明日の法律家講座 バックナンバー

明日の法律家講座 東京校第303回

2021年5月29日(土)実施

なぜ、原発を止めたのか〜原発の危険性について真剣に議論しよう!

講師プロフィール

樋口 英明氏(元裁判官)

長岡隼平氏
三重県出身 
京都大学法学部卒業後司法修習(35期)
1983年4月 福岡地方裁判所判事補に任官
1985年4月より静岡・宮崎・和歌山・大阪・熊本・名古屋などの地方裁判所・家庭裁判所・
簡易裁判所の判事補・判事を歴任 
2006年4月~2009年3月 大阪高等裁判所判事 
2009年4月~2012年3月 名古屋地家裁半田支部長
2012年4月~2015年3月 福井地家裁判事部総括判事・福井簡裁判事
2015年4月~2017年8月 名古屋家裁部総括判事・名古屋簡裁判事 
2017年8月 定年退官 
主な著書 「私が原発を止めた理由」(旬報社)等

講師からのメッセージ

<人格権と原発事故>
(1)人格権とは
人格権とは人が生まれもって有する生命、身体、精神及び生活に関する利益の総体を指し、その根拠は憲法13条にあります。
 例えば、本の出版によって名誉が毀損される場合にはその本の出版を差し止めることが認められることもあるのです。名誉やプライバシーも人格権の一部ですがそれは生命と生活が維持できてこその話ですから、生命を守り生活を維持するということは人格権の核心部分といえます。したがって、原発事故によって放射性物質が拡散され生命を守り生活を維持することが困難となる危険があれば、人格権に基づいて原発の運転の差し止めを求めることができるのです。
 問題は、どの程度の危険があれば原発の運転の差し止めが認められるのかということです。人格権は各種の人権の中でも最も基本的で重要な権利であり、電力会社の経済活動の自由(憲法22条)よりも、上位の権利です。15万人余の人々のその権利が福島原発事故によって奪われたのです。これらのことからすると、福島原発事故のような事故が万が一でも起きる具体的危険性があるならば運転の差止めが認められるのです。これが2014年5月21日の大飯原発福井地裁判決に示された基本的な考え方です。
(2)現実的で切迫した危険
 しかし私は大飯原発に万が一の危険があるからという理由だけで運転を差し止めたのではないのです。判決では「大飯原発の危険性は万が一の危険という領域を遥かに超える現実的で切迫した危険だ」と判断しました。講演ではその意味を説明します。
(3)人格権を守るために
 人格権が侵害されそうになった場合に、裁判所に救済を求めるのは当然の権利であり、裁判所はそれに応えなければなりません。そして私たちも他の人の人格権が侵害されたときに、裁判所に任せきりにしたままでは結局自らの人権も守れなくなるのです。人権は国民の不断の努力によってこれを保持しなければならないのです(憲法12条)。