「反省」に向き合い立ち直る被疑者・被告人の姿に手ごたえ、刑事弁護人冥利に尽きる瞬間です

高木 良平 先生(弁護士)

弁護士への決意
私が弁護士になろうと決意した理由は、ある身内のトラブルにありました。大学生のとき、祖母の葬儀で親族が集まったときにそのトラブルの話になり、私が「なぜそのとき弁護士に相談しなかったのか?」と母に聞いたところ、「その弁護士に騙されてこうなったのよ」というショッキングな答えが返ってきました。
それを聞いた瞬間、私は「親族の中に法律のプロが一人いないと誰も親族を守ってくれない。自分が弁護士になろう!」と決意したのです。
ちょうどそのタイミングで伊藤塾が開塾し、司法試験の勉強を始めていた友人から、某司法試験試験受験指導校の№1講師が受験指導校を開校したらしいという話を聞き、早速伊藤塾の3期生として司法試験の勉強を始めました。

捨て切れなかったもうひとつの夢

しかし、そんな決意とは裏腹に、大学卒業後に司法試験の勉強を始めた私は、小さいころからのプロボクサーになりたいという夢を捨てきれず、勉強と並行してボクシングジムに通うようになりました。
幸い、ボクシングの才能はあったようで、約1年でボクシングのプロテストには一発合格し、C級ライセンスを取得しましたが、そのわずか1か月後に受験した択一試験では玉砕してしまいました。ボクシングに時間をかけすぎてしまい、本業であるはずの受験勉強が疎かになっていたのです。プロのリングに立ちたいという気持ちをぐっとこらえて、号泣しながらボクシングジムをやめました。そして、その日から、毎日6時間の睡眠時間以外の時間はすべて受験勉強につぎ込みました。
司法試験に合格した時には既に33歳になっており、日本ボクシング協会の規定の年齢制限により、とうとうプロのリングに立つことはできませんでした。
 

理念を実現する弁護士への憧れ

桜丘法律事務所を選んだきっかけは、「弁護士たちの街角」というドキュメンタリー番組を見て、弁護士過疎地に若手弁護士を派遣するという画期的な法律事務所の存在を知ったことです。
弁護士過疎の問題をなんとかしなければならないという理念を持った先生はたくさんいらっしゃると思います。しかし、理念を持つのは当然のこと、それを実現できる実力を持ち、かつそれを実行してしまう弁護士というのは稀有な存在であると思います。
しかし、所属事務所所長である櫻井先生は、それをさらりと当たり前のようにやってのけてくれました。正直言って、「なんてかっこいいんだ!」と鳥肌が立ちました。

ある少年事件を通して

現在は、刑事事件を中心として、債務整理から顧問会社の契約書のチェックまで、幅広い事件を取り扱っています。また、所属事務所は公益活動にも力を入れている事務所ですので、私も8つの委員会に所属し、さらには、ボランティアで老人ホームを訪問するなどの活動にも参加しています。
一番やりがいを感じるのは刑事事件です。自分がかかわることで、刑事の被疑者・被告人が、「反省する」ということはどういうことなのかということと真剣に向き合い、立ち直っていく姿を目の当たりにするときです。実刑確実と思われた事件で執行猶予を勝ち取った事件の被告人が「仕事が見つかりました!これからは真面目に働いて頑張ります!」と電話してくれたり、実刑になった事件でも、仮釈放になった受刑者が、泣きながらお礼の電話をしてくれたりすることがあります。こういうとき、歳をとって涙もろくなった私は受話器を持ったまま号泣してしまうのですが、こういう瞬間こそ刑事弁護人冥利に尽きます。
刑事事件の中でも少年事件は最も感動的です。少年事件では、審判の度に号泣してしまいます。
特に印象に残っている事件は、非現住建造物放火事件を起こしてしまった少女の事件なのですが、審判前日まで審判官から「絶対少年院送致」と言われていました。
しかし、審判当日は少女の母親が少女に寄り添って座り、少女の手を握り、その手をひと時たりとも離そうとしませんでした。そして、これまで愛人にばかり気が向いていたことを反省し、その愛人ともすでに別れ、これから少女と一緒に通信制の高校に通い、一緒に卒業すると言い出した母親の変わり様を見て、結果的には保護観察の審判が下されました。
その瞬間、少女と母親は号泣しながら抱き合い、それを見ていた私も、ハンカチを渡しながらその場で号泣してしまいました。
その後、保護観察所にも同行したのですが、保護観察官の説明を受けている間も少女の母親は少女の手を放そうとしませんでした。その様子を見て、この母子はもう大丈夫だなと安心することができました。そして、後日、その母子が洗濯したハンカチを持って事務所にお礼を言いに来てくれました。少女の表情は審判前とは別人のように明るくなっていました。このときも号泣しそうになってしまいましたが、泣いてばかりもいられないので、なんとかこらえることができました。

伊藤塾での学びと経験
 
私は合格までに、伊藤塾の講義を録音したテープを何10回と繰り返し聴き続けたので、いまだに弁護士として仕事をする上で、「あ、あの時伊藤塾長がこう言ってたな」と思い出して、条文や判例を検索することがしばしばあります。つまり、伊藤塾で学んだことは、法律実務家になってからも、そのまま業務に活かすことができるということです。
また、伊藤塾における「明日の法律家講座」のクオリティは、弁護士になってから日弁連や弁護士会で主催される同様のものに出席しようとすると、2 ~ 3000円程度の料金がかかるくらいの内容です。それを無料で受講できるのですから、これを受講しない手はありません。時間の許す限り受講されることをおすすめします。

法律家が果たすべき役割

法律家というのはやはりエリートです。そして我々は運が良かったがためにエリートになることができたと思っています。だとすれば、運よくエリートになれた人間は、運悪くエリートになれなかった人たちに手を差し伸べる責務があると考えています。その方法は様々ですので、是非とも皆さんには、どうやってエリートとしての責務を果たしていくべきかについて自分なりに考えて、そしてそれを実行していただきたいと思っています。
私のことを例に挙げれば、日本の刑事司法を先進国に相応しい適正なものに改革していくことが自分の責務であると考えています。
エリートとしての責務を果たす方法は、無限にあると思います。その無限の可能性の中で、自分がやりたいことを見つけて下さい。目標がみつかったとき、皆さんの人生は一気に輝き始めるはずです。

(2010年11月・記)

【プロフィール】 2004年 司法試験合格年度
2006年 桜丘法律事務所入所
2008年 法テラス長崎法律事務所に赴任
2010年10月より桜丘法律事務所に復帰
2015年 MJ法律事務所開設