私は今年の合格者の平均年齢よりだいぶ上の世代です。勉強開始前にある講師の方が、中高年受験生であっても年齢は、言い訳にならない、と、言っておられました。また伊藤塾の行政書士試験科の講師が、民法は総則が最も難解で、最も難解な民法総則から始まるので、とても難しく挫折してしまう人が少なくない、と言っておられましたが、これはその通りと思います。私も大学2年生で民法総則を初めて学んだときは、非常に苦労しました。初めて法律を学ぶ者にとって、刑法や憲法とは異なり、とても入りにくい科目だと思います。ただ、苦労はしましたが、その後は得意科目となり、実務で役に立つ上、各種資格試験でも得点源となり、司法書士試験でも毎年大量得点してきました。自分自身の学生時代の体験をふり返ると、年齢に関係無く、司法書士試験の勉強で、初めて民法を学ぶ方々は、民法を理解して応用できるようになるのに苦労しても不思議ではありません。還暦前後に司法書士試験の勉強を始めて、そのとき初めて民法を学ぶ方々は、難しく感じられることがあるかもしれませんが、それは誰にとっても難しいのであって、決して老齢から理解力が低下しているからではありません。また登記法のひな型の暗記は、若い受験生であってもとても苦労されています。複数の講師が、主要ひな型は繰り返し学習して目を瞑っていても何も考えないでも自然に手が動く域まで達しているのが合格レベルと説いています。今ふり返るとその通りだったなと感じます。今は自信を持って言えます。司法書士受験合格に年齢は全く関係がないと。そのことを皆さんにお伝えしたく、受験時代を振り返ってみます。

学生時代と変わってしまった法律を学び直したい、
これが始まりでした

 ずいぶん昔になってしまいましたが、学生時代の学部は法曹や公務員を目指す学生が大半の中、受験は全く考えておらず、金融機関に就職しました。ただ、学生の本分は、勉強と考えていましたので、法律の勉強そのものは、真面目にしました。社会人になってからは、業務上で担保権設定登記等、司法書士に仕事を依頼する機会は、頻繁にあり、若い頃から登記簿謄本は、日常的に見ていました。しかし有資格者ではないので、実際の手続きは行えませんが、登記書面を正確に読めるようになりたいと思っていました。また、民事執行法、民事保全法など、私が学生時代には、まだなかった法令を取り扱うことも多く、これらの法律も勉強してみたいと思っていました。また、商法の大改正があり、会社法など新しい仕組みも興味のある分野でした。仕事をしながらも、法律を学び直したいという知的好奇心はだんだん大きく膨らんでいきました。
 訪れた転機は5年前です。職場も商社に移っていたのですが、出向終了に伴う人事異動の関係から時間のやりくりがしやすい環境で仕事をすることになりました。これを契機に、「もう一度法律の勉強をしたい」という気持ちが再燃し、特に会社法を体系的にきちんと勉強をしたくて、学習機関で法律を勉強することを決めました。

知的好奇心で始めた法律学習、
気付いたら合格を目指すことに

 伊藤塾での学習スタートは、山村拓也講師の入門講座でした。山村講師は誠実なお人柄で、講義のスタイルも私の“体系的に学習したい”という知的好奇心を十分満たしてくれました。ずいぶん細かい質問をしたこともありましたが、そのつど真摯に答えていただいたことは今でも忘れません。
 資格取得(=試験合格)は必ずしも目標とせずに勉強を始めたのですが、学習を進めるうちに、合格したいという気持ちが強くなっていきました。しかしフルタイムで働きながらの受験勉強は楽ではありませんでしたが、会社近くのコーヒーショップで、出勤前に資格試験の受験勉強をしているサラリーマンがあまりにも多いことに驚き、自分もそのスタイルで学習していました。また山村講師の「自分の一年間の講義は直前3ヶ月の復習に役立てるための講義」という言葉が印象に残り、講義の情報や過去問などの教材を集約することに力を注ぎました。伊藤塾のテキストは26の穴があいていてバインダーに収納できるので、さまざまな教材を一箇所に集約するにはたいへん便利な教材でした。
 また、山村講師が「絶対にあきらめてはいけない」と強調していらしたのは印象的でした。「もしも諦めればその瞬間に合格は確実になくなる! 仮に勉強が間に合わなくて合格可能性が低いと思っても、前日にチェックした記述式のひな型が出題される可能性だってあるのだ。本試験で時間が不足しても、自分だけではなくすべての受験生にとって時間が不足している可能性が高いのだ。仮に午前の成績が良くないと思っても、難易度の高い出題で、午前の基準点が低くなるかも知れないではないか。」
 特に今年の本試験は、時間が不足しましたので、最後まで気力を維持して受験できたのは、山村講師や後述の高城講師の言葉を聴いていたからです。

挫折・失望と復活、
本気でやり直した1年半で見事合格できました

 2013年、民法の知識が不安定と感じ、知識を確実にするため、高城真之介講師の入門講座を再受講しました。高城講師は受験生一人ひとりと面談し、その人に合った適切なアドバイスをされます。またご自身の“泣きながら、あきらめずに必死でがんばった受験経験”なども私たちに披露してくれる、親身な講師でした。記憶については“ごろあわせ”を教えてくれましたが今でも鮮明に記憶に残っています。またある日、平日昼間に受講生有志を法務局に引率し、登記や供託の申請書用紙実物を示して、登記簿謄本を実際に交付させてみるという、恐らく未経験者にはテキストや講義だけでは得られない、記憶に残る指導を行われていました。
 確実に実力は上がっていき、模試でも合格点がとれるようになっていた2年前の本試験のことです。おそらく、この分野は出題されないだろうと思われていた問題が記述試験で出題されました。こんな問題は実務でもありえない、意味の無い出題ではないか、と思い、このような出題がされる司法書士試験は受験する意味がないのではないかと思ってしまいました。すっかりやる気がうせてしまい、半年程は、司法書士試験の勉強をする気になれず、かねてから興味のあった宅建やマンション管理士の勉強をしていました。
 しかし、司法書士の実務家と話す機会があり、意味がないと思っていた本試験問題の話をすると、実務の世界では問い合わせが頻繁にある案件であることを知らされました。司法書士試験は学問ではなく実務の試験なのです。だから、学歴とか、法学部だとか、年齢とか、全く関係なく受験でき、合格することができる試験でした。私はあらためて司法書士試験のすばらしさを痛感しました。2014年12月のことです。ここからは会社も辞めて、再び司法書士試験受験に集中することを決めました。本気で望んだ今年の司法書士試験は、私の思いを受け止めてくれました。
 私は年齢高くして司法書士試験にチャレンジし合格することができました。若い人より、学習面で不利なことは、当然のように認識して学習していました。特に老眼が進行して夜勉強していると目が疲れてしまうのは、困りました。
 司法書士試験は年齢、学歴、性別、環境など何一つ関係なく、本気で臨めば合格できる試験であると自信を持って言えます。ぜひ、本気のチャレンジで合格を目指してください。