弁護士という仕事の醍醐味は、常に責任感をもって働くことができ人から感謝を受けることにあります

蓮本 悟 先生(弁護士)

はじめに
皆さんはじめまして、私は伊藤塾出身で司法試験の合格後、現在、丸の内にある森・濱田松本法律事務所に所属しております。
おそらく、大学生や社会人の方々にとって、弁護士が日頃どのような生活を送っているのかイメージが湧きづらいかと思います。
そこで、この度、法律家を目指そうとしている方々や既に受験勉強をスタートしている方々に向けて、私の弁護士生活や当時の勉強方法等をお話させて頂くことで皆さまの合格へ向けてのお役に立てればと思い、少しばかりご紹介させていただきます。
自己紹介私は、2004年に慶應義塾大学法学部政治学科に入学しました。
大学1年生の秋に伊藤塾に入塾し、慶應大学法学部3年在学中、2005年度の旧司法試験に合格いたしました。2007年同大学を卒業後、約1年4ヶ月間の修習を終えて、2008年9月より、森・濱田松本法律事務所に所属しております。

大手渉外法律事務所での生活

私の所属する森・濱田松本法律事務所は、弁護士約280名、外国法事務弁護士1名に加え、司法書士有資格者、外国人トレーニー、パラリーガル、翻訳、司書その他のスタッフなど約400名を擁するいわゆる大手渉外事務所です。

そのなかで、私は、Best for the Clientsという精神のもと、主にファイナンス分野を中心に、TOBなどのM&A、企業の組織再編など種々の業務に関っています。具体的な業務内容は、取引スキームの策定に当たっての助言、関連する法規制上の諸論点についての分析・検討、契約書の作成、関係当事者との折衝等広範なリーガルサポートを行っております。
複数の案件を同時に担当しているため、連日深夜まで働くことが通常であり、日程の差し迫った案件をかかえている場合や、トラブルが発生したときには、連日明け方まで働くことも珍しくありません。
しかし、案件を無事に終えてクライアントから感謝の言葉をいただけたときには、何ともいえない充実感・達成感を味わうことができます。

私は弁護士として2年目で、まだまだ若手といわれる弁護士でありますが、クライアントにとってはベテランであっても若手であっても全く関係ありません。その分、若手のうちから責任感をもって業務にあたっており、毎日、毎時間、大変やりがいを感じて業務を行っております。
何よりも弁護士という仕事の醍醐味は、常に責任感をもって働くことができ、また、人から感謝を受けることにあると感じています。
これは大手渉外事務所でなくても、地域密着型の法律事務所であっても同じであると思います。
 

弁護士という職業のもうひとつの魅力

この職業は、人の人生を左右する場面に出合うことが多い仕事でありますので、非常に責任の重い仕事です。だからこそ、ある程度の報酬と自由が保障されます。
弁護士という職業のメリットは、責任感を持って取り組めることに加え、自営業であるため、自由が確保されていることであります。出社・退勤時間に拘束がないことを一例として、企業で会社員として働いている方よりもライフスタイルを自分で決めることがしやすい仕事ではあると思います。
同期の女性弁護士もよく言っていることですが、結婚・子育ての時間などを考えた際に、好みのライフスタイルを実現できるのも弁護士という職業の魅力です。

皆さんにお伝えしたいこと

● 実務においても、基礎知識が必須

これから受験を始める方や、または、既に勉強している皆さんにお伝えしたいことの一つは、実務で仕事をする上でも司法試験で学習した基礎が大事であるということです。

業務を行うなかで、非常に多くの法律に触れます。ファイナンス業務で扱う法領域も、民法、会社法、商法といった基本法から、金融商品取引法、金融商品販売法といった投資家保護規制、資産流動化法、信託業法等の特別法、知的財産権関連諸法(著作権法、特許法等)など、あらゆる法律問題に対応しています。場合によっては、見たことも聞いたこともない法律・条文にあたる場面も少なくありません。
私は旧司法試験で合格しましたので、試験に合格するまでは、6科目の法律しか勉強してきませんでした。
しかし、実務家になって未知の法律に立ち向かった時に、自分なりに解釈して法律を使いこなし、解決に導かなければなりません。
その際には、伊藤塾で学んだ基礎に戻って考えるという姿勢、基礎知識が現場で必ず必要になります。

なぜ今皆さんが、法律の勉強をしているかというと、勿論司法試験に合格したいからということが大前提になりますが、「これから学ぶ知識や思考力が法律家としての素養・基礎力になるのだ」という意識をもって勉強に励んで頂ければと思います。

●  基礎の重要性 

(1) なぜ基礎知識が大切なのか
基礎知識は、実務に就いてからも必要であることは、先ほど述べたとおりですが、試験に合格するためにも必須となります。なぜならば、試験の問題は「既に知っている問題」と「知らない問題」の2種類がありますが、完全に知っている問題が出た時はともかく、未知の問題が出た時には、原理原則といった「基礎」から考えて答案を書かなければならないからです。
むしろ、知っていると思った問題であっても、完全に同じ問題はほとんど出題されない以上は、基礎知識を完全に定着させ、基礎知識から遡って考えることが出来なければなりません。また、2011年から予備試験が始まりますが、実務家として求められる力が同じである以上、予備試験においても同様の力が試されると考えられます。

(2) 基礎とは何か
では、基礎とは何かといいますと、具体的には、伊藤塾の「基礎マスター講義」で学習するAランクB+ランクの定義・判例の規範・条文などを指します(伊藤塾では知識をランク付けすることでメリハリ付けを行っていきます)。
伊藤塾では、基礎力を養成する講座として基礎マスターという講義がありますが、これが非常に重要です。基礎マスターは、各科目に存在する膨大な定義や判例の規範や条文の中から、試験に合格するために必要な知識に絞って学習することを可能にしてくれます。
「基礎マスター」の優れているところは、分かりやすいのは当然として、同時に「何を」「どうするか(理解するだけか・覚えるのか・一読するだけかなど)がはっきりとわかるようになっているところです。

法律の勉強には、暗記しなければならないところ、理解する(つまりイメージできる)だけでいいところがあります。このメリハリがはっきりとされています。
私が短期間で合格を向かえることができたのは、伊藤塾長が講義内で発する指示通りに勉強したからだと考えています。
塾長が「これはAランクです。覚えてください」とおっしゃったものは何度も繰り返し暗記をし、塾長が覚えなくていいとおっしゃったものに関しては全く覚えませんでした。

実務の話に戻りますが、私の事務所には弁護士一人ひとりの執務スペースがあり、各々が必要な基本書や資料などを置いています。実は、そこにも、受験時代に使用していた伊藤塾の基礎マスターで使用していたテキストを置いている人が多くみられます。
煩雑な事案にあたる際の取り掛かり、基礎知識の確認材料として、今でも基礎マスターで使用したテキストを愛用している仲間が多いように思います。

● 就職難と言われているが・・・

皆さんが心配されるのは弁護士の受け入れ先など就職のことだと思います。
その点、私の周りの弁護士に関して言えば、伊藤塾出身者が非常に多く活躍しています。また、リクルート活動をしていた時にも伊藤塾出身の先輩弁護士の方に出会う機会が多かったように記憶しています。面接のなかでも、伊藤塾の話があがったり、基礎マスターや伊藤塾長の話などで盛り上がったりということがありました。
それはなぜかと考えてみますと、先ほど述べましたランク付け・メリハリ付けといった面に関連があるのではないかと思います。弁護士は膨大な作業量を効率的に事務処理をする能力が求められます。そのためには、徹底的に無駄なことを切り捨てていくことが必要となりますが、それは、重要度に応じて優先順位付けを行い、重要度の低いものは切り捨てていく受験時代のスタンスがそのまま当てはまります。
伊藤塾で学ぶことによってランク付けとメリハリ付けを意識的に学ぶことになりますので、必然的に、膨大な事務処理能力が求められる大手渉外事務所では伊藤塾出身者が活躍しているのではないかと思います。

最後に

私は、合格するために必要な力、それは2つあると考えています。
1つは基礎力を身につけること、もう1つはメンタル面です。
基礎の重要性については、既に記載させて頂きましたので、メンタル面に関して具体的に述べさせていただきたく思います。
おそらく、これを読まれている皆さんは、「本当に合格できるのか。」という大きな不安を感じておられるのではないでしょうか。

伊藤塾で勉強を始めたのは、大学1年の秋頃からでした。
私は法学部ではありましたが、政治学科でしたので、法律の勉強は0に近い状態からのスタートでした。
わずかな時間を割いてでも勉強したいという姿勢で取り組んでいたように覚えています。
その当時は勉強のおかげでバイトもできず、金銭的につらい面もありました。

日々勉強に取り組むなかで、体力的に辛いと感じることや、精神的にも「合格できるのか」と不安に思うこともありました。
そんな時には、常に、「なぜ自分は弁護士になりたいのか」と原点に戻って、考えていました。そうすることで、もう一度勉強する気持ちと、「今の勉強は、将来弁護士として活躍していくためのあくまで通過点に過ぎず、また、辛いけれども将来の糧になる。」と自分を奮いたたせ、モチベーション維持をしてきました。
ですから、皆さんも受験勉強で辛いと感じる時には、自分がなぜ法律家になりたいのか、あるいは、どのような法律家になりたいのかを具体的に考えてみてください。
私の場合は、伊藤塾で度々行われている、「明日の法律家講座」や実務家講演会などで、先輩弁護士の方々のお話を聴く機会がありましたので、実務を知らないうちから、将来像を具体的にイメージすることができました。

また、どんな優秀な人でも本番で緊張して思うように力を発揮できない人います。
そういう人にとって、どうやって緊張をほぐすか、あるいは、緊張が解けなくても、どう対応したらいいのか作戦をたてて考えることが必要です。

司法試験は難関といわれる試験であるからこそ、これらの対策も重要と考えられるのです。
私の場合は、快く相談してくれるスタッフの方へ相談をしていました。試験本番でも負けないメンタル面を向上していくことも必要です。

これからは、弁護士、法律家の人数が増えます。法曹人口が増えても、私の所属する渉外事務所などでもそうですが、抱える業務はたくさんありますし、リーガールサポートを求めている企業も多く存在します。また、日々新しい案件や、時代の潮流に応じて生じてきた新たな法律問題もどんどん発生しています。
ですから、決して弁護士になることを諦めないでください。本当にやりがいのある仕事です。
皆さんと一緒にお仕事できることを心より楽しみにしております。

【プロフィール】 2005年 大学3年在学中、旧司法試験に1回で合格。
2007年 司法修習所入所。
2008年 森・濱田松本法律事務所に所属。
(先生のプロフィールは取材時のものです)

■ 事務所プロフィール
森・濱田松本法律事務所
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■ 弁護士等在籍数
パートナー(外国法パートナー1名を含む):97名
アソシエイト:219名
 客員弁護士等:24名
 外国法弁護士等(外国法事務弁護士3名を含む):27名
 税理士:3名
 弁理士:1名
 顧問:1名
スタッフ:456名
 (2016年10月現在)