「自分の名前を前面に出して仕事をする」責任に比例する達成感が弁護士業務の魅力

栗原 誠二 先生(弁護士)

採用の決め手となるもの  
私が法律事務所への就職活動を行ったのは、今から3年ほど前ですが、都内の法律事務所を中心に、合計で15か所程度を訪問しました。企業での勤務経験を弁護士業務に活かしながら、友人や知人からの個人的な相談にも乗れるような事務所を希望していましたので、結果的にこれを満たしてくれる現在の事務所への就職を決めました。

何回か事務所訪問をするうちに、何となく内定が取れてしまうというような「神話」のような話は、まずありません。採用面接をする側になって思うことは、「この事務所になぜ入りたいのか」、「将来どんな弁護士になりたいのか」、といった考えがしっかりした人を採用したい、ということです。自分の強みや弁護士業務への思いをアピールできる人は、就職活動でも有利ではないかと思います。これは、法律事務所への就職活動だけでなく、企業等への就職活動にも通じることだと思います。

専門分野の確立が可能性を広げる

私が担当している業務の大部分は、企業を依頼主とする、いわゆる企業法務分野の仕事です。その中で特に力を入れているのは、国際取引分野(海外企業との取引契約、国際企業提携、外資系企業の日本進出支援など)と労働法分野(主に企業からの人事労務関係の相談対応、訴訟代理など)です。いずれも、企業での勤務経験や業務経験が活きる分野であり、私が就職活動時に思い描いていた姿に近いと言えます。数は多くないですが、友人、知人からの依頼による民事事件、家事事件なども担当しており、弁護士として個人の助けになっているという、企業法務とは別の意味での達成感も感じています。

弁護士の数は、今後も増加していくことになりますが、その中で確実に力を付けていくには、漠然と「仕事を取ろう」と思うのではなく、自分の強みとする分野、専門分野を早くから確立して、差別化を図っていくことが必要だと思います。知的財産権、企業再建、税法、消費者保護など、専門的な知識と業務経験のある弁護士への仕事の依頼は増加していると聞いています。「弁護士になれば後は安定」というような単純な時代ではないと思いますが、専門性を高めることにより、成功のチャンスは大きく広がるものと思います。

対処が求められる問題は二種類

弁護士実務も司法試験と似たところがあり、それは、画一的な処理が可能ないわゆる「知っている問題」と、今まで聞いたこともないような特別法の規定の解釈や適用が問題となる「未知の問題」の二種類の問題への対処に分かれるということです。法曹としての経験を積むことにより、「知っている問題」は確実に増えますが、全ての法律に精通することは不可能ですし、法律は日々改正され、また新規に制定されていきますので、特定の分野に絞って仕事をしている場合を除いて、「未知の問題」に直面することは、なくなりません。

伊藤塾の講義では、「未知の問題」を解くための対応策として、既存の知識のみに頼らず、法律や条文の趣旨に戻って「自分の頭で考える」ことの大切さを、基礎マスターの段階から強調されていましたが、このことは、法律実務にも通じています。「未知の問題」を解くためのヒントは、特別法の基礎となる一般法、たとえば民事事件であれば民法の規定やその趣旨にあることが多いと感じます。一般法の知識を集中的、かつ体系的に得る機会が一番多いのは、司法修習や実務に入った後よりも、むしろ受験勉強中だったのではないかと思います。単なる受験科目として考えず、法曹実務の基礎を身につけているのだ、という意識で臨むことができれば、より有意義に勉強を進めることができるのではないかと思います。

独立性に伴うやりがい

弁護士と会社員でどこが一番違うかというと、私は、「自分の名前を前面に出して仕事をする」という点ではないかと思います。企業での仕事は、対外的な業務でも、多くの場合は会社の一員として、会社の名前を前面に出して行いますが、弁護士の場合はその逆で、弁護士個人の名前で仕事をすることが多いです。
訴訟の代理人や弁護人として、事務所名よりも弁護士個人の名前が前面に出るのはその例です。大きめの案件ですと、複数の弁護士が分担して取り組むこともありますが、この場合にもそれぞれの担当部分については、その弁護士が一人のプロとして引き受ける覚悟と責任感が求められます。「自分の仕事に責任をもつ」ということは社会人の基本ですが、弁護士は一人ひとりがプロの法律家として、この基本を特に強く求められていると感じます。その重圧とプレッシャーの中で、一つの仕事を完成できた時に、弁護士としての喜びと達成感を感じます。
大きな仕事を先輩弁護士の指導を受けながら、複数の弁護士と共同で完成させた時の大きな達成感も捨てがたいものがありますが、私はむしろ、単独で任された小さめの案件を成功に導いた時や、個人の依頼者の悩みを解消することができ、依頼者から個人的な感謝の言葉をいただいた時に、会社員時代には感じることのなかった大きな嬉しさを感じています。

多様化の時代に変わらぬ本質

司法試験合格者や弁護士の数が急速に増加する現状を、「門戸が広がるチャンス」と見るか、「競争激化によるリスクの増加」と見るかは、人それぞれです。一つ言えることは、門戸が広がったことにより、様々なバックグラウンドを持った人々が弁護士に転身しつつあり、弁護士の世界も多様化の時代を迎えているということです。私のように会社員から転身するもよし、逆にまずは弁護士になり、その後に企業に入ってインハウスローヤーになるのもいい経験になると思います。どのような経緯で弁護士になるにせよ、忘れてはならないのは、依頼者を大切にする気持ちだと思います。弁護士は「先生」と呼ばれることが多い職業ですが、これをはき違えて自分中心になってしまうと、将来の展望は開けないのではないかと思います。

受験生の皆さんが現在お持ちの、「法律の専門家として人の役に立ちたい」という気持ちを、合格後もずっと持ち続けていただきたいと思います。
(2007年6月)

【プロフィール】 2003年 司法試験合格
2005年 弁護士登録・新東京法律事務所(※)入所
2015年 TMI総合法律事務所入所

※新東京法律事務所は2007年10月に経営統合し、新事務所名「ビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士事務所 坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)」となりました。