裁判官
一般的な裁判官業務
裁判(民事・刑事)
裁判官は,裁判を起こした人,裁判を起こされた相手方の話を聞いて,法律と良心に従って中立公正な立場から判断(裁判)をします。
裁判には、大きく分けて2種類あります。1つは民事裁判で,もう1つは刑事裁判です。
私たちが、社会で生きていく上で、民事(市民の生活関係について規定した法律)上の権利関係に関する紛争に巻き込まれることがあります。その紛争の中には、当事者間で解決しているものも多くありますが、当事者のみでは解決できない場合もあります。そういった場合の解決手段の一つが、民事裁判です。民事裁判では、裁判官が、当事者双方の主張のうち、法的にどちらの主張が正当かを証拠に基づいて判断して、紛争の解決を図る民事訴訟がイメージしやすいと思います。しかし、当事者間の紛争を解決することが一番大切ですので、裁判官が判断を下すのではなく、当事者の間に入って話し合いにより解決すること(和解)もあります。
刑事裁判は,刑罰に触れる行為をした人がいた場合に,検察官が,裁判所に対してその人の処罰を求めると、開かれます。裁判所は、証拠等から勘案して、検察官の主張内容が正当だと判断すれば、有罪判決を言い渡し、主張内容に合理的な疑いが残ると判断すれば無罪判決を言い渡します。
裁判官は、民事裁判でも、刑事裁判でも、まずは裁判を起こした人やその相手方の主張を正確に理解しなければなりません。その上で、証拠から双方の主張を裏付けることができるのか、を判断します。裁判官の判断内容次第で、裁判を起こした人やその相手方の人生が大きく左右されることも少なくありません。そのため、裁判官の責任は重いといえます。
民事執行手続等
民事執行手続とは、私人がその有する権利内容を、相手方の意思に反してでも実現する裁判上の手続をいいます。日本では、私人が、直接相手方と掛け合って、その相手方の意思に反して、権利内容を実現することは禁止されているので、民事執行手続が必要になります。
例えば、ある人がお金を貸したのに、借りた人がお金を返さないとします。この場合、お金を貸した人が、借りた人の家に行って、勝手にお金になりそうな物を取ってくることは許されません。そこで、貸した人は裁判所に民事執行手続を請求します。これに基づいて、裁判所は、借りた人の持っている物を差し押さえて、競売にかけ、物を売ったお金を貸した人に返します。
民事執行は裁判所が主導して行います。その際、裁判官は、民事執行の中心的な役割を果たします。民事執行に必要な資料が揃っているかを確認したり、競売手続を開始する決定をしたりします。
令状の発付
刑事事件の場合には、警察官などの捜査機関に対して、令状を出すことも裁判官の仕事の一つです。
令状とは,警察官などに対して,裁判官が方法や範囲を定めて,捜査を行うことを認める許可状です。例えば、警察官は、「この人は昨日置き引きしていた人に似ているな、きっと置き引き犯に違いない」と思っても、自らの判断でその場で逮捕することは、原則として許されていません。警察官は、裁判官が発付した逮捕状に基づき逮捕することが法律(刑事訴訟法)で定められています。
令状の種類として、逮捕状の他に、強制的に住居等に立ち入り,犯罪と関連がある物を取得する捜査を許可する令状である捜索差押許可状,人の身体の状況を強制的に確認する捜査を許可する令状である身体検査令状などがあります。
裁判官が令状を出すための条件は,法律に定められています。そのため、裁判官は、その条件がそろっているかどうかをチェックし,条件がそろっていれば,令状を出します。
捜査機関は、いつ発生するか分からない犯罪を捜査しているので、夜間に令状が必要になる事態もあります。そのため、警察などの捜査機関は昼間だけでなく,夜間に令状を請求することがあります。これに対応するために、裁判官も、夜間の令状の請求に対応できるよう裁判所に待機しています。
その他
裁判官は、裁判所以外の場所で,1年から2年程度,裁判官以外の仕事等の経験を積む機会があります。これによって,裁判官は,裁判官としての身分を離れて,他の法律専門職の職務経験等を積むことによって,多様な知識・経験を得ることができます。具体的には、弁護士として法律事務所で働いたり,行政官庁や在外公館などに出向したり,海外留学したりすることがあります。
裁判官のキャリア
原則として、裁判官になってから始めの10年間は判事補に任官されます。そして、裁判官として10年以上の経験を経ると、任命により判事となります。判事補は、原則として1人で裁判をすることができません。そのため、裁判官としては半人前と言えるかもしれません。
裁判官は転勤が多く、3年に1度くらいの頻度で転勤があります。もっとも、家族の都合などがあれば、配慮してもらえることもあるようです。
小規模の裁判所だと、裁判官の人数が少なく、特定の分野に特化した専門部が設置されていません。また、裁判官が、裁判する案件を選ぶことはできません。そのため、小規模の裁判所に所属する裁判官ほど幅広い案件に対応しなければなりません。
他方、東京地裁などの大規模な裁判所では、例えば、知的財産権に関する事件を集中的に扱う知的財産権専門部などといった専門部が設置されています。そのため、専門部に所属する裁判官は特定の分野に特化して仕事をすることができます。