憲法理念を大切にし、市民と共に歩む、多くの司法書士仲間と人権活動を実戦
【奈良県】ごじょう中央司法書士事務所
代表 西山弓子 先生 (司法書士)
■Profile
1999年 司法書士試験合格
2003年 簡易裁判所訴訟代理関係業務認定
2005年 ごじょう中央司法書士事務所開設
司法書士を目指されたきっかけを教えてください。
私は、司法書士を目指すまで、学習塾に勤務していました。日々、子どもたちに「勉強を頑張れ、目標に向かって頑張れ」と言い続けていたのですが、自分自身のこれまでを顧みても部活以外に何かを目指して頑張ったと言えるのか甚だ疑問であり、そのような私が子どもたちに遊ぶ時間を割いて頑張ることを求めること自体にとても違和感を感じ、また、説得力にも欠けることに苦痛を感じるようになっていました。そんな日々を送る中で、幼い頃から漠然と“働くお母さん” になりたいと思っていたのに、土日や長期休暇中、夕方から忙しくなる、子どもの生活サイクルと真逆の時間帯での学習塾の仕事をこのまま続けて良いのか、自分でも何か頑張ってみるべきではないか、ただ漠然と考えているだけでなく、“働くお母さん”になるために努力してみようと思うようになり、仕事と子育てを両立できる資格を探すことにしました。書店に行き、何を目指そうかと探している時、いまさら歴史の年号を覚えたり、理系科目は避けたいなどと考え、いろんな資格本の中から消去法でたまたま出会ったのが司法書士の資格でした。ですから、当時は「司法書士=登記」くらいの認識しかありませんでした。
合格後、開業までの経緯はどのようなものでしたか。
合格後は1年間福岡で、結婚後は配偶者が開業していた大阪で司法書士事務所と法律事務所に計5年間勤務しました。かねがね弁護士や司法書士のいない若しくは少ない『司法過疎』の問題に関心があり、独立開業するならば、配偶者の出身地でもあり、特に司法過疎が深刻である奈良県南部にしようと考え、2年前に現在の五條市で開業しました。ちなみに配偶者も同時期に、大阪市内から五條市の隣町である大淀町に、自分の事務所を移転しました。開業当初は、それまで五條市内には簡裁訴訟代理認定をもった登記以外の職域を扱う司法書士事務所がなかったので、依頼者のプライバシーに配慮した、司法書士事務所としてはかなり広めの事務所や、事務所の窓ガラスに書かれた“裁判”や“成年後見”の文字に、周囲の方はずいぶん驚かれたようです。
仕事に取り組む時に気を付けていることを教えてください。
私は司法書士の業務をしていく上で、人権活動や市民運動に大きなウエイトを置いています。司法書士は、法律家として、憲法の理念を社会に浸透させるために、各種法律が作られる段階から、憲法理念に即した内容の法律となるのか、現場において法の理念に反した運用がなされていないかなどを検討したり、“現実を憲法に近づける”ために、市民の皆さんに対する様々な問題提起を怠ってはならないと思っています。
私が合格した当時は、まだ司法書士関係の印刷物に“人権”という文字をほとんど見かけませんでした。最近では、ラテン語で“公共の利益のための無料奉仕”という意味の「プロボノ」という言葉が司法書士の中にも随分浸透してきました。ボランティアとは違い、プロボノ活動を行うことは、司法書士の職責の中に内在する本質的な義務であると受け止め、新人研修などでも必ずお話しています。いま全国青年司法書士協議会の人権委員会に所属しているのですが、ここには「憲法理念の実践」「基本的人権」を強く意識して仕事をしている司法書士の仲間が大変多く集っています。
事務所には毎日たくさんの方が相談にいらっしゃいます。相談者や依頼者と接する際には「伴走者型司法書士」を目指しています。これまでの専門家主導、本人不在という解決方法に対する不満が多かった点を意識し、まずは話をじっくり聴く。これがとても大事だと思っています。何が問題なのか、どう解決したいと思っているのかなど、一つずつ整理するために、じっくり考える時間を共有する。そして解決のために利用できる法的手続きや行政サービスなど、「あなたには、こんなに選択肢があるよ」という情報を提供し、その上で相談者・依頼者自身が判断する。司法書士は結論を押し付けない。このように考えています。
ご自身の今後のビジョンと、これから司法書士を目指される方へのメッセージをお願い致します。
現在は司法過疎地で地域密着型の仕事をしていますが、地域の皆さんとお話をする中で、もっと法的側面から「行政」に関わっていきたいと考えるようになりました。システムの中に司法書士として関わる、例えば行政サービスとしての法的支援体制を実際に創るところから、司法書士が関れるようになれたらと思っています。現場のニーズを把握し、市民の目線・立場を知っている司法書士が、行政に参画し、各機関との連携を図り、行政サービスや様々な制度に、市民のニーズを反映させることができるような活動をしていけたら最高です。
司法書士はやれることがいっぱいあります。「中途半端な資格だ」と何もやらないうちから嘆く人もいます。でも、私の司法書士としての毎日は充実感でいっぱいです。ぜひ合格して体感してほしいと思います。間違いなく司法書士になってよかったと思えるでしょうから。
★CLOSE UP
人権活動の基本は「現場を訪れ、現実を知ること」
両親や姉が教員だったこともあり、「人権」という言葉が幼い頃から身近にあったように思います。そんな環境で育ったせいか、全国青年司法書士協議会(※)では迷わず人権委員会への所属を選択しました。当初は司法過疎地の巡回相談活動がメインだったのですが、そこから戸籍制度の問題、ハンセン病療養所、児童養護施設などへの訪問、野宿者支援へと、活動が広がっていきました。現在はハンセン病問題に一番力を注いでいます。きっかけは先輩司法書士に岡山にある療養所に誘ってもらったことです。初めて訪問した療養所はとても静かで、緑溢れる綺麗な地でした。しかしそれには理由がありました。静かなのは終身絶対強制隔離政策によって行われた断種・堕胎のため子どもを持つ権利を奪われ、子どもがいないから、緑豊かなのは隔離をする場所として選ばれたいわゆる「僻地」だからです。そして綺麗な景観の断崖からは多くの方が自らの命を絶ったことを聴き衝撃を受けました。この話を聴き、あのとても綺麗だった風景の印象は一変してしまいました。この場所に来るために通った橋も、完成までには近隣住民の反対が大きく難航したそうです。現実を知った衝撃や、弁護団声明の「らい予防法という日本国憲法には相容れない法律の存在を許したことに対し、法曹としての自らの責任に思いをいたす」という“法律家の不作為”という言葉に出会った私は、「司法書士も街の法律家だと言っている以上、不作為の当事者ではないのか。何かやらなければならない。でも何をやったらいいのか分からない、それならば皆で訪問してそれを見つけよう」と思い立ち、群馬県の草津にある療養所や沖縄の療養所に向かいました。最初は「司法書士?何しに来たの?」という感じでしたが、厚かましく訪問し、お話を伺い、共にお酒を酌み交わし、私たちの思いを理解し、受け入れてもらえるようになりました。療養所では遺言や相続の問題のほか、入所者の皆さんに支払われた国家賠償金をねらった悪質商法などの問題が起きていることが分かりました。現場に行ってみて初めて現実が分かり、私たちに何ができるのかが分かります。身近な法律家を名乗っている司法書士だからこそ考えなければならないこと、法律というスキルを持つ司法書士だからできることがあると痛感しています。まだまだやらなければいけないことが山積しています。
※全国青年司法書士協議会は、全国の約2500名の会員からなる青年司法書士の団体です。「市民のために」を合い言葉に、「身近な法律家」を目指し、研修、全国の司法過疎地での「無料法律相談」や「法律教室」の開催、ホームレス状態にある人々へ法的支援活動、司法制度・司法書士制度に関する意見提言な ど、様々な活 動をしています。
依頼者と共に歩む「伴走者型司法書士」というスタイル
司法書士の業務は、依頼者からの依頼内容に応えるだけではないと考えています。例えば破産などの案件では、申立をして免責決定が出れば一通りの手続きは終了します。しかし支払不能に至った原因や背景を把握し、根本的問題の解決がきちんとなされなければ生活の再建は難しく、本当の意味での問題解決には至りません。その後の生活のこと、本人の幸せをとことん一緒になって考えることが必要だと思っています。そのためにはやはり当事者の話をじっくり聴かなければなりません。例えば、離婚の案件などは、すぐさま「別れるか・別れないのか」という結論を急ぐのではなく、本人が悩む時間、気持ちを整理する時間が確保されることが必要だと思っています。別れる場合、別れない場合それぞれの場面で利用できる法的手続きや行政サービスなどの情報を十分に提供し、本人自身による意思形成のためのサポートをしていきます。また私から質問する時には、「はい」か「いいえ」で回答できるような質問をできるだけしないようにしています。「別れたいのですか」と質問するのではなく、「どのようなことがあったのですか、それに対してどう思いましたか、どうしてそう思うのですか」というような質問をして、本人が混乱の中から、自ら問題に向かい合うためのヒントが得られるように心掛けています。司法書士が一方的に解決方法を決め付けるのではなく、依頼者と一緒に走り、ゴールをするのは依頼者自身。これが望ましい解決方法なのではないでしょうか。
地域密着型の業務で感じる達成感と責任感
現在は奈良県の五條市で地域密着型の司法書士として、日々の業務に取り組んでいます。都市部での業務を考えている方からは、仕事が無いのではないかと不安に思えるかもしれません。しかし人が住んでいるところには司法書士の仕事は必ずあり、登記、訴訟、多重債務などのご相談をバランスよくいただいています。私は福岡、大阪でも司法書士業務の経験がありますが、都市部も地域も仕事の内容はさほど変わりません。扱う不動産が山林だったり田畑だったりすることも多いですが、基本的には同じです。また都会で事務所を立ち上げるよりも、地域の方がよく目立ち、話題にもなるので、お金をかけて自分を売り込む必要がありませんでした。やはり大事なのは、どのような考えを持って仕事をするかだと思います。無料法律相談会に相談に行ったあとで、セカンドオピニオンを求めて私の事務所を訪れる人がいます。事情をうかがってみると、相談会では時間が短くて思っていたことを全部話せなかった、心情面を聞いてもらえない、解決方法を示されたけれど、他にも解決方法があるのではないか、と不満や疑問を話されます。私は、このような不満や疑問は、できるだけ時間をかけて、じっくりお話を聴くことによって解消可能であると思っていて、可能な限り、時間をかけてお話を聴くことにしています。相談後や事件解決後に「ありがとう」と言ってもらえる、次の方を紹介していただける、これはとてもうれしいことです。気持ちが伝わった、気持ちが繋がっていると感じる瞬間です。また司法書士が少ないので、地域からの自分に対する注目度が大きく、五條市の司法書士像を背負っているという意識や責任もあります。「話しやすいね」といわれることも多く、これもうれしい言葉です。今は将来をまだまだ模索中ではありますが、目指していることを少しずつ実践し、自分らしさを出せつつあると思っています。いずれにしても今しかできないことをきちんと誠実に取り組んでいきたいと思っています。
よしの中央司法書士事務所
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ごじょう中央司法書士事務所
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