私たちはカウンセラー的な技術を持った社会に役立つ法律家を目指します【座談会】

2012年5月掲載
いしこ司法書士事務所で勤務される、3人の伊藤塾出身司法書士のみなさんに、目指した動機から現在・そしてこれから広がる司法書士の活躍の展望について、座談会形式でお話頂きました。

【兵庫県】 いしこ司法書士事務所 石古 暁 司法書士

 ■Profile
2005年 司法書士合格
2006年 司法書士登録
2006年 簡裁訴訟代理等能力認定考査合格
2007年 「いしこ司法書士事務所」開設
 
 

【兵庫県】 いしこ司法書士事務所 清水 隆晴 司法書士

■Profile
2005年 司法書士合格
2006年 簡裁訴訟代理等能力認定考査合格
2007年 司法書士登録
2007年 司法書士として勤務
 
 

【兵庫県】 いしこ司法書士事務所 守屋 裕介 司法書士

■Profile
2008年 補助者として勤務
2009年 司法書士合格
2010年 司法書士登録
2010年 簡裁訴訟代理等能力認定考査合格

司法書士を目指した動機 

石古 :
僕は、もともと大学で電気系の講義を専攻していて、一度企業に就職したんだけど、法律の勉強がしたくなって、司法試験を目指したことがある。その後、なんとなく司法書士試験に転向したんだけど、みんなはどんなきっかけだったの?
清水:
僕も、大学は法律系ではなくて、外国語学部の出身で、大学ではヒンディー語を専攻していたんですよ。大学の専攻と直接の関係はなくて、何か強い資格が欲しいと思って目指したのが、司法書士になろうと思ったきっかけでした。
守屋:
僕は、高校生の頃から法律家になりたいという夢があって、大学も法学部で法律の勉強をしていました。最初は司法試験を目指していましたが、なかなか結果が出ず、方向転換を考えた際に、今まで勉強してきた法律知識を活かすことができるという理由で、司法書士を目指すことにしたんです。
石古:
僕も機械や技術じゃなく、自分の頭ひとつで社会に貢献できるところに魅力を感じていたんだと思う。
清水:
僕は、法律家になるという夢とは少し違ったけど、やっぱり何か世の中の役に立ちたいという気持ちはありました。外国語学部の流れで、今でも国際貢献に憧れますよ。
守屋:
転向の際、どうしても法律家になりたいという気持ちが強かったし、司法書士として社会に貢献できる可能性や、簡裁訴訟代理等関係業務や成年後見業務など、職域が広がりつつある点を考えて、司法書士の道を選択したんです。
 

事務所の主な業務内容と、現在担当されている業務

石古:
この事務所の主な業務内容は、成年後見とその周辺業務。その中で、成年後見業務の端緒である申立の相談を受けたり、受任後は被後見人宅や入所施設を訪問したり、地域の啓発活動をしたりといったことが、僕の担当業務の中心になっている。
清水:
成年後見業務の中では、僕は石古さんの受けた相談をもとに、具体的に後見申立書類を作成して、今後被後見人となるご本人や依頼者である親族に付き添って家庭裁判所に申立に行ったり、後見が開始された後は、被後見人宅を訪問したり、といった業務が中心ですね。
守屋:
僕は、事務所で受任した被後見人の財産を管理し、施設利用料の振込みや税金・保険料の支払い、郵便物の管理などを行っています。ほかにも、任意後見受任案件の財産管理報告書を作成したり、1年に1度、後見の報酬付与申立書類を作成したりしています。1ヵ月に1度、事務所で管理している全ての通帳を記帳し、その収入・支出をすべてパソコンでデータ入力することもやっています。
清水:
ほかに遺言関係業務や、被後見人が死亡した場合、相続人から依頼を受けて、相続登記を申請することもありますね。
守屋:
また、被後見人が自宅から施設に入所する場合、家庭裁判所の許可を得て、居住用不動産の売却と所有権移転登記を行うことも、時々ありますね。
 
 

やりがいを感じる瞬間 

清水:
前の事務所に勤めていたときは、登記業務が中心だったんですが、成年後見業務には、登記と全然違ったやりがいがありますね。法的判断のほかにも、ご本人の身体の状態や心情など、様々な要素を考慮する必要があります。ご本人の抱える様々な問題に対して、一生懸命編み出した解決案を実行して、長期的にそれがご本人のためにいい結果をもたらしたときなど、とても強くやりがいを感じます。
守屋:
特に成年後見の場合には、『自己決定権』とか『そのらしさ』を尊重する必要があります。いかにしてそれを支えていくか様々な方法を提案しながら、その人らしさの実現に向けて共に歩んでいければ、と思います。
石古:
僕も、生身の人間と接する中で、それぞれの状況に合わせて、その人のためにベストな解決策を自由に考えることのできる成年後見業務に、すごくやりがいを感じている。

守屋:
ご本人の限られた財産の中で、その方の人生設計をお手伝いできることは、成年後見業務ならではのやりがいだと思います。ご本人の判断能力が欠けている場合には、自分たちの提案がその方の人生を大きく方向づけるので、その責任は重大だと思います。
清水:
判断能力が低下している人を狙った悪質な商法が横行していますが、消費者被害に遭った方の後見をする場合には、今まで身に付けた法律知識を駆使して支援していきます。そんなことも、この業務が持っている可能性のひとつですね。
石古: 
自己決定をすべて私たちが代行することはできないし、場合によっては、ご本人のために医師や介護専門職の方など多くの方と連携する必要が生じる。そのためには、法律だけでなく医療・介護など様々な知識を身につける必要がある。仕事を通じて、そういった知識や経験を身につけ、自分たちが成長していけるという点も、後見業務の魅力のひとつだと思う。
清水:
成年後見と一言で言っても、高齢者だけでなく、精神障がい者や知的障がい者など、様々な「生きづらさ」を抱えた人たちが対象になります。そんな人たちの支援に、少しでもお役に立ちたいという思いから、現在、石古さんと私は精神保健福祉士の勉強中です。以前から関わりのある被後見人と接する際にも、相手の立場がより理解できるようになりました。
石古:
たしかに、精神保健福祉士の知識を身につけることで、新たな提案ができたり、可能性が広がったりした実感があるね。身に付けた知識が、現場の仕事で役立つときというのは、大きなやりがいを感じる瞬間だね。ちなみに、僕は高齢者の方と接する機会が多いので、ヘルパー2級も最近取得しました。
清水:
高齢者の方の場合、『安心』ということは、すごく重要ですね。ひとり暮らしの高齢者の方の場合など、後見開始決定が出た段階でも、親族の方はすごく安心されますね。遠く離れているせいで深くかかわれない親族の方にとっては、成年後見はとても頼りになる制度だと思います。
石古:
最近、任意後見契約を締結した方から、「これで安心できた。人生の最後に、いい人たちに出会えてよかった」と言ってもらえたことがあったね。守屋さんの言うように、私たちから見れば、端的に「遺言を残せば解決できる」と分かるような問題でも、高齢者の方にとっては、とても複雑に感じ、どうしたらよいのか分からない場合も多いみたいだね。年齢の若い人なら、自分でインターネットにアクセスして解決方法を見つけたり、あるいは法律家を探したりといったことが簡単にできるかもしれないけれど、高齢者や障がい者の方の中には、そのようなアクセス方法を持っていない人が多い。そんな人のために、もっと高齢者や障がい者の気持ちに寄り添うことのできる法律家が、これからの時代、ますます必要にっていくだろうね。
守屋:
高齢のご夫婦で、ご主人が、「もし自分が亡くなれば、自分の財産は全て妻に残る」と思い込んでいても、実際には、他に甥や姪といった代襲相続人がいる場合が結構多いんですよね。そんな時は、「遺言を残すことで、ご主人の奥さんに対する思いを叶えることができますよ」とアドバイスするようしています。
 

司法書士に求められる「プロフェッショナリズム」とは

石古:
今では、司法書士は、「街の法律家」として社会に認知されつつあるよね。法律のプロフェッショナルとして、その知識を備えることはもちろん必要だけど、それ以外に求められるものは何だと思う?
清水:
ひとつには、法律を分かりやすく依頼者にお話しできることだと思います。特に僕らの業務では、法律に馴染みのない方と接する機会が多いので、分かりやすい説明は大事ですね。
単に「依頼を受ける」という思いだけでなく、支援の視点から、依頼者の気持ちに応えていくことが必要だと思います。
守屋:
依頼者の中には、藁にもすがる思いで法律相談に来られる方も多いです。分かりやすく説明することで、依頼者の不安な気持ちが少しでも解消してもらえればいいですね。
相談を終えて、最初に事務所に入ってこられた時よりも、表情が明るくなって帰ってもらうことが、私たちの希望であり、私たちの役割だと思います。

石古:
つまり、僕たちの事務所のイメージするプロフェッショナリズムというのは、「カウンセラー」的な技術を持った法律家ということになるのかな。確かに、普段の業務の中で、依頼者から「法律家には相談しにくい」とか「法律家は敷居が高い」という言葉を聞くことも多いね。せっかく身に付けた法律知識を、社会のために役立てることができなかったら、それは残念だね。
守屋:
また、成年後見では、人生設計という「コーディネーター」的な役割も必要になってきますね。どんな環境で、どんな生活を送りたいのか、ご本人の希望に応じて、デイサービスやショートステイといった介護施設の利用を提案するような役割のことです。そのときには、医師やケアマネに相談して、ご本人の健康状態を考慮に入れる必要があるし、もちろん資産状態による制限を考慮することも重要になりますね。
石古:
どんな人でも、どんな問題でも、ここに相談すれば、なにかしら解決の道筋が作れるということが、プロフェッショナルとして重要だと思う。
 

これから広がる司法書士の職域・業務とは何ですか 

石古:
いまの超高齢社会や無縁社会といった状況を考えると、やっぱり成年後見業務がより広い役割を担うことになるだろうし、その可能性も、さらに広がると思う。
清水:
後見人が就くだけで、もはやその人は「無縁」ではなくなるからね。そんな意味でも、身寄りのない人の後見を引き受けるときの責任は重いと思います。
守屋:
また、成年後見人と本人の関係を見ると、平成21年の申立件数では、配偶者・親・子などの親族が成年後見人に選任される場合が全体の6割強を占めているので、その親族の後見申立支援業務も、親族と家庭裁判所との懸け橋として、司法書士に期待される役割が大きいですね。
清水: 
法定後見に『後見・保佐・補助』と3類型あるうちで、現在は後見が最も多くて、比率が偏っていることが指摘されています。この背景には、成年後見制度に対して、本人の行為能力を制限するための制度だというイメージが強すぎるといった事情があるのではないかと思います。しかし、補助などは、本人の行為能力の制限のためというよりも、むしろ拡張のために、もっと活用する余地があるんじゃないかと考えています。
石古:
行為能力の拡張や自己決定権尊重という視点から考えれば、任意後見制度についても、これからもっと活用してほしいと思う。法定後見も任意後見も、『その人らしさの実現』という多様な価値の実現を目的とする制度だから、その実現方法を探求したり、機能を充実させたりする取り組みも、今後ますます広がっていくだろうね。
守屋:
さらに、労働問題や離婚問題、交通事故といった相談も、最近は増えてきていますね。今まで、弁護士だけでは拾い切れなかった少額の紛争も、簡裁代理権を取得した司法書士が取り組むべき業務になっていくでしょうね。
 

これからのビジョン、どのような司法書士を目指されますか

石古:
法律を軸としつつ、医療・福祉・金融など様々な知識に通じた法律家になります。地域の医療機関や福祉機関、行政機関などと連携関係を深め、あらゆる相談に対して、最適な解決策を提供できる窓口になりたいと思います。
清水:
最近は、市民後見人の養成講座にも、積極的に参加しています。現在、後見人の7割近くが親族後見、残りが司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門職ですが、後見人は、これからもっと数が求められることになることを考えると、市民の中から後見人の引き受け手を養成することが急務だと思います。私たちは障がい者施設のボランティアにも参加していますし、そんな地域貢献的な役割もこれから積極的に果たしていきたいと思っています。
守屋:
私は、生まれも育ちも神戸なので、やはり神戸という地域に密着した司法書士になりたいですね。現在は成年後見業務を多く扱っていますが、将来的には、会社法及び商業登記法の専門家として、企業法務に取り組みたいと考えています。すでに生じたトラブルを解決するだけでなく、企業の活動を支援したり、予めトラブルを回避するための予防策を提案するといった、幅広いサポートをしていきたいですね。弁護士や税理士、行政書士などの他の資格者や他分野の専門家と連携を取りながら、社会のために自分は何ができるか、という視点を常に意識し、実務経験を積みながら、日々精進していけるように心がけたいです。
 
 

伊藤塾に入塾されたきっかけ、受講された講座の感想、塾で学んだ事が現在の業務で活きている部分は

石古:
伊藤塾で、憲法の精神、特に13条の個人の尊重について学ぶことができたことは、自分の糧になっています。後見業務をする中で、「これは本当に本人の意思を尊重できているのか」と、立ち止まって考えるときは、やはり13条に立ち返ります。それから、沖縄や南京などの諸問題について関心を抱かせてくれたことも、とても役に立っています。というのも、後見業務で関わる高齢者の大半が戦争の経験者で、当時のことをよく話され、私も平和の大切さを痛感させられているからです。今は、憲法の考えをベースに、昭和史を学んでいるところです。
清水:
蛭町講師のテキストは、今でも登記時に見返します。登記法の基本的な考え方は、なかなか実務書では学べませんから。
守屋:
私が伊藤塾で得た一番大きな財産は、『人とのつながり』です。伊藤塾で大変お世話になった講師の方々はもちろんのこと、石古さんも清水さんも、伊藤塾の入門講座や中上級講座で知り合ったかつての受験仲間であり、私が補助者として働いている時も、合格するまで精神的に支えてくれました。「司法書士として一緒に働きたい」と強く思い続けることが、受験勉強を続けるモチベーション維持につながったと思います。『人とのつながり』を大切にすることで、自分も成長できることを学びました。
 

合格を目指す受験生へのメッセージ 

石古:
僕は、これまでいろんな仕事に就いてきましたが、司法書士になり、自分の中で大きな軸を持てた気がします。今は後見を通して、障がい者の方々の支援をしています。今後、少し視点を変えて、農業を通じた障がい者支援もしたいと思い、最近畑を始めました。このように、法律という軸を自分の中でしっかり持つことで、人生の幅が拡がりました。受験生の皆さんも、これまで経験してきたことが、一見司法書士業務と無関係に思われることでも、今後活きてくると思います。
清水:
僕は合格前から別の司法書士事務所でアルバイトをしていましたが、合格前と合格後では、仕事への意気込みは全然違いました。司法書士試験合格は決してゴールではないものの、とても大きなターニングポイントです。合格後にやりたいことを、今から決めつけてしまうのではなくて、様々な可能性を自分の中で温めておいてください。合格後、それをどんどん実現していってください。
守屋:
私が受験勉強を続けることができたのも、家族の支え、入門同期や受験仲間の励まし、仕事仲間の優しさがあったからであり、心から感謝しています。受験勉強を続けていく上で、もっとも難しいのは、モチベーションを維持することだと思います。諦めそうになった時は、自分の将来の司法書士像を描いて、その苦難を乗り越えるエネルギーに変えていただきたいと思います。


Information
 
事務所プロフィール
いしこ司法書士事務所
〒658-0051 神戸市東灘区住吉本町2-13-7
業務内容
債務整理、相続、成年後見
ホームページ
http://www.ishiko.biz/
 
ある1日のスケジュール
石古先生の1日
09:00 翌日の『後見制度セミナー』に使う資料の準備
11:00 任意後見受任案件の旅行の手配
12:00 昼食
13:00 相続不動産の物件調査
14:00 病院で、遺言の相談
16:00 区役所で、介護保険等の手続
17:00 特別養護老人ホームで、葬儀の打ち合わせ
     牧師、葬儀社と面談
18:00 有料老人ホームで、契約書の作成
20:00 訪問記録の入力・明日の準備
 
清水先生の1日
09:00 出勤・郵便物の処理
10:00 明後日の保佐申立準備
12:00 昼食・午後の外出の準備
13:00 区役所で戸籍謄本の発行申請
14:00 介護業者事務所で、後見人を務めている案件のケア担当者会議に出席
15:30 法務局で、物件調査と親族保佐人の登記申請代理権の打ち合わせ
16:00 後見人を務めている別件の入所施設を訪問
17:00 事務所に戻り、訪問記録の入力
19:00 業務終了
 
守屋先生の1日
08:00 出勤・戸籍謄本の郵送請求
09:00 新件の後見申立の情報共有と進行状況の確認
10:00 親族関係図の作成
12:00 昼食
13:00 金融機関で、施設利用料の振込・通帳の記帳
14:00 財産管理報告書の作成
16:00 任意後見受任案件の本人宅訪問
18:00 兵庫県司法書士会の実務家研修に参加
21:00 帰宅