紛争の終局的解決を目指して

片木翔一郎先生

経歴 2011年 奈良学園高等学校卒業
   2015年 早稲田大学法学部卒業
   2017年 早稲田大学法科大学院修了
   2017年 司法試験合格
   2018年 弁護士登録
   2019年 城北法律事務所入所



※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。

片木翔一郎弁護士インタビュー動画 ~法律家を志す皆さんへ向けて~

 私は早稲田大学の法学部だったのですが、強い志があって法学部を選んだわけではなかったので、なんとなく普通に就職に進むのかなと思っていました。そんな大学2年生の頃、父から「レベルの高い人たちがいる環境なのだから、司法試験への挑戦というのも選択肢の1つなのではないか」との話をもらいました。そう言われると「チャレンジしてみようかな」という気持ちになり、伊藤塾に通い始めたということで、それほど強い意志があってスタートしたというわけではありませんでした。私は高尚な理念をもって、「こういう人たちの人権を守りたい」ということで弁護士になったというわけではありませんが、よく弁護士の先生方の中には、例えば中学生の時に弁護士の映画とかドラマとか観て弁護士を目指しましたという方も多くいらっしゃり、尊敬いたします。残念ながら自分はそういう形ではなくて、先ほどお伝えしたとおり、勧められてチャレンジしてみようかなと思ったのがきっかけでした。大学1年生の頃は法律の勉強になっていたかどうかは分からないですが、大学の授業が中心でした。周囲は司法試験に向け勉強していた方も多かったので、司法試験がそれほど珍しいものではありませんでした。伊藤塾では在宅で受講していたのですが、大学受験の際に利用していた予備校もオンデマンドで受講するスタイルで全く同じでしたので、スムーズに受講を進めることができました。リアルでの講義は一度も受けなかったので、所属していた高田馬場校の横山先生には合格祝賀会で初めてお会いしました。

 司法試験に合格した後、城北法律事務所に入所しましたが、弊所は55年以上の歴史があり、池袋という地域でずっとやってきておりまして、地域に根ざした事務所であると思います。地元でも信頼されているのではないかなと思います。
 取り扱い内容としましては、基本的には町弁と言われている事務所がやっている内容ではありますが、弊所の特色としては集団事件、たとえば行政訴訟であるとか、そのようなものを比較的多く取り扱っております。集団事件について、私が城北法律事務所に入ったきっかけと重なるお話になるのですが、例えば私の方で担当している集団事件としては、道路訴訟があります。具体的には道路の事業認可の取消訴訟をやっておりまして、地域住民の皆さんが原告となっているものです。私が以前住んでいた地域の近くにハッピーロード大山商店街という大きな商店街があります。最近はシャッター商店街という言葉もあり、スーパーや多くのデパートに駆逐されてガランとしている所も多いですが、その商店街はそのようなわけではなく、非常に賑わっている商店街です。その商店街は学生時代から頻繁に利用していました。そんなおり、伊藤塾の法律事務所説明会に城北法律事務所の先輩弁護士が来ていて、先ほど申し上げた商店街を潰すことになるかもしれない道路計画の事業認可取消訴訟を扱っていることを知りました。商店街が潰れるかもしれないという話を全く知りませんでしたので、興味を持って城北法律事務所のブースに足を運んでお話を聞かせて頂いたことが入所したきっかけとなります。なかなか小規模な町弁では、そのような内容を取り扱うのは、難易度というよりかは、リソースを割くのが厳しいという意味で、難しいと思います。手弁当といいますか、ペイするものではありませんので、そういうことからすると取り扱うのが珍しい分野であると言えると思います。道路計画というのも、実はこの商店街の件だけではなくて、北区の赤羽でも道路を通して公園を潰すというような計画の事業認可取消訴訟というのをやっていて、それにも今参加しております。

 弁護士の仕事にやりがいを感じる瞬間ですが、ドラマなどを見ていると、弁護士が勝訴で終わるということは多く、それも1つの理想的な解決の形だと思います。ですが、実際には勝ちましたというあと、「お金はどうやって回収するのですか」とか、「勝ったはいいけれども向こうからは恨まれています。」などの話もあります。結局お金の件は解決したけど、人間関係としては問題が残ったままということもあります。そうすると果たして理想的な解決なのかという時に、必ずしもそういった問題を起こさない「和解」という形で依頼者の利益になり、相手にとっても良い形で終わることができれば、それは私が最もやりがいを感じる瞬間であります。実際勝つことだけであれば簡単な事件はいくらでもあるのですが、例えばお子様と会うという面会交流の話であれば、裁判所の審判に基づき相手方が会わせてくれるのですかといったら、向こうが納得してくれなかったら実際のところ審判があっても難しいことがあります。そのようなときに「和解」というのはお互いが納得して終わるという形となりますので、相手方に義務を守ってもらえる履行可能性も高いわけですから、私としては和解をうまく取り付けた際にやりがいを強く感じます。勿論、我々は依頼者の代理人ですので、勝って相手を打ちのめして欲しいという要望があればその方針で全力でやりますけれども、それだけが解決の形ではないと思っています。


 先程申し上げたところでもありますけど、伊藤塾では家で勉強をしていました。そうするといつでも自分のペース受講できることになります。他方で誰かがペースメークしてくれるというわけではありません。したがいまして、自分で目標を立て、例えば、「この日までに憲法も全部一気に見てしまおう。民法はそれまで一切受講しない。」などといった様に、自分で計画を立てて勉強を進めました。司法試験の合格が富士山の山頂であるとすれば、そこにどういうルートで行くかを構築するというように自分で計画を立てて勉強したことは、とても経験になったと思っています。今、実務の現場においても、何か目的を達成するときに目標を決めて計画を立てるという能力は、当時培ったものの1つかなと思います。人間としての成長に大いに役立ったかなと思います。

 勉強法の話について若干持論があるのでお話させて頂きますと、インターネット受講は今でこそポピュラーな方法なのかもしれませんが、当時私の周りにおいては、講義に出席できなかったときの代替としてインターネット受講するケースはありましたが、それをメインで勉強している方はそれほど多くはありませんでした。もともと勉強法に関しては、自分で計画して、こだわりを持って進めたい思いがあって、例えば暗記なども、司法試験2ヶ月前くらいまではやりませんでした。持論にはなりますが、どうしても人間は忘れてしまうと考えているからです。つまりは、覚えなければ忘れないということに気づきました。忘れていくからまた何回も繰り返して忘却曲線を緩めるというのは一つの方法ですが、私は覚えるから忘れてしまうわけであって、そこをまた思い出すといった無駄な労力が生じるということで、直前に自分が覚えやすいような状態、例えば教材などを予め自分で作っておいて、直前に覚えれば、それまでに何か忘れるというロスがなくなると考えました。そこで、自分なりの方法として暗記は直前までやらないということをしていました。あとは、司法試験の業界はセオリーのようなものがある程度あると思われがちなのですが、実際には日本で最高峰の試験の一つであるわけですから、必勝法、攻略法は必ずしもあるわけではなくて、それぞれ自分に合った方法を考えて勉強をするというのが1番の近道なのではないかなと思います。私が今申し上げたような、暗記を直前までしない方法などが、私にとっては良かったのですが、必ずしも皆さんに合っているかどうかというのは分からないですし、もしかしたら、何回も繰り返すことで、忘れなくなるという人もいらっしゃるでしょうから、正解というのはないと思うのですが、自分に合った勉強法を見つけるというのが一つの近道かなと思っています。その自分に合う勉強法の探し方については、私の場合、直前まで暗記をしないなどの発想がどこから来たかと言われると、正直なところトライアンドエラーといいますか、勉強を進めていくうちに、自分は何回暗記しても結局正確な知識も出てこないし、完璧に覚えたと思って3ヶ月経つと、全く覚えていないということがありましたので、これであるならば、とにかく法律の体系であるとか、そのシステムというものを理解するのに時間を費やし、理解した内容に基づき自分だけの教科書を作り、それを直前にやるのが最も効率が良いのではないかと試行錯誤の末に出てきたということです。好きな格言として「敵を知り、己を知れば、100戦して殆うからず」という言葉があります。まさにこの部分は記憶が苦手という己を知るという部分です。そして敵を知るというところも、色々と行いまして、一例を挙げますと、当時法科大学院を受験するには適性試験というものがあったのですが、出題傾向を調べあげまして、場合によっては選択肢の何番が1番よく出ているところなのかまで調べ、対策を練りました。このように、敵を知るということと己を知るということが、戦略上最も大事なのかなと思います。

 法律家に向いている方については、まず頭の良さというところが一般に1番気になるとこかなと思うのですが、頭の回転の速さという意味であればある程度必要であると思っています。例えば。法廷で何か異議を出し尋問を止めたいという時に、一瞬しかなく尋問が進んでしまうような際、パッと異議を出せるかどうかは、もちろん練習などもあるとは思うのですが、頭の回転が大切な要素なのかなと思います。逆に言いますと、頭の回転はそれなりにあればあとは必須ではないと思っていて、最も大事なのは体力・精神力・コミュニケーション力、この3つであると思います。私自身、弁護士としての仕事は今3年目ですけど、体力と精神力というところでひどい負荷のかかる仕事であると日々感じています。常に何かに追われていて電話もメールもたくさんくるため、万が一自分が倒れてしまうと、他の人に必ずしも代わってもらえる仕事でないことから、体力・精神力が大切です。知識を持っているということも、それなりには大事なのですが、実際、試験段階で持っていた知識のみで実務の現場で戦っていけるかというと、戦っていくことはできません。法律は時の流れと共にアップデートされていきますし、絶対に知らないことが出てきます。その時に勝負を分けるのは体力です。限られた時間でどれだけ調べあげ対策を打つか、起案をできるかというところなので、体力・精神力というのは外せないかなと思います。この2つの力は努力や工夫である程度カバーできるところであると思いますが、3つ目のコミュニケーション力というのは、伸びというのが難しいところがあると思っていて、向き不向きというのはあると思います。コミュニケーション力の中でも、自分で仕事していて、大事だなと思うことが一点あります。若い方たちに特に伝えたいのですが、今電話をあまり使わずに、LINEなどのメッセージアプリを使っているなかで、電話がかかってくるスマートフォンの画面には相手が表示されますので、知らない人からの電話に出るということは通常ないと思います。ですが、弁護士の仕事をしていると全く知らない方や、相手方の弁護士から電話がかかってきたりします。いきなり知らない人、1日に何件も顔も知らない人からの電話に、そもそも固定電話をとるのに慣れていないにも関わらず、受話器をとるというところで、おそらく実務に出ると1番最初に負担を感じるのは、この時代特有であると思いますが電話であると思います。そこで先ほどお話しした内容と絡むところがあるのですが、頭の回転が必要だと言ったのは、まさにそういうところであって、向こうから電話で何か聞かれて、例えば向こうの弁護士から何か言われ、そこで黙ってしまうと、これは一番まずいわけです。向こうが代理人であるならまだしも、本人であれば録音などされている可能性もあるわけですから、証拠として使われる可能性もあります。そこで何を話すか話さないかというのを、一瞬の内に考える必要があって、そこで黙っているということは向こうの論を認めているのとあまり変わりません。そういう意味で頭の回転が最低限必要なのかなと思います。ですが、これについては、実務を通じてある程度慣れていくものですし上手くなっていくので、最初の1ヶ月がしんどかったとしても、それは追々慣れていくものだと思って、我慢してやっていくのが大事かなと思います。
 体力・精神力・コミュニケーション力は全てリンクしていと思います。例えば精神力であれば、相手が罵倒してきたときに黙ってしまうのか、それに耐えて冷静に挑発に乗らずに反論できるのか、ということが絡んできますので、一体となってくるものであると思います。

 司法試験は合格者が増えましたが、今でも弁護士というのは勿論お金儲けしようと思えばサラリーマンより儲かる方法はいくらでもあると思っています。それは選ぶ事務所であったり、選ぶ分野であったりとかでお金儲けすることはできると思います。それはそれで一つ良いかなと思うのですが、おそらく今これを見ている皆さんの法曹になりたい動機はそこではないと思っています。
 合格者数が増えたとはいえ、私の代である71期の合格者数1543人の中で、裁判官、検察官になる人、法曹に進まず趣味で司法試験を受験した方もいらっしゃいますので、実際弁護士になる人数はそれほどいないと思います。弁護士になったということは、弁護士というライセンスを渡されたというわけですから、その中の一枠を自分が埋めている、その椅子に座っている、その代わりに弁護士の椅子に座れなかった人が1人いるわけです。そうすると自分が何もしなくていいのか、社会的に意義のあることをしなくていいのか、というような考えが出てきます。1席を自分が占めているということは、やらなければならないことがあると思っておりますので、その事実を忘れずに、自覚を持ち、社会に貢献できるような活動というのを、初心を忘れずにやることが大事なのではないかなと思います。


城北法律事務所

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