人のために声をあげる存在となり、明日を生きる力を与えられる仕事

横山智実先生

経歴  2008年 静岡県立榛原高等学校卒業
    2013年 中央大学法学部卒業
    2015年 早稲田大学法科大学院修了
    2017年 森大輔法律事務所入所
    2021年 田中保彦法律事務所入所
          (取材時2021年1月)※2021年2月より田中保彦法律事務所に在籍

横山智実弁護士インタビュー動画 ~法律家を志す皆さんへ向けて~

 私は小学4年生か5年生の頃に、学校の先生にセクハラを受けたという経験がまずあったんですね。当時セクシャルハラスメントという言葉がまだ日本であまり浸透していない時代だったので、自分に起きていることがなんなのかというのが当時は分かりませんでした。これが悪いことなのか、人に助けを求めていいことなのかという判断もできずに、泣き寝入りをしたという経験があったのですが、当時の自分としては「このままではいけない、言わないとダメだ、言えるようにならないといけない」と思うようになりました。そこでまず自分の性格を変えようと思い始めました。それと同時に、私と同じように物事の判断がつかずに泣き寝入りしてしまっている子供や女性の声を出す力になりたい、一緒に声をあげていきたいという思いも芽生えました。その時は明確に弁護士を目指してはいなかったのですが「人のために声を上げられる存在になりたい」というふうに当時思いました。その後中学生になって自分の将来について考えたときに、女性でもお金を稼ぐことができる職業につきたいなと思うようになりました。ちょうどそのタイミングで学校側が村上龍さんの「13歳のハローワーク」という本を各クラスに一冊置いていって、私がそれをみたときに自分の性格上言われたら言い返すような強気な性格だったこともあり、性格を照らし合わせて「弁護士という仕事は私にぴったりだな」と思うようになって、そのときに明確に弁護士になろうと決意しました。

高校の時は、とにかく学年で上位の成績を残そうと思って、ひたすら勉強を頑張りました。私は静岡県の牧之原市という田舎出身で、周りに大学というものがなかったので、イメージが全然わかなくてモチベーションが上がらなかったのですが、同級生が声をかけてくれて「一緒に東京の大学に行こう」と言われました。そこで東京の大学を見学しに行き、色々な大学を見て回って、一橋大学に行ったときに「この大学に入りたい」と一橋大学に恋をして、そこから勉強にもっと拍車がかかりました。高校三年生の時、受験に失敗して一橋大学には入れなかったので、親に頭を下げて「一橋大学に行きたいから浪人させてほしい」と頼みました。親としては、中学生の時から私が「弁護士になりたい」と言っていたので、法学部に入るなら浪人を許すという条件だったんですね。当時の私としては「法学部に進みたい」と言うよりも「一橋大学に入りたい」という気持ちの方が大きくなっていたので、親の条件を飲み込むのは辛かったですが、「一橋大学の法学部に行きます」と親に言って浪人を許してもらいました。なので、高校の時は弁護士になりたいと言うよりも「一橋に入りたい」という気持ちでひたすら勉強していました。ただ一橋大学も結局落ちてしまったので、センター入試で受かっていた中央大学法学部に入学することになりました。


 大学一年生で法学部の授業を受けたときに結構衝撃的だったのが、不動産売買の話を普通に授業でしているのですが、私は不動産を売ったことも買ったこともなかったんですね。だから現実的でなく話に全くついていけないんですよね。どこの話をしているんだろうと思ってしまって、自分は弁護士に向いていないのではないかと思ってしまいました。
 大学の法律の授業は言い回しが難しく、抵抗感は大きかったです。身近なものに例えて教えてくれなくて直接的な話になるので理論の話に及び、ゼロベースの頭の私は全然その理論についていけず、すごく眠たかったですね。その対策としては分かりやすい参考書を買うようにしました。憲法の授業だったら、どういうふうな原因で起きてしまってというのを見開き1ページで書いてあるような本があったのでそれを見て学びました。
 ただ民法に関して不動産売買は今でも苦手意識があるので、不動産を買おうかなと考えています(笑)。

 伊藤塾に入塾したタイミングは大学2年生の秋頃になります。当時私はアルバイト中心の生活を送っていたので、貯まったお金で何をしようかと考えたときに自分に役に立つことに使おうと思いました。小学生の時から弁護士になりたいという気持ちがあって大学まできたにもかかわらずケーキばっかり販売している生活でいいのだろうかという気持ちがありました。そして大学2年生の秋に伊藤塾に入り基礎を学んで、その基礎で自分が対応できる力があると判断できたのであればその先も大学院に進んでまっしぐらで勉強を進めていこうと思いました。なので、最初に伊藤塾の体験の授業を受けたときは自分の将来を決めるつもりで授業を聞きに行ったというのをすごく覚えています。

 親は私の将来について理解は示してくれました。ただ途中から「娘に弁護士になってほしい」という気持ちの方が強くなってしまって私は一橋に単純に恋をしていた時期があったので、その方向性の違いがすごく辛かったですし、親の敷いたレールの上を歩いているという気持ちになったので大学3年生の時に教授に相談をして一般の企業に就職するかどうかの話をしたのを覚えています。とはいうものの足並みは揃っていました。私がどういう生活をして何を食べてどういう不安を抱えているのかと言うのはいつも母親に電話をしていたので、理解してくれていましたね。
 伊藤塾の講義を受講した帰りに母親に電話したとき、本当に頭が疲れていたので「これ以上覚えられない」「身体中の穴にUSBを挿したい」とか言っていましたね(笑)。
 母親にそのとき言われた言葉ですごく思い出に残っているのが「智実はすごく恵まれた立場にいることを理解しなさい」と経済的にも環境的にも頭脳的にも、弁護士を目指そうと思って目指せている人はほんのひと握りで、そういう状況の中で塾にも大学にも通ってちゃんとご飯を食べながら勉強をできているのがどれだけ幸せなことで、そうなりたいと思っている人が何人いることか、それをちゃんと理解して勉強しなさいと言われました。今あるのは親のおかげだと思っています。

森大輔法律事務所では、代表の森大輔とパートナーの弁護士が1名います。あとアソシエイトの弁護士がいて、事務員さんが2名いるアットホームな事務所です。特に顧問先企業さんの日常的な法律相談に乗っているというものが多いですね。あとは労働事件でしたり、珍しいのですが景品表示法という法律に関しても扱っています。どういうものかというと、イベント会社が「何名様にプレゼント」みたいなものでしたり、インターネット上で服を売る会社さんが、元値が5000円のものを「期間限定2000円で販売」みたいな表示が不当なものだと、一般消費者の方が「すごい安くなっている!」「これを買えばこのプレゼントがもらえるからたくさん買おう」というふうに思って、冷静にモノを選んで買えなくなってしまうということがあるんですね。そういう一般消費者の方がきちんと合理的に選択してものを変えるようにと定められたのが景品表示法なんですけれども、懸賞だったりプレゼント企画をするにあたってそのプレゼントの上限がいくらとか、5000円を2000円にするというのは二重価格表示ですけれども、元々本当に5000円で売られていたのかというところだったりというのが問題になってくるんですね。なので、お客様に対して広告を出すにあたってここの表現はこうした方がいいだとか、このプレゼントは上限いくらまでなのでこういうふうにしてくださいというようなアドバイスをすることが多いですね。

 私はコメンテーターとしては、東京MXのモーニングcrossという番組に定期的に出させていただいております。朝7時からの一時間の生放送なのですが、ニュースに対してどのように法的観点から考えを有しているのかということを問われたりとか、5分から10分程度毎回自分でテーマを決めて視聴者の皆さんに問題提起をすることができるという特徴のある番組でして、少年法が今こうなっているとか景品表示法を気をつけてくださいとか、パネルを使いながら皆さんに情報提供をするということをしています。
 テレビ番組ですと色々な時事ネタが出てくるので、専門外のものにもコメントをしないといけなかったりする時もあります。私は特に法律の勉強だけをしてきた人生だったので、世界で何が起こっているのかというのについて全然理解していなかったんですね。アメリカと中国の関係性だったり、今回バイデン氏が大統領選挙に勝利したということも、自分から積極的にニュース番組を見て勉強したりインターネットで情報を集めたり、本屋さんで売っている世界の問題みたいな本を読んでからテレビ番組には出るようにしています。やっぱり一般常識を持っていない人がテレビ番組に出ると信用を失ってしまうなと思っているので、今いかに自分の知識を増やすかという点で、今までで一番ニュースを勉強していると思います。事前に朝の打ち合わせで「私はこのニュースについてわからないので話を振らないで欲しいです」というのをスタッフさんに伝えるのですが、司会の堀さんが楽しんで話を振ってくるので大変ですね(笑)。
 私は正直に、政治の問題について勉強不足なところがあると思っているのですが、話を振られた際、「私は政治のことはよくわかりません」と伝えています。私含め20代30代の人たちは今政治問題にかなり疎いと思うんですね。ニュース番組の報道の仕方もそうですし、政府が何を行なっているのかというのが国民に届けにくい状態、桜を見る会の話題が出たときも一般国民から見て、そのニュースが私たちに直接どう影響するかというのを20代30代は身近に感じることができない、その結果興味を持つことができないという形で「私は興味を持っていません」というのを生放送で言っています。若々しさやフレッシュさが私の武器だと思っているので、知らないことは知らないというようにしています。
 また、2020年の12月にNHKで放送された「金曜日のソロたちへ」という番組にも出演させて頂きました。その番組では私の家に定点カメラを置いて、家でどのような生活を送っているのか、一人暮らしでも寂しくないよ、楽しく生活しているよというものを、国民の皆様に伝える番組に出演させて頂きました。
 私としては最初、自分のプライベートを世に晒すことに、とても抵抗感があったのですが、おそらく国民の皆様は女性弁護士がどのような生き方をしているのか、生活をしているのか全く分かっていないと思うんですよね。あと私自身がボランティアで都内の高校にキャリア形成の話をしにいくこともあって、私がなぜ弁護士を目指したかということをお話する機会があります。そのような中で高校生達も「自分が横山先生のように弁護士になりたい。でも弁護士って何なんだろう。」といった具体的な部分が見えてこないという声もありました。そのような中でNHKからお話を頂きましたので、「ありのままの私を届けよう」と思い出演をきめました。
 今は在宅勤務が多いので、家の中で仕事をしているところも放送して頂いて、仕事ぶりを世の皆様に知って頂くと共に、女性の弁護士は「恐れ多い」とか「弁護士さんって凄いですね」とか思われてしまって、結婚できない方が一定数いるというのも事実ではあります。実際私自身もそうですし。それでも人のために、仕事をしていて楽しいというところを皆様に知って欲しかったですし、もっと弁護士というものが身近な存在であることを感じてもらいたいなと思って出演いたしました。
 実際に出演させて頂いた後は色々な方々がツイッターやインスタグラムを通して、直接メッセージを送ってきて下さり、「こんなに明るい先生がいるんですね」「弁護士の先生ってどのような仕事をしているか分からなかったのですが、どういうものか分かりました」などの感想を頂きまして、出演して本当に良かったなと思っています。

 弁護士としてやりがいを感じるときは、企業さんから相談を受けたときに企画段階のものが結構多いのですが、その企画を実現するためにはこういうふうにした方がいいですよとか、ここの許認可を得る必要がありますよという風に一つ一つクリアしなければならないことを示すのですが、その結果企業さんの企画が実現して世の中に出たときはすごく感動します。例えば、先程の話にもあるのですがコンビニに置く商品の広告をどうしたらいいかというときに、景品表示法上の質問で「どういうふうな表示をしたらいいですか」と質問されたことがあって「こういうふうな表現に留めてくださいね」という話をしました。後日私がコンビニに行ったときにその広告が置かれていたりすると、「私がアドバイスしたことがこうやって世間に出てきている、こうやって経済効果が生まれて世の中が活発になっている」と思うと、私の存在が世にとって必要なものだったのかもしれないなという風に思ってやりがいを感じますね。

 私は個人受任という形で刑事事件を受けることがあるんですけれども、大人の刑事事件と少年事件と両方をやります。その事件の中において伊藤塾で学んだことが役に立っていると思うことがあります。具体的には基礎講座の時に伊藤塾長から憲法を学んでいたときに、自由と権利について丁寧に教えていただいたので、人間誰しも平等の人権を有しているという考え方は今でも自分の中に根づいていると思います。なので、警察署で捕まってしまった人に対しても、嫌疑はかけられているけれどその人たちだって私と同じ人間だし、その人たちもどういう経緯で罪を犯したのかという事情も異なるので、私はその人たちの持っている背景事情、生まれた環境だったり、今置かれている状況だったり、そういうものまで聞き取ってなぜ今回罪を犯してしまったのか、また犯罪していないこともあるので、今回疑われてしまったのはなぜかということも調べます。そういう人がどのように警察署から取り調べを受けているのか、暴言を吐かれていないのかということも丁寧に聞き取りをして、何か警察署から不当な扱いを受けている場合は警察署に抗議の電話を入れることもありますし、内容証明郵便を送ることもあります。あとは、刑事訴訟法を山本先生から教わっていましたけれども、山本先生も被疑者の身柄に関して強い思いをお持ちで、当時は具体的な話を出しながら私たちにイメージをつきやすいように講義をしてくださったのをすごく覚えています。捕まった人は捕まってから、身柄拘束に関して時間が制約されていて、捕まって72時間以内に検察庁に送られてそのあと24時間以内に裁判所で勾留質問を受ける、勾留質問を受けて勾留請求を受けた場合はそれから10日間勾留させられてしまうんですね。さらに10日間延長されて勾留所にいないといけないことになって、最大23日間身柄を拘束されてしまうんですね。山本先生の授業では、この23日間勾留されることがいかに被疑者に対して、精神的にも肉体的にもダメージが大きいのかということを強く学びました。私はそのことも丁寧に教えていただいたので、1日でも早く被疑者の方が自由な身になれるように裁判所に対して勾留請求却下の申し出をしたり、積極的に身柄釈放に向けて活動をしています。なので、特に刑事事件に関しては伊藤塾で学んだことが今の仕事に活きていると思いますね。

 人の立場に立って物事を考えられる人が法律家に向いていると思います。例えば、企業の方でも相談に来られたときに、弁護士に向かってこの相談をしていいのか、どういう順番で話をしたら弁護士の方が理解してくれるのかというように、不安を持って相談にこられていると思うのですが、それを弁護士の方が相手の立場を鑑みずに一方的に受け答えをしたら、相談者は萎縮してしまって本当に言いたいことも言えなくなるし本当に伝えなければいけない情報も喋れなくなってしまうと思うので、私としては相手がそういう不安を持ちながら相談に来ているということを十分に理解して、まずは相手の好きなようにしゃべってもらうようにしています。その上で、聞き取った言葉を法律構成してその法律構成の上で足りない情報を引き出すように投げかけるというような作業が必要になってくると思います。 あとは、同じことなのですが、離婚に関して相談に来られる方は悩みが大きい方が多いので、弁護士の言葉一つで傷ついてしまうこともあるんですね。なので、どういう言葉がこの人には必要で、何を言ってはいけないのかというのも一つ一つ心がけて話しかける必要があるので、相手の立場になって考えるのは何よりも重要な弁護士に必要な力だと思います。
 物事をいろいろな立場から見る力というのは、恐らく法曹三者にとって必要だと思うんですよね。私が裁判を経験して感じているのは、依頼者と相手方は、本当に同じ事実を言っているのかということが疑わしい事例がかなり多く、事実は一つしかないので、その事実を見る人によっては全く形が変わってくるんですよね。そういう場合に、依頼者の言葉を信じるというのは弁護士にとって必要不可欠ではあるのですが、その人の言葉が100%ではないというのもしっかり理解して、この事実を他の観点から見たらどういう評価になるのだろうということも理解する必要があると思います。その力は相手方がどういう反論をしてくるか、それに対してこちらがどう答えるのかということにも役に立ってくると思うので、物事を多角的に見る力は必要だと思います。思い込まないことが大事ですね。

私は弁護士という立場からしかお話しできないんですけれども、困っている人の権利を直接守る力があると思うんですね。裁判官もとても重要な仕事ですが、結局裁判所に来られた方々に対して何かしてあげることしかできないし、検察官も事件を通して被害者の方々を支援したりできると思うのですが、弁護士というのは一番困っている人に直接アドバイスができますし、手を取り合って実現させてあげることができる職業だと思っています。なので、弁護士は地味な仕事も多いですし、自分の時間がなくなることもありますが、それ以上に人の人生を良い方向に向かせることができる素晴らしい職業だと思います。コロナウイルスの拡大に伴って、特に女性の非正規の方が職を失ってしまっているという事実もありますし、自殺者が急増しているという事実もあるので、そういう人になんのアプローチができるかと考えたときに弁護士はそのような人たちに明日生きる力を与えられる職業だと思うので、ぜひ1人でも多くの方に弁護士になってもらいたいと思いますね。


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(取材時2021年1月)
※2021年2月より田中保彦法律事務所に在籍
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