「法曹増員時代を迎え撃つ ~就職の奥義を伝授~」

湊 信明 先生(弁護士)

近時、司法修習生の就職は本当に大変な状況にあります。今後、合格者人数が増加するのに伴って、数百名の司法修習生が就職できなくなるのではないかと言われており、仮に法律事務所に入所が認められても給料がでない軒先を借りるだけの「ノキ弁」や、自宅で弁護士業務を行う「タク弁」が数多く出てくるのではないかという危機感があります。このような状況を受け、“合格人数3,000人”は多すぎるというような話も出始めています。 しかし、悲観することはありません。就職状況が厳しいのは事実ですが、就職にもノウハウがあります。そこで、今日は、厳しい就職戦線を突破するための基本的ノウハウについてお話ししたいと思います
 
就職の奥義その一
メールは「最重要アイテム」
 
司法修習生の就職活動は、弁護士会のホームページで採用予定のある法律事務所をチェックして、メールで就職希望を出すことから始まります。
ところが、司法修習生の大半は就職活動においてメールがいかに重要かについて気がついていません。私の事務所では、昨年、60期の司法修習生を募集したところ、メールで80件以上の応募がありました。これだけの司法修習生全員と面接することは不可能ですから、まずはメールの内容だけで審査して半分くらいにまで絞り込んでしまうのです。面接に来てもらうのは40名程度に過ぎません。ですから、メールで面接申し込みをする際に、振り落とされないように工夫する必要があるのです。
特に、複数の弁護士が所属する事務所で、弁護士を採用する場合、所属弁護士全員が面接に臨むことはできませんから、最終的に誰を採用するかの会議をするときには、メールの内容や添付されている文書の内容が事細かに審査されることになるのです。ですから、メールは単なる面接申し込みと思っていたら大間違いで、メール自体が選考試験であることを肝に銘じていたただきたいのです
メールで審査対象となるのは、
①この人は訴状や準備書面を作成することができる文書作成能力があるか、
②文書によって自分をアピールする力があるか、
③相手に失礼のない文書を書く力等の一般常識があるか
の三点です
 
司法修習生の中には、「忙しい弁護士にメールをお送りするのだから、メールは要件のみ書いて、出来る限りシンプルなものが良いと思う」というとんでもない誤解をしている人がいます。メールの内容から、「文章作成能力」「自己アピール力」「一般常識」をチェックするわけですから、しっかりと書いておいてもらわないと、これらの能力の有無を審査できないわけです。ですから、数行しか書いてない面接申し込みのメールが来ると、それだけで不採用の返答を出すことになってしまうのです。
それから、どこの法律事務所にも同じメールを出しているなと思われてしまうようなメールも駄目です。採用してもらいたいという意欲が感じられないからです
ですので、メールで面接希望を出す前に、事務所のホームページをチェックしたり、弁護士が書いている著書や論文を読んで、弁護士がどのようなことに興味を持っているかを把握し、メールの1ページ目で、どうしてその法律事務所の存在を知り、どういうところが気に入って面接を希望しているのかが具体的に明確に記載されている必要があるのです。例えば「○○法律事務所のホームページを拝見し、○○先生が○○をされていることにとても共感を覚えました。是非、○○先生のお話を伺いたく御事務所をご訪問させていただきたいと存じます」などと記載することが大切なのです。
そして、履歴書や経歴書をメールに添付しておくこともとても重要なことです。履歴書や経歴書には、通り一遍な内容ではなく、自分の特技や興味を持っていることについても詳細に記載しておいていただきたいものです。
要するに、弁護士に「この修習生と会ってみたい」と思わせなければ面接まで漕ぎ着けることはできないのですから、メールの中に、事務所に入所したいという動機が記載され、自分は事務所に役立つ人間なんだというアピールがしてあって、なかなか面白みのある人間なんだということが、メールと添付した履歴書や経歴書からわかってもらえる仕組みを作ることが大切なのです
 
就職の奥義その二
秘書を大切にせよ
 
メール審査にパスするといよいよ面接に臨むことになるのですが、面接で試されている能力というのは一体何なのでしょう?
弁護士100人規模の渉外事務所の場合は、弁護士一人ひとりの個性はそれほど問われず、成績や語学力がものを言います。しかし、一般的な事務所では、ごく少人数で業務を進めることになりますから、弁護士一人ひとりの個性が強く問われることになり、事務所内で一緒に仕事をすることができる人物かという人間性が試されることになります
特に、ボス弁がもっとも気にするのは、秘書や事務員とうまくやってくれるかという点です。法律事務所において、秘書の存在は非常に重要で、秘書が弁護士の指示を聞いて的確に動いてくれなければ話しになりません。弁護士が威張ってばかりいて秘書を馬鹿にするような人物では、とても法律事務所はもたないわけです
私は、司法修習生から電話があったときに、秘書に対して、その司法修習生の電話対応の印象を必ず聞くようにしています。また、面接の日には、秘書にお茶を出してもらうのですが、お茶を出したときの司法修習生の対応状況についても詳細に報告してもらっています。この秘書の第一印象で、「感じの悪い人でした」という言われた場合には、絶対に採用しません。
ですから、司法修習生は、秘書に対して感じよく礼儀正しく接することがとても大切なのです。
 
就職の奥義その三
面接時の「御法度」
 
面接の中で、弁護士からどんな事件をやってみたいか聞かれます。司法修習生の中には、僕はアレをやりたい!アタシはコレをやりたい!としゃべりまくる人がいますが、これは御法度です。弁護士は、この司法修習生を採用したとして、自分の事件をしっかりやってくれるのかを気にしているのです。ベラベラと自分のことばかり話して、事務所の事件のことはお構いなしというのは困りもので、弁護士としては、「あーこの人とはやってけないな…。」と思ってしまうのです。
ですから、どんな事件をやってみたいか聞かれたら、例えば「大学時代に、○○教授のもとで知的財産権について学んでいました。ですので、特許関係には興味がありますし、将来は、それに関連する業務を担当してみたいと思っております。ただ、私は、まだまだ法律実務のことは存じ上げませんし、まずは、入れていただいた法律事務所で、ボスの先生やその他の先生方と一緒に事件を解決しながら、本当に何をやりたいかを見つけて参りたいと希望しております」というように自分のことだけではなく、事務所のこともしっかりと考えられる人間であることをわかってもらえるように受け答えすることが大切です
それと、司法修習生の中には、すぐに、「個人事件はやってもいいのか」、「自分は刑事弁護委員会に入りたいと思っているが、その時間は確保できるのか」などと聞いてくる人がいます。もちろん、私の事務所では個人事件はできますし、委員会活動をすることも自由です。しかし、面接のときに、事務所の事件について質問もしないで、真っ先に個人事件をやらせてくれとか、委員会活動をやりたいからやらせてくれと言われてしまうと、この人は本当に事務所の仕事をやってくれるのかと不安になります。ですから、そのような人が採用されることは絶対にないのです。個人事件や委員会活動など、事務所事件以外の仕事については聞き方に十分に配慮することが大切です。
 
就職の奥義その四
いま風オシャレはお洒落じゃない
 
面接時の身だしなみも軽視してはいけません。面接をやっていると、ヨレヨレのスーツに薄汚れたネクタイを締めて来るような司法修習生もいますが、そんな人が採用されることはあり得ません。お洒落と思って鶏のトサカのように髪の毛を立てて、いま風の派手なスーツに身を包んでやってくる司法修習生もいますが、このような人を採用することもありません。
弁護士は、採用後は、自分の顧問会社の社長などの依頼者に会って事件の解決をしてもらうことを望んでいるわけですから、依頼者の前に出しても恥ずかしくない身なりをきちんとしていて欲しいと考えているのです。ですから、面接に行くときは、白のワイシャツにシックなネクタイを締めて紺かグレーのスーツを着て行くこと、これがとても重要なのです。
いま風おしゃれは、弁護士からみてお洒落だと思われないということに気をつけてください。
 
最後に
変化に対応できる人間が勝ち残る

これから面接に臨んでいくと、特に年配の弁護士から、自分が合格者人数500名の時代に合格したことを自慢したいがために、「500名合格者時代に比べて、今の大量合格者時代の修習生は駄目なんじゃないの?勉強ホントにできんの?」などと否定的なことを言われることがあると思います。
そんなことを言われても負けてはいけません。
皆さんは、司法試験制度の度重なる変更の中で、それに対応して道を切り拓いていく方々です。年配の弁護士たちは、むしろ変化に対応する能力に劣っています。ダーウィンは、「強いものが勝つのではない、変化に対応できた者が勝ち残のだ」という言葉を残しました。これから法律家になる皆さんこそ、柔軟な対応力があります。皆さんこそが勝ち残るのです。
これから大変なこともたくさんあるとは思いますが、最後まであきらめず、ぜひ、頑張ってください!
 
【プロフィール】
1995年10月に司法試験合格(司法研修所50期)。
1998年4月に弁護士登録後、2年間のイソ弁時代を経て、激戦の東京の中では異例の早さで2000年4月にパートナーとして事務所共同経営開始。
2003年10月に湊総合法律事務所を開業して独立。現在、アソシエイト弁護士を8名採用し、顧問会社が80社ほどあり、民事・刑事を問わず極めて幅広く事件を手がける他、本業以外にも弁護士会その他様々な分野に繋がりを有し、弁護士業に必須の「人脈構築術」には定評がある。
ホームページ http://www.minatolaw.com/   http://www.kigyou-houmu.com/ 
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