁護士になろうと決めました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ設立と国際人権活動

Q: ヒューマン・ライツ・ウォッチを立ち上げてからの活動について教えてください。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界的にとても有名な人権NGOで、憧れていました。ニューヨークでヒューマン・ライツ・ウォッチの本部に1年間、フェローとして仕事をさせてもらいました。それをきっかけに東京にオフィス設立を試してみることを了承してもらい、東京でファンドレイジングをやり、東京のオフィスを作りました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの仕事は、世界中の人権状況を調べて、国際法に違反している部分を認定した上で、それを解決する制度改正や実務改善を提案し、それを実際に実現するためのアドボカシー(政策提言/ロビイング)を行うという仕事です。私は日本政府へのアドボカシーを担当しています。
また、日本国外の人権問題、むしろそちらのほうが世界的には深刻な人権問題が多いのですが、そういった世界的な人権問題を解決するために世界的なアドボカシーを行います。その中で私は日本政府を担当して、日本政府の外交政策を変えるということもやってきました。

国連北朝鮮人権調査委員会の設立と国際的成果

Q: 国外の人権問題、特に北朝鮮の問題について教えてください。

日本では北朝鮮の人権問題は悲惨なものと認識されていると思いますが、世界ではそれほどでもありませんでした。そのため、国連でも大きくは取り上げられていませんでした。
国連の人権分野の本部があるスイス・ジュネーブのヒューマン・ライツ・ウォッチのディレクターと私とで協力して、当時の日本政府を説得して、日本政府が国連の中でのリーダーになり、国連人権理事会で決議を提案して通し、北朝鮮の人権問題に対する調査委員会を設置しました。
この調査委員会が北朝鮮における人権問題を一年にわたり調査した結果、「人道に対する罪」という国際犯罪に当たる可能性があると認定したため、それによって国連の中での北朝鮮の人権問題の扱いは大きく変わりました。
その結果、国連の安全保障理事会でも、北朝鮮の人権問題が議論されるようになりました。北朝鮮政府に対する国連からの、世界からの人権のプレッシャーというのはすごく高まったと思います。
現在、北朝鮮の人々が置かれている悲惨な状況を考えれば絶対必須の扱いです。そうした重要なことをスイスのディレクターと協力して実現できたということは、この仕事をしている冥利に尽きると思っています。

土井先生02

志の実現と法律家としての実力向上の関係性

Q: 志は学生時代から変わってないということでしたが、法律家になったりする中で変化はありましたか?

たしかに志は変わらないのですが、どういうふうに実現できるかという実現可能性についてはどんどん変わっていったと思います。
当初は世界をより良いものにすると言ってもどうすればいいのかわかりませんでした。司法試験に合格して法律家になって、法律という武器を持ってから、実は法律がその自分の志を実現するために、本当に最短ルートのツールだということに気づきました。
留学をしたり、ヒューマン・ライツ・ウォッチを立ち上げたりすることで、今度は世界を変えることの一端を担うことが現実的になりました。そういう現実化の可能性の変化はあります。

Q: 最後に、「志は実力を得て世界を変えていく」という言葉について、どう思われますか?

本当にそのとおりだと思います。法律家ほど自分の志を実力と経験によって実際に社会を変えられる仕事はないのではないかとさえと思います。それは日本社会もそうですし、実は世界のさまざまな重大な問題も変えられる力を持っています。
ですので、私は法律家になって本当によかったと思いますし、多くの方にそれを知ってもらいたいと思います。国連を動かしたり、日本の国の法律を改正したりするためには、法律の知識、そして実務の経験がとても役立っています。それによって世界中の法律家とも対等に渡り合えるだけの実力を身につけることができたからです。
その道を開いてくれたのが伊藤塾での講義でした。人権を初めて学んで理解した場が伊藤塾でした。さらに司法試験にも合格させていただきました。まさに私の原点です。

まとめ

土井香苗さんのお話から、中学3年生で抱いた「世界中全ての人の尊厳が守られる世界をつくる」という志が、法律という実力を得ることで現実的な力となり、実際に国内外の人権問題解決に結びついていく軌跡が見えてきました。
「法律は社会の骨組み」であり、「社会を変えたいと思ったら法律を学ぶ」ことが有力なルートだというお言葉は、これから法律を学ぼうとする多くの人にとって大きな指針となるでしょう。志を持ち続け、実力を身につけ、そして実際に世界を変えていく——土井さんの歩みは、まさに「志は実力を得て世界を変えていく」という言葉を体現したものと言えるのではないでしょうか。

 
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