一番弱い人の側に立ち、その人権を守れる弁護士になりたいその想いから、公設事務所を選択しました

大塚 博喜 先生(弁護士)

弱い人の側に立つ弁護士目指して

私は、法学部在学中から憲法・刑法・刑事訴訟法といった公法系の科目が好きでしたし、伊藤塾長が盛んに憲法について語っていた影響もあって、将来は、人権保障のために弱い人の側に立って活動したいという気持ちがありました。 
そして、逮捕勾留されている被疑者・被告人は、特に立場の弱い人だと思っていました。例え、社会的・経済的な地位や権力を持っているような人であったとしても、強大な国家権力と対峙するときは弱い立場に置かれます。もちろん、貧困にあえいでいる人や、家族や友人などといった人的なつながりを持たないような人なら尚更です。
無実の罪で訴追されている人はもちろん、現実に罪を犯した人であっても、そこに至った背景などの事情について、本人だけでは十分に主張立証することは困難です。ですから、弁護人が、本人に寄り添って、その話を十分に聴いた上で、証拠を集めたり、主張すべきことを主張して酌量を求めたりすることが必要となるのです。
また、そういった弁護人の活動は、被疑者・被告人の権利擁護のためだけでなく、事件の真相解明のためにも必要なことです。ですから弁護人の存在は、犯罪被害者の利益にもつながるものと思います。
以上のような理由から、私は、刑事弁護に携わりたいと思ったのです。

公設事務所の役割と選んだ理由

資力のある人は、自分で好きな弁護士を選んで雇うことができます。一方で、資力のない人は、自らの力では弁護人を雇うこともできません。よって、国選弁護というのは、相対的に立場の弱い被疑者・被告人の中でも、さらに弱い人たちを支える制度であるといえます。 
ただ、国選弁護というのは、他の事件と比べて単価も安く、ほとんど収入に結びつかない仕事であることから、一般の事務所では十分な時間や費用をかけて行うことが難しいものであることは事実だと思います。ですが、それでは被疑者・被告人の人権を十分に護ることはできません。
その点、弁護士会が運営する公設事務所であれば、給料制ですので、費用や採算を比較的気にすることなく国選弁護を含む刑事弁護に打ち込むことができます。 
ちなみに、東京には、東京パブリック法律事務所(池袋)、北千住パブリック法律事務所、渋谷パブリック法律事務所、そして多摩パブリック法律事務所(立川)という、東京弁護士会が作った4つの公設事務所を含む複数の都市型公設津事務所があります。そこで刑事弁護に携わりたいと考えていた私は、刑事対応型の事務所として設立された北千住パブリック法律事務所に入所しました。この事務所は、刑事事件に対応するだけでなく、人口は多いが弁護士は少ない東京の東地域にあって、特に高齢者や低所得者層といった相対的に弱い立場にある方々の需要に対応するという大切な役割も担っています。

法テラスでの経験

私は20072月から20102月までの3年間ほど、法テラス静岡法律事務所に常勤スタッフ弁護士として赴任していました。法テラス(日本司法支援センター)は、主として司法アクセス改善のために、国が設立した公的な法人で、全国各地に事務所を設けています。過疎地域などにあって、近くに法律家がいないなどの理由から、法的サービスを十分に受けることの出来ない人たちも、いわば弱い立場におかれているわけですから、そういった人たちをサポートしようとする法テラスという制度には、もともと関心を持っていました。
私が赴任した法テラス静岡法律事務所は、本庁対応の地方都市型の法律事務所でした。足立区においてもそうですが、例え都市部であっても、事件によっては、採算が取りづらいなどの理由から、弁護士が十分な対応ができていないことがあります。都市型の法テラス法律事務所は、そういった地域で、原則、国選弁護事件と民事法律扶助(※)事件という採算の取りづらい事件のみを受任する事務所として位置づけられた事務所です。
ちなみに、法テラスには過疎型の法律事務所もあり、そもそも弁護士がいないか、極めて少ない司法過疎地域の問題を解消するために、さまざまな事件に取り組んでいます。スタッフ弁護士を辞した現在も、本部非常勤専門員として仕事をしたり、ジュディケア弁護士として、引き続き、国選弁護事件や民事法律扶助事件に携わっています。

刑事弁護の手ごたえ

裁判員裁判が始まって、刑事弁護も様変わりしてきたように感じています。裁判員裁判の場合、連日開廷で集中して審理が行われるので、この期間中はかなりハードなものとなっています。また、これまでのように書面を書いて出すだけではなく、裁判員の方に法律用語を噛み砕いて説明し、わかりやすい主張や立証を心がける必要があり、これまでとは違った配慮が求められています。
一方で、この間の経験では、裁判員の方は、場合によっては裁判官よりも、一生懸命に話を聞いてくれており、真剣に当事者の主張を検討してくれているように感じています。また、残念ながら、弁護側の主張どおりの判決にはならなかったけれども、被告人が罪を反省し、拘置所内で漢字の練習をするなど更生の意思を見せていることが、判決書の中に具体的に反映されるといったこともありました。
ですから、裁判員裁判では弁護士の力量が直接試されるという意味でプレッシャーを感じる反面、刑事弁護の手ごたえも感じています。もちろん、まだまだ試行錯誤の段階ではありますが。

人権問題を正面から見据える法律家

伊藤塾長の言葉、特に人権に関わる話に、法律を学ぶ意味を感じました。それが現在の私の基本にあるように思います。人権擁護を前面に押し出すことに抵抗を感じる人もいるかもしれません。ですが、弁護士はそれを真顔で主張できるし、主張していかなければならないものと思います。同じ塾生の中には批判する方もいましたが、伊藤塾長が真顔で説明された様々な人権に関する話題は、その後も記憶として、感覚として、私の中に残っているように感じます。
確かに、実務に入ると、それまで勉強してきた人権保障の理論が必ずしも貫徹されていないことに気づき、そして、だんだんとそれに慣れてしまうところがあります。ですが、それは、決していいことではないと思います。
私は、「青臭い」志を持った人に法曹となってもらいたいし、もし、そのような志を持って法曹界に入ったのであれば、その志を最後まで貫いてほしいと思います。もちろん、判例や法律についての知識をもたなければ仕事はできません。しかし、知識だけではなく、自らの人権感覚に反すると思うことに出会ったときなどに、積極的かつ冷静に知恵を働かせて論理を組み立てていくことのできる法曹、ホット・ハートクール・マインドをあわせもつ法曹がやはり求められていると思います。これは自戒を込めてですが……。
皆さんが、そのような立派な法曹になられることを期待しています。

■Profile
2002年 司法試験合格
2004年 弁護士法人北千住パブリック法律事務所入所
2007年 法テラス静岡法律事務所赴任
2010年 弁護士法人北千住パブリック法律事務所へ復帰
日本司法支援センター専門員

■ 事務所プロフィール
弁護士法人北千住パブリック法律事務所
〒120-0034  東京都足立区千住3-98-604
千住ミルディスⅡ番館
http://www.kp-law.jp/ 

■ 当事務所の所属弁護士数
17名(2010年12月現在)

■ 事務所の主な業務内容
刑事事件/民事・家事事件/債務整理