妥当な解決に必須なのは人権のバランス感覚、塾で学んだ憲法の理念が今も役立っています

伊東 幸太朗 先生 (弁護士)

事務所訪問と入所の理由

私が、法曹を目指そうとしたそもそもの起源は大学時代のゼミでの勉強にあったと思います。私は社会学部の出身で、ゼミでは朝鮮史を勉強していました。勉強の中で、在日の方の歴史や現在置かれている状況などから、法律そのものも含めて司法があまりにも消極的すぎると感じていました。他者への配慮ができる社会こそ成熟した社会であり、また私達の社会はそうあるべきであるとの思いから、法曹を志そうと決意したのです。私の実務修習地は現在弁護士として活動している那覇でした。ゼミの仲間にも沖縄出身の友人がおり、日本の中で沖縄は、特別な位置づけの場所だという印象を持っていました。実際、那覇に来てみると、労働問題にしろ、消費者問題にしろ、法律を知らないが故に、極めて不利な地位に甘んじている人々が多いという印象をもち、ぜひこの地で、少しでも社会に役立ちたいと考えるようになりました。このような問題は、地方社会が多かれ少なかれ抱える問題であり、那覇でなくとも、他の地方でも同じように考えていたかも知れません。私は、実務修習地という縁があったからこそだと思っています。那覇での就職を決めてからは、複数の事務所を訪問しました。どのような人材が求められているのかといえば、地方の法律事務所では、やはり最終的にはボスとの相性であると思います。すべてはタイミングといっても過言ではないかも知れません。幸い、沖縄の事務所は、どこもスペシャリストというよりもゼネラリストであり、イソ弁の活動の自由にも配慮してくれる事務所ばかりだと思います。私が入った事務所でも私は自由に活動をしています。

現在の主な業務内容

沖縄の事務所がどこもゼネラリストだとはいっても、若干の特色はあります。私の事務所は、沖縄ではどちらかというと企業法務が多く、顧問先からのリーガルチェックなど予防法務的な業務も相当程度あります。一方で、通常の訴訟案件も数多くあり、貸金返還や建物明渡し訴訟などの通常の民事訴訟や、離婚や遺産分割などの家事事件、行政訴訟と手広く取り扱っています。また、地方はどこもそうだと思いますが、国選弁護事件や少年付添事件も頻繁にまわってきます。いわゆる医療観察法の付添人事件や成年後見人の就職、破産管財事件などの事件にも直接間接に携わることが多いのも特徴といえるでしょう。私の事務所は、現在弁護士3人体制ですが、それぞれの弁護士が単独で事件を担当するということは少なく、特に民事事件などは、弁護士同士で合議を開き、弁護士全員で事件に当たるという姿勢で臨んでいます。

やりがいを感じる瞬間

弁護士業務の中でやりがいを感じるのは、やはり依頼者から感謝された時です。企業の新しい事業のリーガルチェックを行い、後にその事業が成功して、会社の担当者から感謝されれば、単純に嬉しいですし、和解交渉をまとめて依頼者から感謝されれば、自然と笑顔になってしまいます。
私が弁護士になって半年ほどで担当した国選弁護事件は、初めての否認事件で、被告人が一部とはいえ公訴事実(起訴状に訴因の形式で記載される犯罪事実)を争っていました。結局、その事件は、争っていた事実は認められずに判決を迎えてしまったのですが、被告人から、「先生に担当してもらって良かった、やるだけやってもらって自分でも戦ったという実感があるので、迷うことなく刑務所に行けます」、と言ってもらえました。民事にしろ、刑事にしろ、代理人や弁護人となったからには、全力を注いで、依頼者はもちろん自分でも悔いのない活動をすることこそ、大事だと感じ、今でも実践しているつもりです。全力を尽くせば、たとえ結果は良くなくとも依頼者は感謝してくれます

沖縄の抱える問題

沖縄が抱える米軍基地の問題は、いやが上にも毎日のように意識させられます。爆音訴訟しかり、基地の移設問題しかり、軍人軍属の犯罪しかりです。私が沖縄に来る前から、東京でも報道はされていましたから、私なりに予備知識はあるつもりでしたが、やはり温度差を感じます。一方で、沖縄で生活をすると、基地問題については、必ずしも一枚岩ではなく、米軍基地に依存して多くの人々が生活している事実も目の当たりにします。この点も沖縄の抱える大きな問題だと思います。
沖縄の問題で私が忘れられない言葉は、「沖縄は戦後60年じゃないんだよ。まだ30年なんだよ」という言葉です。復帰から今年で36年を迎える沖縄の抱える問題が凝縮されている言葉だと思います

伊藤塾で得たもの

伊藤塾長の憲法の講義は、私の現在の実務家としての活動の礎になっていると感じます。実務家になると、憲法を引用したり、活用することなどは滅多にあることではありませんが、民事にしろ刑事にしろ、事案解決の指針として、人権のバランス感覚とも言うべき利益衡量ができて初めて妥当な解決への道程が形作られると感じられます
。また、私は縁あって、現在、沖縄大学で憲法の授業を担当する機会に恵まれており、伊藤塾長の憲法の講義を受けていて良かったと実感すると同時に、人にものを教えると言うことがいかに大変なことであるかと言うことも実感しています。

これから法律家を目指す方へ

私が伊藤塾で得たのは、自分の頭で考えるということの重要性です。司法試験の勉強では暗記ではだめで、現場思考が大切だということは、繰り返し言われてきたことです。当然、基礎的な条文や判例の知識は暗記しなければなりませんが、最終的にはそれらの知識を元に自分の頭で考える訓練ができていなければ、合格はままならないと思います。伊藤塾で勉強される方は、ただ一方通行で講義を聴くだけではなく、講師やクラスマネージャーに質問をしたり、ゼミを活用するなど、積極的に考える契機をもっていただきたいと思います。

(2008年5月・記)
 

■Profile
2004年司法試験合格
2005年司法研修所入所
2006年弁護士登録
     宮﨑法律事務所入所  
■事務所プロフィール
宮﨑法律事務所
〒900-0015沖縄県那覇市久茂地1丁目2-20-805
■所属弁護士数
3名(2008年5月時点)
 
■当事務所の主な業務内容
企業法務,訴訟案件等


■現在の「ある一日のスケジュール」
 07:30 起床
 09:00 出勤
 10:30 民事事件弁論 準備手続のため裁判所へ
 11:30 離婚事件相談
 12:30 昼食 
 13:00 保全事件相談
 15:00 刑事事件被告人との打ち合わせ
 16:30 執行事件相談
 17:30 破産事件相談
 18:30 準備書面作成等
 21:00 帰宅 
 23:30 就寝