新しい時代に応える“支援型法律家”を提唱し中小企業とともに歩む企業支援業務を実践
司法書士法人ソレイユ(大阪支店)
河合 保弘 先生(司法書士)
■Profile
1993年 司法書士試験合格
1996年 「長田・河合市民法務総合事務所」開設
2013年 「司法書士法人ソレイユ」開設
2013年 日本司法書士会連合会理事に就任
司法書士が企業支援に向いている理由
経営者は会社の頂点から経営の4要素(ルール、数字、人、ビジネス)を見ています。少しでも視点が偏っていると全体が見えません。頂点に立つ中小企業の経営者を、専門家として総合的にアドバイスし、4要素が足りなければ別の専門性で支えようというのが企業支援です。これに対して企業法務というのは企業のルールについて深く支援すること。司法書士は、企業支援と企業法務、両方がうまい具合にできる、良い位置にいます。司法書士は、中立的かつ総合的にアドバイスするということが職能的に非常に合っているんです。
大事にすべき業務と開かれた挑戦への扉
従来からの司法書士業務というのは登記と裁判事務、あるいは簡裁訴訟代理というものがあります。登記自体がなくなることはないですし、本人申請や他士業からの参入が急に増えて、司法書士の登記業務が激減することも考え難いでしょう。司法書士が独占的にできているということはそれなりに責任をもって対応しないといけない業務なので、重視すべきです。最近、簡裁代理権偏重で登記と裁判事務を軽視する人もありますが、それらは昔から続く本来の司法書士業務の二本柱なので、大事にしなければならないと思います。
一方で、まだあまり一般に知られていないですが、財産管理業務や、先に述べた中小企業の経営支援業務等が、司法書士法施行規則第31条業務として認められています。これらは、必ずしも登記や裁判と関連しなくても独立してできる業務です。それがあるから、例えば成年後見業務や事業承継・企業再生支援といったことが司法書士業務としてできるようになっているんですね。ですから、司法書士に合格されたら登記・裁判にこだわらず、何でもやってみていただければと思います。たいていのことは司法書士の業務としてできますから。
何歳からでも、自由に社会貢献できる仕事
司法書士は非常に面白い仕事です。私が受験した頃と、皆さんが受験している今とでは、司法書士に対するイメージはずいぶん変わっていると思います。社会からの期待度が大きく違ってきているのです。
司法書士は非常に良い世界です。上下関係はなく、合格した方は全く対等で差別もありません。学歴も年齢も、性別も全く関係ない。幅広く色々な人材がいます。
学生さんには学生さんの、20代、30代、40代、50代・・・どの年代の方にも試験に合格して資格を取ることに意味がありますから、ぜひ年代に関係なく合格して欲しいです。仮に資格業自体の未来が暗いと言われていても、資格者自体の未来は自分で開くものですから自分次第だという風に思います。一人の社会人として様々な形で社会に貢献できる、その意味で、司法書士は自由なのです。
2012年5月掲載
司法書士の業務内容はここ数年で大きく広がっていますが、どう変わったのですか
私が司法書士になったのは16年前ですが、当時、私が司法書士に対して持っていたイメージと、現在の司法書士の姿とは大きく異なります。ここ10年でまったく違う資格になったと言ってもいいくらい、司法書士のイメージは完全に覆っています。
以前は不動産登記や商業登記、また裁判書類作成が業務の中心の仕事でした。ところが現在では、簡裁代理権を取得した一方で、争いの予防、支援と伴走といった仕事も多くなってきたのです。
とはいうものの、登記や裁判書類作成の仕事は司法書士の基本であって重要な業務です。それがあってこそ、仕事の広がりが生まれているのです。
司法書士と弁護士はどこが違いますか
それはよく聞かれる質問です。これまで、弁護士はオールマイティで、司法書士は弁護士の手の回らない小さな法律相談に答えるという誤ったイメージがありました。
弁護士の仕事は、対立するAとBがある場合、依頼人であるAの立場にだけ立ってその権利を守るのが原則です。それに対して司法書士は、対立する二者の双方の主張を聞き、それぞれの立場を理解して、第三者として解決策を提案するのが基本姿勢だと思います。
簡裁では弁護士と同様の業務もありますが、本質は異なるのです。
物事というのは、すべて法律で白黒をつけて決着をつけられるものでしょうか。法律で解決するのは最後の手段ともいえます。相談ごとのなかには法律で解決する前に、手を講じることで揉めごとを未然に防げる場合があります。とくに日本人は、ケンカしないでさまざまなことを解決する知恵ある社会つくってきたのです。
法律はよく切れる刀です。だからこそ、なるべく抜かないようにしなければいけないと思っています。司法書士が法律を学ぶのは、それを使うためではなく、使わないためと考えています。つまり法律で決着を付けるという決裂状態になる前に、揉めごとに至らないためにはどうしたらいいのかを考えるのが司法書士の仕事です。
「法律家」というと四角四面の固いイメージがあります。私は法律家と呼ばれる司法書士ですが、このことばにはなじめません。ですから、私は人の気持ちがわかる「支援型法律家」でありたいと思っています。
「企業支援業務」とは
私は社労士や司法書士の資格を取得する前、医療法人の事務長や理事をしていました。そのときに、発注する立場として司法書士などの専門家とお付き合いしましたが、こちらが望む対応をしてもらえなくてまったく不満でした。よりよい経営のための情報や、危機に陥らないための予防策が得られないのです。
「企業支援業務」という仕事をしようと思ったのは、そんな経験があったことも大きいと思います。
企業支援業務というのは、わかりやすく言うと、想定された未来から現在を見て、揉めごとが起こらないように予防すること。
つまりリスクマネジメントです。とくに中小企業は弱い立場であり法律的リスクにはまりがちです。にもかかわらず、中小企業のリスクマネジメントという考え方は、これまで法律家のなかにはありませんでした。
企業再建・経営承継・経営改善・創業支援など、それぞれの場面で支援は数多く存在します。ここで大切なのは、司法書士は単純に企業や社長の代理人ではないということです。企業には「経営者」「従業員」「取引先」など、さまざまな人が関連しています。たとえば労務問題の場合には、経営者側と労働者側のそれぞれの立場の話をヒヤリングして、経営理念をみて全体がよくなることを目的とすべきです。
企業支援業務を実際にされている司法書士は、現時点では全国でも数十人で、まだまだ始まったばかりという状態です。そこで、多くの人材を育成するため、若手司法書士団体の協力によって年一回、全国の司法書士が参加できる「企業支援コンペ」を開催しています。
私が作成した事案を出題し、それに対して企画書を作成してプレゼンテーションしてもらうというもので、地区予選後に全国決勝大会を開き、優勝者を決定します。このコンペによって多くの人材が育っていることを実感しています。
企業支援というと都会の話ではないかと思われがちですが、実は地方にこそニーズはあるのです。今、地方企業は疲弊しています。一企業の倒産となれば、地域への打撃は計り知れません。全国に企業支援業務を行なう司法書士が増えてくれることを切に望みます。
企業支援業務と経営コンサルタントの業務との違いは
これもよく聞かれる質問です(笑)。分かりやすい例をお話しましょう。企業に経営上いくつかの選択肢がある場合を考えてみます。ひとつは一番よい方法を選択した場合、書類作成が少なく自分の報酬が10万円。もうひとつは、最上の方策とは言えないけれども、仕事が多くなり報酬が100万円という場合。
司法書士であれば、低い報酬の方を選ぶべきだと思います。なぜなら、司法書士は憲法を学び、倫理観をもって仕事をしているからです。企業にとって、従業員にとって、ひいては社会にとって、一番いい方法を選ばなければ、憲法を学んだ司法書士の意味がありません。きれいごと、と思われるかもしれませんが、私たちは誇りを持って仕事をしています。だから社会から信頼されるのだと思っています。
そしてそのときは10万円で終わっても、必ず次の仕事につながります。企業との信頼関係は続きますし、評判を聞いて新しい依頼人が訪れることもあります。こうして仕事は広がっていくのです。
これから求められる司法書士像とは
まず社会との関わりを積極的に持つことが重要になってくると思います。阪神大震災のときに、司法書士が被災者の方のさまざまな相談に、現場に出向いて無料で応じていたことをご存じでしょうか。その中に私もいたのですが、「法律相談に限らず、とにかく困っているので相談したい」という方々がたくさんいらっしゃいました。この活動は司法書士の世界では画期的なことでした。また機会があれば高校などの講演で、「法律とは何か」「司法書士の仕事とは」などもお話します。
このような社会貢献は、社会からの司法書士に対する認知度を上げ、信頼や期待といったものを得ることにつながります。
また先ほどから触れているように企業支援業務も、これから重要度を増していくでしょう。
さらに個人の場合、資産管理や相続の場合などでは遺言をお勧めすることが多いのですが、私は単純な法律文書ではなく、読んだ方の心に訴える遺言書を考えてみませんかと提案します。これは業務すべてに関わることですが、私たちには人の気持ちを大切にする仕事が求められるのではないでしょうか。
そしてもうひとつ。法律が運用される現場では、「この法律はおかしい」と感じることがあります。そんなとき異議を唱える司法書士であってほしいと思います。法律を熟知し、実際の人々の生活を目の当りにしている司法書士だからこそ発言できることがあるのです。実際、過去には司法書士が協力して出資法を改定することができました。
合格を目指す受験生へのメッセージ
私は司法書士ほど面白い仕事はないと思っています。資格を取得すれば学歴や職歴は関係ありません。上下関係もありません。また、性別や年齢に影響されることもありません。
そしてさらに面白いのは、自分の知識や発想に基づいて、自分で計画を立てて仕事を進めることができることです。いわば自由に仕事ができるということです。そしてそれが、人々のお役に立つ。こんな仕事はほかにはないでしょう。
受験時代は確かに辛いです。しかし、合格して司法書士になってみると、味わった苦しさを補って余りある喜びが待っています。早く合格して、ぜひこちらの世界に来てください。心から待っています。
(2011年3月・記)
事務所プロフィール
司法書士法人ソレイユ(大阪支店)
■ 業務内容
民事信託、エピローグ・ケア等、個人・法人向け各種支援・相談業務
■ ホームページ
http://votre-soleil.com/