地域司法ネットワークの作成に携れることが弁護士過疎地域での仕事の魅力の一つです
新谷 泰真 先生 (弁護士)
事務所訪問と入所の理由
私は、初代紋別ひまわり基金法律事務所所長として活躍された松本三加弁護士から過疎地での弁護士活動についての話を聴く機会を持ったことから、弁護士過疎地・ひまわり基金の公設事務所での活動に強く惹かれるようになり、司法修習が開始する頃には公設事務所へ赴任することを決めていました。そのため、ひまわり公設事務所へ所属弁護士を派遣する事業を行っている事務所を中心に就職活動を行い、桜丘法律事務所に入所しました。最近新人弁護士の就職難が取りざたされていますが、採用倍率が高くなればなるほど、採用側にアピールするために、「弁護士としてどう生きるか」「その事務所に入所して何をしようと考えているのか」という点について明確なビジョンを持ち、採用面接において主張することが重要だと考えます。
宮古ひまわり基金法律事務所での業務
過疎地赴任を前提として桜丘法律事務所に入所し、約1年4ヶ月程度にわたって実務経験を積みました。その後,桜丘法律事務所の先輩にあたり、宮古ひまわり基金法律事務所初代所長として赴任していた田岡直博弁護士が引継の時期を迎えていたことから、私が後任として赴任することが決まりました。2007年2月に赴任し、二代目所長として業務を開始しました。岩手県宮古市は三陸沿岸に位置する人口6万人弱の都市であり、管内(盛岡地方裁判所宮古支部)人口は約10万人ですが、弁護士は私を含めて二人しかいません。弁護士過疎地における弁護士業務の特徴は、とにかく大量の相談や依頼が寄せられるということにあると感じます。先代の時から、毎年 400件から500件の法律相談を受けて来ましたが、一向に相談件数が減る気配はありません。中でも債務整理の相談が7割程度を占めています。これまで法律問題が生じても、なかなか弁護士に相談することができなかった方々がいかに多かったかということを痛感しています。かねてより、弁護士の力を本当に必要としている場所で働くことで社会に貢献したいと考えていた私にとって、この地で多くの依頼者から頼りにされながら仕事をすることは、まさに弁護士冥利に尽きると言えます。
やりがいを感じる瞬間
現在、地域に弁護士が少ないということを逆に活かして、市職員を対象に勉強会を開催したり、市に寄せられる相談などで消費者被害に遭われた方を発見した際に、迅速に弁護士を紹介して被害回復に取り組む体制作りに取り組むなど、関係機関と積極的に連携を図って高齢者・多重債務・消費者問題などの対応に当たっています。日々の弁護士業務を超えてこうした地域司法ネットワークの作成に参画し、自分の意見が大きく反映されて行くこと、これによって地域がよりよい方向に動いていくことに、大きなやりがいを感じています。また、当地では多重債務被害が深刻であり、相談を受ける中で「これまで何度死のうと思ったか分からない」という悲痛な声を数多く聞きます。そうした方の債務整理をしていくなかで、依頼者が生活を立て直し、安心した顔つきで感謝の気持ちを述べてくれる瞬間は、何物にも代え難いやりがいを感じます。
必要とされるプロフェッショナリズム
弁護士は、法律を武器として紛争を解決するのが仕事であり、日夜最新の法律知識と技術を身につける努力をすべきことは言うまでもありません。しかしながら、弁護士の仕事が最終的には依頼者の抱える紛争を解決することを目的とする以上、技術・知識と共に、人間に対する深い理解と洞察を身につけ、よりよい紛争解決を目指すことが必要であると考えています。
伊藤塾で得たもの
私は大学2年生の時から伊藤塾で司法試験の勉強を始めましたが、伊藤塾では常々「合格後を考える」ということを教えられてきました。また,私が公設事務所への赴任を志したのも、伊藤塾の合格者対象講座で松本三加弁護士の講演を聴いたのがきっかけでした。法律家になることは手段に過ぎず、その後法律家として何をなすのかが大切であるということを、伊藤塾で学ばせていただきました。皆さんも、日々の勉強で手一杯かもしれませんが、時には息抜きを兼ねて「明日の法律家講座」などに参加し、合格後の自分をイメージしてみることをお薦めします。
これから法律家を目指す方へ
今後ますます法律家が増えていく中で、先行きに不安を持たれる方もいるかもしれません。確かに、資格さえ取ってしまえば何とかなってきた旧き良き時代は終わりを告げました。しかし、これから法律家が必要とされる分野はますます広がっていきますし、あなたの力を必要としている方はたくさんいます。不安を覚えた時は、ご自身が法律家を目指した原点に立ち戻り、なぜ自分は法律家の道を選んだのか、法律家になって何をしたいのか、常に自問自答してください。法律家の仕事は、人の人生を左右する、大きな責任を伴うものですが、その分やりがいも大きなものです。是非、頑張っていただきたいと思います。
(2008年5月・記)
■Profile 2003年司法試験合格
2004年司法研修所入所
2005年弁護士登録
桜丘法律事務所入所
2007年2月~宮古ひまわり基金法律事務所に赴任
2代目所長として活動中
■事務所プロフィール
宮古ひまわり基金法律事務所
〒027-0077 岩手県宮古市舘合町1-2
■所属弁護士数
1名(2008年5月時点)
■当事務所の主な業務内容
一般民事・家事・刑事事件
■現在の「ある一日のスケジュール」
【出張のない日】
08:00 起床
09:00 出所,執務開始,起案
10:00 法律相談(会社経営について)
11:00 法律相談(債務整理)
12:00 昼食
12:40 メールのチェックなど
13:30 法律相談(損害賠償)
14:30 法律相談(債務整理)
15:30 依頼者打合せ(債務整理)
16:00 依頼者打合せ(債務整理)
16:30 管財人を務める案件について,債権者が来訪してくる
18:00 高齢者問題の勉強会
19:00 当番弁護出動,兼,受任中の被疑者との接見(合計3名と接見)
21:30 事務所に戻る,食事をした後準備書面の起案
01:00 帰宅
【出張のある日】
08:00 起床
09:00 出所,執務開始,資料整理と調べ物
10:00 法律相談(債務整理)
10:40 法律相談(債務整理)
11:20 法律相談(セクハラ)
12:00 事務所にて昼食
12:40 メールのチェックなど
13:30 法律相談(離婚)
14:30 盛岡地方裁判所遠野支部へ移動
16:30 遠野支部にて弁論準備手続(貸金)
17:00 事務所へ移動・合間に夕食を取る
19:30 事務所到着,準備書面の起案など
00:30 帰宅