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明日の法律家講座 東京校第279回

2019年1月19日(土)実施

民主主義とは何か~安倍政権とメディア

【講師】望月 衣塑子 氏(東京新聞・社会部記者)
 


講師プロフィール

望月 衣塑子 氏(東京新聞・社会部記者)

望月 衣塑子氏
東京都、東京学芸大学附属高等学校出身。
慶應義塾大学法学部卒業後、中日新聞社に入社。
その後、東京本社へ配属。
千葉支局、横浜支局を経て社会部で東京地方検察庁特別捜査部を担当後東京地方裁判所、東京高等裁判所を担当。
経済部などを経て、2017年10月社会部へ。
2人目の育児休業後の2014年4月から武器輸出や軍学共同の取材を開始。このテーマで講演活動も続けている。
2017年3月から森友学園、加計学園の取材チームに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記事などを手がける。
2017年6月6日以降、菅義偉内閣官房長官の記者会見に出席して質問を行うようになる。
 
著書は、『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『新聞記者』 (角川新書)等多数。論文も「〈検証〉武器輸出――もうやめたほうがいいのでは?」『世界』・2018年11月号」他多数。
 

講師からのメッセージ 

政権交代後、第二次安倍内閣は6年を超えました。中心閣僚の顔ぶれがこれほどかわらないまま続くのは、日本ではめずらしいです。一方で権力は必ず腐敗します。振り返れば、小渕優子経産相(当時)事務所の政治資金規正法違反事件や、甘利明経済再生担当大臣(同)と秘書による「口利き疑惑」もありました。安倍首相の妻が名誉校長をつとめていた学園への土地払い下げ問題や、友人が経営する大学の新学部設置をめぐる疑惑も吹き出しました。それぞれ政治家本人や国税庁長官も告発されましたが、彼らは不起訴処分でした。
ロッキードやリクルート事件などを手がけてきた東京地検特捜部の最も重要な役割は、時の権力者の意向に左右されることなく、疑獄事件を手がけることです。そのため、強い捜査権限が与えられています。ところが、安倍政権では機能していません。せいぜい嫌疑不十分(罪に持ち込むだけの証拠が見つからなかった)とする程度です。
2014年に内閣人事局が設置されて以降、この傾向は強まっているように感じます。検察庁・法務省だけではなく、裁判官人事にも官邸の意向が反映されるようになりました。官邸が人事権を握ったことが大きいと思います。
検察庁内はいま、私が特捜部を取材していた2004年ごろとは全く違う空気が漂っています。「陸山会事件」の虚偽捜査報告書をめぐり、庁内で処分者が相次いだことが影響しているのかもしれませんが、すっかり政治家相手の捜査に及び腰です。かわって日産の報酬虚偽記載事件やゼネコンのリニア談合事件など、民間企業の事件が目立ちます。これらは司法取引などの制度をつかって多くの証拠を収集できるため、リスクは比較的小さくて済むものです。
皆さんはひとたび法律家として社会に出れば、正義とは、公正とは何かと自ら問いかけながら働くことになります。現在の政治・社会問題について「自分はどういう社会にしていきたいのか」と一緒に考えていければと思います。