お笑い芸人からの転身!ひとの笑顔を取り戻すために。

加地裕武先生

経歴  2007年 千葉県立松戸六実高等学校卒業
    2007年 スクールJCA(お笑い芸人養成所)入所
    2014年 立命館大学法学部卒業
    2016年 中央大学法科大学院修了
    2019年 弁護士法人 多摩パブリック法律事務所入所
    2021年 東京さくら法律事務所入所
          (取材時2020年12月)※2021年1月より東京さくら法律事務所に在籍

加地裕武弁護士インタビュー動画 ~法律家を志す皆さんへ向けて~

 私は、高校卒業後、お笑い芸人を志して、プロダクション人力舎のお笑いの養成所(スクールJCA)に通っていました。しかし、この夢は、すぐに挫折してしまいました。私と同期の志や本気度に強い温度差を感じたこと、私が面白いと思っていた芸人の先輩たちがテレビに出られずに辞めていく姿を見たためです。同期の中には、芸人になるために、「(有名)大学を辞めてきました」、「親を泣かせてきました」という方が沢山いました。一方、私は、高校の時のお笑いブームを受けて、軽い気持ちで芸人を目指しただけでした。私は、地元の高校の中で「(少し)面白い人」という評価を受けただけ、完全な井の中の蛙だったのです。私は、1年間の養成所の期間も満了できず、途中で退学してしまいました。
 私には、当時、私の夢を支えてくれた彼女がいました。私は、その彼女と養成所をやめたことがきっかけで喧嘩をしてしまったことがありました。私が彼女に謝りに彼女の自宅まで行った際、彼女のお母さんが出てきて私にこう言ったんです。「うちの子は加地くんがお笑い芸人で食べていけなくなってもいいようにお金を貯めていたんだよ」と。私は、その言葉を聞いて衝撃を受けました。私にとって、お笑い芸人の夢は、自分が好きだからやりたいと思って自分勝手に選んだものでした。私は、その夢を諦める時も、自分が無理だと思ったから自分勝手に辞めただけでした。その自分勝手な私の夢を、陰ながら全力で支えようとしてくれた彼女や友人達の存在に、この時初めて気づいたのです。お恥ずかしい話ですが、私は、それまで自分の夢なのだから自分で決めて自分で辞めたければ辞めれば良いとしか思っていませんでした。私は、この時、いかにそれまでの自分が自分本位だったかと気づかされ、ひどく落ち込みました。私にとって、この出来事は自分の人生の生き方を考え直すきっかけになりました。私は、この時から、自分のためだけではなく、人のためになる仕事とは何か、お笑いではなく、別の方法で人を笑顔に出来る仕事は何かを漠然と考え始めました。
 私にとって、「人のためになる仕事」をしていた身近な存在は、父でした。父の仕事は、弁護士でした。私は、お笑い芸人という夢から、弁護士という夢に、180度方向転換して、司法試験の合格を目指すことにしました。
 その後、フリーターをしながら大学受験予備校に通って、立命館大学法学部に入学しました。立命館大学法学部では、伊藤塾の基礎マスター講座に通い、法学の勉強に熱心に取り組むことができました。
 このような話をすると、なぜ親が弁護士をしているのに弁護士の道に最初から進まなかったのか、と疑問をもたれる方もおられます。私が最初弁護士の道を目指さなかったのは、私が小さいときから、父が「自分と同じ仕事をする必要はない」と言っていたからです。父は、良くも悪くも自由放任の教育方針で、何でも良いから自分で目標を見つけて、とにかく挑戦してみろというタイプでした。私は、その言葉を受けて、小さい頃は弁護士の道を考えもしませんでした。父は、私がお笑いの養成所に行きたいと言い出した時も、「俺が相方になってやろうか、お前より面白いぞ」などと言うタイプで、応援してくれました。私が弁護士を目指したのも、そのように自由にさせてくれた父へのささやかな恩返しの意味もあったと思います。

 私が在籍している弁護士法人多摩パブリック法律事務所について説明させて頂きます。弊所は、いわゆる公設事務所のうち、「都市型公設事務所」という分類になります。公設事務所というのは、個人の先生が設立した事務所を私設事務所と考えた場合に対置されるもので、東京弁護士会というある種公の組織により設立されたものであるので、公設事務所といいます。つまり、設立の主体が、弁護士個人か、弁護士会か、という点で異なります。公設事務所には、「都市型」と「過疎地型」というものがあります。「過疎地型」というのは比較的分かりやすく、弁護士が全くいないか、非常に少ない地域に事務所を作って、その地域に住む市民の方のリーガルアクセスをゼロから作り上げるための事務所です。一方「都市型」というのは、過疎地に比べると比較的弁護士数が多い都市に設置する公設事務所になりますが、その目的は、リーガルアクセスの更なる拡充と、個人の弁護士では様々な理由で対応できない案件に積極的に携わることで、リーガルサービスのセーフティーネットを作ることにあります。弊所では、個人の事務所では経営的な観点から積極的に扱うことのできない不採算案件などを扱います。不採算案件であっても、お悩みを抱えた方にとっては、その後の人生を左右する死活問題です。個人の事務所が手を差し出すことができない、こぼれ落ちてしまった方々の支援を弊所では積極的に行っています。また、公設事務所なので、私設だと難しい自治体との連携も積極的に行い、お悩みを持つ地域の多くの方にお力添えができるよう日々努力しています。弊所では、身近なところで言うと、事務所の入り口にも気を配っています。現在の法律事務所では、入り口の扉は常時施錠されており、インターフォンを鳴らして入る方式が一般的です。一方、弊所では、お悩みを抱えた方が少しでも気軽に相談できるよう、入り口の扉を開け放って、いつでも相談したいときに相談できる雰囲気を作っています。入り口は、広く取り、車椅子にも対応しています。また、身体的な事情などで事務所に来ることが出来ない方には、弁護士から積極的に会いに行く取り組みも行っています。市民の方は、弁護士という肩書きだけで、怖さや堅苦しさを感じてしまい、相談することを躊躇してしまいがちですが、弊所では、そのような心理的な壁を取り除けるように、物理的な設備をはじめ、様々工夫を凝らしています。
 このように、弊所では、多摩地域の市民の皆様の「法的かけ込み寺」となれるよう、日々努力しています。
 弊所では、基本的には、来る者拒まず、些細なお悩みでもきちんと対応できるよう努力しておりますので、扱う事件については、本当に多種多様なものがあります。主には個人の方のご依頼が多く、一般民事、家事事件、債務整理など身の回りのお悩みから、裁判員裁判対象の刑事事件なども行っています。私自身も幅広く事件に対応しております。公設事務所に特有の案件としては、生活保護申請の代理や同行をしたり、障がいをお持ちの方のご自宅に通って債務整理を行ったり、地域の女性相談窓口から繋いでもらったDV被害者の法的支援を行ったりなどがあります。

私が、弁護士という仕事を始めて、この仕事にやりがいを感じる機会は沢山あります。私が特にやりがいを感じるのは、相談者や依頼者に笑顔が戻った時です。皆さん最初相談に来られる時は、本当に苦しい表情で、明日も見えないような暗闇の中にいる状態で来られます。ですが、相談やご依頼を通じて、その方々のお悩みを絡まった糸を解きほぐすように、少しずつ解きほぐしていくと、最後にはとびっきりの笑顔を見せてくださいます。私は、その笑顔を見ると本当に嬉しくなります。私は、ご依頼を受けて、事件に一緒に携わらせていただく中で、その方の一度は崩れかけてしまった人生を、もう一度一緒に作り直すことができることができるのは、弁護士という職業ならではのやりがいではないかと思っています。

 受験生時代に伊藤塾で学んだことは、実務でも活かされていると感じています。特にロースクールに入ってから受講した論文マスターでは、時間管理の技術を徹底的に学びました。問題文をパッと見た時に、何から始めてどういう手順でやるのか、何にどれくらい時間をかけて行うべきなのか、などを鍛えました。その技術的な部分は、弊所のように仕事が多い事務所では、なるべく効率的に仕事を進めるスキルとして、今でも活かされていると感じています。

私のような若輩者が言うのもおこがましいのですが、私のようないわゆる町弁の弁護士にとって必要な能力は、極論1つだと思っています。それは、「人の話を聴く力」だと思います。この仕事の全ては、人の話を聴くところから出発します。司法試験の時だったら問題文が目の前にあって、すでに問題文に書かれた事実の中から、どういう法律構成をして、どういう解決を導くのかというのが必要な能力になります。ですが、我々弁護士が問題に出会うときというのは、何もないまっさらな紙の状態からスタートします。まずは依頼者や相談者から、どういった事実があるのかを事細かに聞く必要があります。実務家になる前までは、ついつい理屈や自分が知っていることを話したくなることがあると思うのですが、そうではなく、まずは、「どういったことがあったのか」、「何に不満を持っているのか」を目の前の方からひたすら聞いていきます。依頼者にストレスなく、話をしやすい雰囲気で、過不足なく聴くことのできる力が、仕事における全ての出発点ですから、とても大切な力だと思っています。例えば、離婚の相談で、その方が「離婚をしたいんです!」と仰っていても、本当に離婚がしたいのか、離婚はせずに別居のままで婚姻費用をもらう道筋が良いのか、実は復縁がしたいのか、など、その方の言っているキーワードと本心は少しずれている場合があります。事実だけでなく、その方の本心も聴いていく中で、ご本人が本当にしたいことを我々がどう支えていくのか、それを「聴く」力が求められていると日々感じます。


時折、今後、弁護士の仕事がAIに取って代わられるという話を聞いたりすることがあります。しかし、私が実務に出て感じるのは、人との関わりがこの仕事の根幹を支えているということです。機械ではできない「人の話を聴く」というのもそうですし、対話を通じて人の心を解きほぐすこともそうです。私としては、弁護士という職業に暗い未来を想像する必要はないと感じています。一方で、弁護士人口の増加は、個々の弁護士の差別化という課題が先鋭化することも意味します。個々の弁護士の専門分野はもちろんのこと、個々のパーソナリティーという意味での差別化が1つの鍵になるかも知れません。この業界を目指す方は、ついつい勉強ばかりに力を注ぎがちになりますが、このような観点から見れば、勉強の合間に時々力を抜いて外の世界を見たり、色々な情報に接して自分の考え方や人間性に厚みを持たせていくことも大切なのだと思います。私は、過去、今の仕事とは無関係の方向性に進んだこともありましたが、今ではその経験が仕事に活きていると感じています。知識がないとか、勉強が追いつかないとか、勉強で悩んだ時には、自分だからできる仕事はなんなのか、自分がどういう人でどういう人を将来支えたいのかという将来像にフォーカスしてみると、一気に道が開ける時が来ると思います。勉強以外の面でも貪欲に挑戦していただくことが大切だと感じます。

弁護士法人 多摩パブリック法律事務所

■事務所住所

〒192-0012
東京都立川市曙町2-9-1菊屋ビル8F
042-548-2422
http://tamapb-law.jp/index.html



(取材時2020年12月)
※2021年1月より東京さくら法律事務所に在籍
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