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他人の人生を「大きく変える力」を持つ仕事

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土居太郎先生

経歴 
國學院大學法学部法律専門職専攻第一期生
千葉大学法科大学院修了
2015年 弁護士登録

※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。

理不尽に立ち向かえる弁護士という職業に魅力を感じて

私は高校生の頃理系だったのですが、あまり勉強が得意でなく、高3の夏ぐらいに理系の道を諦めて、図書館に引きこもり様々な分野の本を読み漁りました。その時に弁護士の自伝本や法律に関する書籍を何冊か読みましたが、その中には宇都宮健児先生の本やクレサラ闇金の本、そして伊藤真先生の民法に関する書籍もありました。そういった書籍を読み、「法律の力ってすごい!」と感じ、どうせやりたいことも無くなったし弁護士になる道にチャレンジすることを決意しました。やはり法律の力というものは、人の人生を全く変えてしまう、例えば親や子が残した借金は相続放棄の手続きを使えば一瞬でゼロになるとか、そういうことを全くと言っていいほど私は知りませんでした。書籍を通じてそのような悩みを抱いている方を助けた弁護士の自伝を目の当たりにすると、心から「すごい」という思いが溢れ、理不尽に立ち向かえる弁護士という職業に魅力を感じました。それが高校3年生の夏ぐらいの話です。当時の私は国立理系コースでしたので、センター試験向けに文系科目も入っていたことから、幸いにも科目を削れば私立文系に進学することが可能でした。国語と英語と政治経済などの科目のみで受験可能な大学だけ受けることにし、早く法律を使う業界に行きたかったので浪人をせず現役で進学できる大学に早く行こうと思い國學院大學に入学しました。
 國學院大學では法学部の中に法律専門職専攻という法曹養成コースを実験段階で作ろうとしていた時でした。したがいまして、そこの1期生として入らせて頂き、1期生だからこそ大学側も目をかけてくれました。学者の先生に近くで色々と聞けたのは貴重な機会でした。当時は「大学の授業では司法試験は合格しない」などと生意気なことも言っていましたが今思うと学者の先生に色々言えて会話を出来たのは本当に良い機会だったと感じています。しかも30人とかしかいないのでロースクールのような感じでした。とにかく距離が近く、学者の先生が全員の名前を覚えているような距離感です。それが本当に面白かったです。あとロースクールの準備段階のミニロースクールみたいな感じでしたので、7科目を同時並行して進めていかなければなりませんでした。ロースクールほどは厳しくないのですが、その前段階として7科目の並行学習は慣れておいて良かったなと感じています。最終的には弁護士など法曹三者になって欲しいというコースでしたので、司法試験を意識して、あまり学術的なところは控えるように先生達は授業をしていました。自説で研究している論文はそれほど触れずに淡々と教科書通りにやっていく形でして、実務に役立たないことはやらないように大学側では配慮してくれていたようです。
 そして伊藤塾渋谷校も大学から近いことから、授業が終わったらすぐに行けるため入塾しました。とにもかくにも大学の頃は法律の勉強漬けでしたね。
 修習生時代には7月集会という会合に委員として関わっていました。7月集会とは司法修習生が毎年自分たちで行うイベントでして、人権に関するテーマをいくつか選び、毎年京都で7月に分科会を開き、修習生を呼んで第一線で活躍する様々な人の講演を聞くという会です。私は実行委員として関わっていました。7月集会は同期の繋がりが出来るのが大きいです。今もまだ繋がりがあるのですが、困った時に聞けたりする人間関係は貴重です。「破産のこの資料をどうすればいいの」などと簡単な質問に対して、すぐに返信がくる間柄ですし、例えばもっと初歩的な「裁判所にFAXを送っていいんだっけ?」という質問でも、上の人に聞くと叱られますが横でしたら気軽に質問することができます。送っていい書類と悪い書類があり民訴法規則で決まっているというところまでは覚えているのですが、修習を終えると頭から消えてしまうことも多々ありました。1年目だとミスしてはいけないといった不安感が皆あるようでして、気軽に質問できる間柄は財産だなと心から思っています。上に聞くと叱られるかもしれないと変に委縮しちゃう人もいますし、事務所によっては「何を勉強してきた!」などと言われてしまうようです。今でも専門的なことを、LINEを使い同期に質問したりしています。守秘義務があるので個別情報は出せないのですが、一般論で「こういう法律ってどういう解釈なの」とかその程度の質問と回答のやりとりをしています。「こういう良い文献があるよ」などの返答を頂いたりしています。固有名詞を出すのは絶対NGとかルールはありますけど特定不可能なようにして質問しています。こちらが「労災申請を初めてやるのですが何かいい方法ありますか」と聞いたら、その道のプロが「この本を読みなよ」と3つくらいあげてくれたりします。自分で本屋に行って探したり、図書館行って探したりすると全てをチェックするのはとても大変ですので、やはり今でも横の繋がりはとても大切です。特段意識して横の繋がりを作ったということではないのですが、結果的にそうなって良かったなという感じです。

LGBTに対応するチームがないことに危機感を抱き

千葉中央法律事務所に入所したきっかけですが、修習中に労働者側の労働事件を見てみたいと色々な人に頼んでいて、いくつか見せて貰いました。その中の一つを見せて頂いた先生が千葉中央法律事務所の先生でした。修習終わりぐらいになって「先生行くところがないのですが」とお願いしたところ、「考えてみるよ」と言って頂き拾って頂いた感じです。
 当所の特徴ですが一般的かもしれませんが、地域に根付いた法律事務所になるかなと思います。相続から離婚、破産、債務整理とか労働事件などを取り扱っています。ただ伝統的に労働者側で労働事件をずっとやってきた諸先輩方がいるので、今までの伝統からメインは何かというと労働者側労働事件です。もちろんそれだけやっているってわけではないので刑事事件もやりますし、著作権とかもやったりします。相続、家事関係、労働、債務整理辺りが多いですね。
 その中で私が担当しているのは最近ですと債務整理が多いです。やはり世の中の世相を反映しているのか今年はどんどん増えてきましたね。あと社会福祉委員会というところに入っているので、その関係で事件がきたりします。社会福祉委員会とは基本的には生活困窮者、貧困とかの問題にはなるのですが、幅広くやっていて貧困といっても色々とありまして、例えば奨学金の問題とか、住まいの問題だとか、そのような問題を委員会で取り扱っています。私がその委員会に入ったのはLGBTの問題をやりたかったからです。修習生の頃の7月集会で、私は障がい者問題の分科会の実行委員、といっても末端だったのですが、その年の他の分科会でLGBTの問題を取り上げていたので、このような問題があるということをそのとき初めて知りました。ただ女性系の弁護士やフェミニスト系の人がやっているだろうと思い、特に気に留めてはいませんでした。ですが、千葉県弁護士会の中にLGBTの対応するチームがなく、LGBTの無料電話相談とかは東京弁護士会がやっている状況であったため「これはまずい」と直感的に思いました。千葉県弁護士会の中でもそのような問題に対応するチームを作ろうとしたところ、社会福祉員会の中にLGBTの問題に積極的に取り組んでいる先生がいまして、その方と縁もあり昨年のところで新部会を成立させました。千葉県内にもLGBTに先端的に取り組んでいる弁護士もいらっしゃるため、その方々とチームを作り、今はまだできたばかりですが10人ほどいます。よって、何かあった時には弁護団を組めるぐらいの人数にはなっています。
 私の考えとしては、あまり分野を特定特化すればいいと思っておりません。例えば医者などは総合医がいると思うのですが、総合医は色々な分野を広く勉強していて、全てを深く知っている必要はなく、きっかけがあれば専門の人に繋げばいいだけの話ですので、それと同じように弁護士としても総合的にやりたいと思っています。あと実際に仕事をしてみると色々な分野が絡み合っていることが結構あります。離婚をやっている最中に刑事とか破産がくっついてくることもありますし、逆もしかりです。関連していることが多いので、そのような時に専門化してしまうと気付くことができない場合や、気付けたとしても「担当じゃないから他の先生よろしく」となると、また一から説明しなければなりません。あるいは事務所に専門の人がいなかったら他の事務所を自分で探してきてとかになってしまいます。それですと、料金的にも労力的にも精神的にも依頼者にとって大きな負担になってしまいます。専門分野を作った方が良いという意見の人が多いかもしれませんが、私はあまり特定の分野を作ろうと考えはありません。もちろん依頼者によっては専門のこれしかやっていないという先生に頼みたいって人もいるとは思いますが。

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実務の現場は未知の問題だらけ

弁護士の仕事としてのやりがいは、やはり人の人生を変えることができる点だと考えています。法律の力というのは、すごいのと同時に恐ろしい面もあると思っています。人の人生を大きく変えてしまうことも多々あります。もちろん全てが上手くいく事案ばかりではないのですが、やはり上手くいった事例とかは格別です。私がそこの場面で違う選択をしていたら全く違う人生になっていたという局面がありますので、嬉しいと同時に冷や汗が出るほど恐ろしいことだと思います。
 思い出深いのが一年目に担当した事件でホームレスの人の生活保護申請でした。その方を役所に連れていったところ事情があってその日に生活保護を通して貰わないとまた路上生活に戻らざるをえないような人でして、健康状態も限界という人でした。役所に行ったところ「管轄が違う」などの理由を付けられ追い返そうとされました。生活保護手帳というものがあるのですが、やや苦しいながらも屁理屈を色々と言ってみたところ、「分かりました」ということで何とか通して頂き、その方は今も元気で千葉で暮らしています。それはとても思い出深いですね。法律の力はやはり怖いです。あの時に私が役所の人に言われて「ああ、そうですか」と引き下がっていたら、路上生活に帰ってくださいということになってしまったと思うと恐ろしいことです。
 正直私の性格は法曹には向いてないと思っています。この業界は多少何があっても動じないようなタフな人が向いていると思います。やはりベテランの弁護士さんは図太い性格の人が多いなと感じています。私は線が細い方ですので、あまりそういうのには向いてないのですが、文献とかを漁り徹底的に調べることによって安心感を得るようにしています。弁護士会の図書館によく行くのですが様々な人に「いつも居るね」と言われています(笑)。文献を一つ見ただけでは信じられなくて「この著者が言っているだけ」というのが根本にあるため様々な文献を読むようにしています。ですが多くの問題はほとんど書かれておりません。書いてある問題はそもそも問題にならない。書いてあるようなことだったら既に処理されていて、書いてないから問題になっているわけだと思います。伊藤真先生が「実務に出たら分からない問題ばかり」だと仰っていました。答えがない問題ばかりだと。その時は正直なところ何を言っているのかよく分からなかったのですが、今思うと「そういうことだな」と理解しています。答えのない問題ばかりで書いてあるとは限らない。択一じゃないわけですから答えが明確に書いてあるわけではないため、自分で考えてどちらが正解かを考えなければならない、伊藤真先生が言っていたことが初めて分かったといったところです。実務は本当に未知の問題しかないと思います。未知ばかりです。自分で考えなければならないことが多々あります。
 受験生時代、弁護士という職業は忙しいのは分かっていたのですが想像以上でした。あとはプレッシャーです。甘く考えていたところがありまして、他人の人生を背負うってことは頭では分かっていても、本当の意味で理解してなかったので、今プレッシャーをとても感じます。色々な人に怒られることもありますし、裁判所から怒られることもあったりします。本当は言い返したいけど言ってしまうと依頼者が不利になるから言えない、それで謝るしかないとか。そういうストレスもあったりします。裁判所から結構言われてしまい、本当はこういう事情があってというのを言いたいのですが、言うと依頼者の不利になるので、敢えて「すみません」と、自分が悪いということで泥を被ったりすることもあります。例えば破産などで資料が3カ月経っても出てこないときなど、「本人が出さないためです」と言うこともありますが、場合によっては言わないこともあったりなどします。そして色々な人に叱られてしまい変なストレスが溜まる時があります。受験生時代はその辺りを甘く考えていて、「法律使ってバンバンやるぜ」という短絡的思考でいったのですが、そんなに甘くはないですね(笑)。
 私の尊敬している先生が仰っていたのですが、「初めての分野だからといって出来ないことはない」と。例えば裁判官ですと、いきなり東京高裁の知財にある日飛ばされて、全く知財なんて触れたことないのに著作権をやれとなって、頑張ってやって数カ月経って判決を書いているわけで。それを彼らがやっているのだから出来ないわけがないと言われて「なるほど」と思いました。そこまでの実力があるかは別として、彼らに比べればとても簡単だろうと思います。

たった一人だけの味方になれる魅力

私のこれからですが、どんどん勉強を進めていって、どのような分野でもある程度の対応が出来るようになりたいなと思っています。あとは今の閉塞した弁護士業界を何とかしたいと思っているので、将来的にはそういう活動にも関わっていきたいと思っています。というのも弁護士そのものや弁護士会が弱体化している点につき「このままでいいのか」と危機感を抱いているためです。弁護士会不要論みたいなのも一部で出てきてしまっているようでして、弁護士会の選挙でそういう公約を掲げた人が出てきたりもしています。そういうのが危惧されていて、弁護士会がなくなってしまうとモノを言える団体が無くなってしまうと思うので、弁護士会を強化するような活動に関わりたいと考えています。あとはやはり憲法問題です。今、憲法は国家の在り方を書くと変なことを言っている人が色々と出てきてしまい、そのような声が多くなってきてしまっている現状があります。やはり伊藤真先生の言う通り、憲法というのは個人の尊厳を守るための手段だということで、そこの筋を大事にしていくには今の日本国憲法を守っていく必要があると思いますので、そのような活動を続けたいなと思っています。あとはLGBTの問題も日本では割と寛容だと言われていますが、やはり社会的な差別とかは多いので、そこを何とかしていくような活動にも関わりたいなと思っています。
 伊藤塾で憲法の理念を学びましたが、明日の法律家講座を受験生時代によく観ていたものですから、あれはとても勉強になりました。また高校で法律を勉強しなさすぎるという問題意識もあるので、私は怒りを覚えています。憲法を教えなさすぎだと。自分が高3生の頃に本を読んでいて立憲主義って2、3行しか書いてありませんでした。そのあとで、これほど重要なものなのかと気づかされたのは司法試験受験生として勉強を始めた後でした。
 繰り返しになってしまうのですが、他人の人生を変えうるだけの力を持っている仕事が弁護士だと思います。プレッシャーも大きいですが、それだけやりがいも大きいです。自分だけが味方になれるって人もいるので、弁護士になって本当に良かったなと思いますね。自分がもしやらなかったらその人はどうなっていたのだろうという思いもありますし、そこが魅力です。検事や裁判官でしたら色々な観点から広域的に考えなければいけないのですが、弁護士ですと自分が助けたいと思った人の、たった一人だけの味方になれるわけです。それが世間からバッシングを浴びているような人であったとしても味方になることができます。そこはかなり魅力を感じますね。誰もつかないとなったらその人一人になってしまい、どんどん追い詰められてしまうので。
 弁護士になろうか迷っている方は、明確にこういう法律家にならなければと思いつめる必要はないと思います。私も当初考えていたところからは全く違うところに流れていき、それでも今なんとかなっておりますので、勉強していくうちに形ができあがってくるはずです。なので、目標を持ちつつ思い詰めずに頑張ってほしいなと思います。

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