商業登記、動産・債権譲渡登記、証券化…企業法務でも求められる司法書士の専門性

2008年3月掲載

【神奈川県】穗坂司法書士行政書士事務所 穗坂 裕之 先生 (司法書士)

■Profile
2006年 司法書士試験合格
2007年 EIWA司法書士法人入社
2009年 「穗坂司法書士行政書士事務所」開設 (神奈川県藤沢市)

はじめに

私は2006年の10月に司法書士試験に合格しました。合格後すぐに事務所に入る人もいるのですが私は司法書士の実務についてまったく知識がなく、また長い試験期間が終わり一息つきたかったこともあり、特に就職活動はやりませんでした。その後、様々な新人研修があることが分かりましたので、事務所勤めはその後にすることにして研修に専念しました。ちなみに受けた研修は12月に東京司法書士会の新人研修、1月に全国統一の中央新人研修、2月に簡裁訴訟代理権の特別研修、3月上旬に関東ブロックの新人研修、3月下旬に神奈川司法書士会の新人研修を受けました。
  すべての研修が終わった後、4月から私は事務所探しを始めまして、5月から7月いっぱいまで短期の勤務で東京の司法書士事務所に勤めました。実務についてまったく知識がなっかた私としては、とりあえず短期の勤務で実務に知りたいと思ったからです。その後、現在のEIWA司法書士法人に採用していただき、現在に至っています。

司法試験から司法書士への転進

2005年10月7日、法務省横の司法試験論文合格者の掲示板に私の番号は無く、目の前が灰色に染まっていくようでした。受験指導校のパンフレットを配る人の列を通り過ぎながら、私の頭にあったのは、「これからどうしよう」という気持ちでした。私はそれまで司法試験の択一を4回、論文を4回受けてきました。そして3回の不合格の度に来年こそ合格すると決意してきました。しかし4回目の論文不合格となったその時に、来年こそ合格するという決意は生じませんでした。理由の一つとして、その年が旧司法試験の最大のチャンスであり、来年から合格者が激減するということがありました。しかし、それ以上にもう私は何をどう勉強すればいいのか分からなくなっていました。結果、私は司法試験を断念しました、というより力尽きてしまいました。
  しかし当然、私の人生は終わりません。これからの将来をどうするのかと考える必要がありました。その中で何か別の物であっても形のあるものが欲しいと私は思うようになっていました。
  そして、私は今までの勉強が役に立ちそうな資格で、さらに法律の一つの専門職としての司法書士を見つけ、その受験を決意しました。正直受験を決意した段階で司法書士の具体的な仕事内容・活動領域の広がり・将来性・魅力等について深く考えていませんでした。しかし、これが駄目なら私には何があるという決意は悲愴であり、真剣であり、強靱であったと思っています。

試験勉強と実務のリンク

司法試験と異なり、司法書士試験は合格すればすぐに開業できます。新人研修は行われますが、建前としては、すぐに開業することは可能なのです。つまり司法書士試験はすぐに開業できる実務家としての素養を判断する試験といえます。司法試験も実務家登用試験と言われることがありますが、司法書士試験はより実務に近い試験といえます。よって司法書士試験の勉強はそのまま実際の仕事に役立つはずです。これが建前としてあります。
  では、実際の実務で役立つかというと、これが結構そのまま役立つのです。もちろん実務をするための新たな知識は絶対に必要です。しかし、司法書士試験で勉強したことがなんのひねりもなく実務の知識になることが当たり前のようにあります。そんな時は、条文や先例集を調べる前提で伊藤塾のテキストを開くことがありますし、基本的な知識を確認するためにテキストを見直すこともあります。
  また、所有権移転の時などは、当然ながら依頼者の権利をきちんと確認して行う必要があります。個人個人の権利への認識は、伊藤塾での受験生時代に学んだ憲法が影響していると思っています。

司法書士の拡がる職域

司法書士の典型的な仕事としては、不動産登記、商業登記があります。正直言うと、受験開始時から合格まで私はこれくらいしか知りませんでした。「他に何もなかったから」が受験開始の動機であった私の知識はそんなものでした。しかし、合格後心に余裕ができ、新人研修で先輩の話を聞いているとそんな狭いものではないことが分かりました。有名なところでは、簡裁訴訟等代理業務、成年後見、企業法務、債務整理、消費者問題等々あります。これらは、登記の片手間にやるというわけではなく、それぞれでメインの仕事としてやっていけるものです。
  さらにこれらのすでにある程度確立されている業務以外でも、司法書士という公的に認められた資格を持っていれば大きなアドバンテージとなる分野も多いです。「経営コンサルティング」など別に資格がなくてもできるのですが、司法書士という資格があれば信用は全然違います。実際そういう方向で活躍されている方もいます。

司法書士だからできる企業法務分野での活躍

私は法律実務の世界で生きていこうと思って司法試験を勉強していました。受験時代は法律実務と言えば、司法試験を合格した弁護士・裁判官・検察官だけのものとも思っていました。しかし、実務に関わって分かったのですが、法律実務の世界はそんなに小さいものではありませんでした。不動産登記、商業登記それぞれの分野一つとっても大きな世界が広がっています。
  現在の司法書士事務所での仕事は企業法務が中心で、動産・債権譲渡登記や証券化★などで企業の資金調達のお手伝いをしています。合同会社★の設立に携わることもあります。主なクライアントは比較的大きな企業や銀行などです。
  企業法務には以外にも、合併・組織変更や事業継承などがあります。
  合併・組織変更は近年の会社法の大改正で選択肢が多様になった関係で、手続も複雑になり専門知識をもった法律家が必要とされています。そして、合併・組織変更の最終局面としては商業登記が不可欠ですが、かなり厳密な手続きが必要とされます。必然的に実体的交渉段階から司法書士の関与が求められます。というより司法書士の助言だけで行われることも普通です。
  また、事業承継とは特に創業者が会社を所有し、経営権のすべてを握っているような場合に、いかに円滑に経営権を次に引き継がせるか、あるいは創業者に万が一があった場合の手当てをすることです。これについては新会社法の種類株式の徹底活用等で有効な処置が可能であり、司法書士の役割が期待されます。
そして、これらの企業法務全般に、司法書士は商業登記をきっかけとして関与することができるのです。なぜなら会社は法律上数年毎に役員変更の登記をすることになるので大会社なら法務部門の部課長、中小企業なら社長自身と接する機会があります。その機会にあわせて企業法務の相談を受けたり、こちらの方から提案をすることができるのです。

受験生へのメッセージ

ここでご紹介した司法書士の業務は、ほんの一例にすぎません。弁護士等の法曹しか関われない裁判の領域は法律実務の世界の一部でしかないと今の私は感じています。その裁判の領域でも司法書士は簡裁訴訟代理権を得られるようになっています。司法書士としてやれることはいくらでもあります。司法書士は十分にやりがいのある仕事です。司法試験から司法書士試験への転進は新たな選択として最善の一つと私は考えますので迷わず進んでください。
皆さんの合格をお祈りいたします。
 
(2008年3月・記)
 

★証券化
不動産、債権といった特定の資産についてのキャッシュフロー(収益)を源泉とした収益の配当を約束する証券の発行を行って、資金を調達すること。
 
★合同会社
2006年5月に施行された会社法により新たに認められた会社類型。会社の社員が自ら業務執行権を有し、内部規律を定款で自由に定める事ができ、かつ、社員の責任は有限責任とすることができる点にメリットがある。


Information
■「ある一日のスケジュール」
8:50 出勤 仕事の準備
9:00 書類の作成
10:00 電話応対 取引スケジュール調整
12:00 昼食
13:00 不動産取引の立会い
15:00 法務局へ登記申請 銀行で契約立会い、必要書類確認
17:30 翌日のスケジューリング 書類作成
19:00 退社