当事者の生の声で知った問題の数々解決に貢献できることを誇りに思います

鈴木 麻子 先生(弁護士)

現在の事務所に入った理由・きっかけ

私は大学2年の春から伊藤塾に通い、大学4年時に司法試験に合格しました。合格後、伊藤塾でアルバイトをしたのですが、いくつかの法律事務所を取材する機会がありました。インタビューのために複数の弁護士の話を聞いたり、事務所の理念や業務内容についても突っ込んだ質問をすることができ、大変参考になりました。仕事といいながら、自分自身のためにもなり、役得だったと思っています。それが、大きな意味で、初めての事務所訪問となりました。
現在の事務所との出会いは、合格発表後、青年法律家協会が主催するプレ研修制度を利用して、2週間ほど研修に行ったことがきっかけでした。プレ研修では、生まれて初めて弁護士の仕事ぶりを間近に見て、大変刺激を受けました。特に、当時訴訟を提起したばかりの、東京都の教職員による日の丸・君が代強制予防訴訟(2006921日に、画期的な違憲判決が出た事件です)の原告陳述書を目にする機会があり、新聞等の報道では分からなかった当事者の生の声や苦しみ、現場で起きている異常な事態を知り愕然とするとともに、現場の先生の悲痛な声に涙がでる思いでした。養護学校の卒業式で、様々な障害をもっている生徒達の卒業を祝い、壇上ではなくフロアで一人一人卒業証書を手渡しする。生徒達の目線に立った、生徒達のための心温まる卒業式です。そのような卒業式を、都の通達に違反するとして中止させ、壇上を導入し、日の丸・君が代の起立斉唱を強制し、従わないものは処分する。憲法で勉強した「少数者の人権」「思想良心の自由」が、正に現実の問題として起きている、ということを実感し、弁護士がその最前線で闘っている姿に感銘を受けました。自分の目指す弁護士像がおぼろげながらも見え始めた頃でした。
実務修習に入ったころ、さすがにそろそろ進路を考えなくはいけないな、と思い、法律家団体主催の合同事務所説明会に参加、そこで再び、現在の事務所の弁護士と話をする機会がありました。プレ研修で体験した事務所の自由闊達な雰囲気、事務所の規模(10名ちょっとで、それぞれの顔が見える規模)、理念(市民生活に根ざした事件と、憲法・人権を擁護するための大規模な社会的事件の両方に取り組む)、運営方針(全員パートナー制で、新人の時から事務所運営に参加する)、いずれも自分のイメージする弁護士としての働き方に合う事務所だと感じました。決め手は、事務所訪問の度に夜遅く(ときには朝まで)、付き合って熱く語ってくれた先輩弁護士の優しさと、情熱にほだされて、といったところでしょうか。いい意味で遠慮、気兼ねがない明るい雰囲気と、憲法や人権問題に、本気で取り組んでいるその姿勢に大変共感をおぼえ、最終的に入所を決めました。

使命とやりがいを感じる日々

2006年10月に弁護士登録をして、あっという間に半年が過ぎました。通常の事件では、刑事、労働、離婚、クレサラ、相隣関係etc、市民の生活に密着した事件を色々手掛けています。大きな事件ではなくても、依頼者にとっては人生の一大事です。解決して、「ありがとうございました」と言ってもらえる瞬間、プロの法律家になったのだなと実感するとともに、責任の重さに身の引き締まる思いです。大きな弁護団事件としては、プレ研修のときに知った日の丸・君が代強制問題に取り組み、「神奈川こころの自由裁判」の弁護団として、県立高校での入学式・卒業式における国旗国歌忠誠義務不存在確認訴訟に参加しています。毎回の弁護団会議では、20人近い弁護士が集まり新人からベテランの弁護士まで力を合わせて知恵を出し合っています。一人では到底書き上げることができない大部の書面を、会議を重ね、推敲を重ねて完成させていく過程は、とても刺激的で、微力ながら自分も事件に貢献できることを光栄に思っています。また、横須賀の米兵強盗殺人事件の遺族の方を原告にした国、米軍を相手にした民事の損害賠償請求事件では、米軍犯罪が頻発している現状について、過去の新聞記事をインターネットで検索し、証拠としてまとめ、法廷で証拠弁論を行う機会がありました。法律論も大切ですが、個々の具体的事実の持つ重み、説得力の重要性を改めて感じています。いずれも困難な事件ではありますが、原告らのことを思うと、絶対に負けられない事件です。
事件以外では、青年法律家協会や自由法曹団などの法律家団体の活動にも顔を出し、事務所以外の先輩弁護士とも親しく交流しています。弁護団や法律家団体の活動に参加することで、わずか半年の間に、相当数の先輩弁護士とお話をすることができました。皆さん、素敵な方ばかりで、また新人であっても一人前の弁護士として対等に扱っていただいています。この様に人間関係にも恵まれたことをうれしく思っています。会議のあと、皆で飲むビールの味は格別です!

必要とされるプロフェッショナリズム

限られた時間、限られた資料の中で、最善を尽くすこと。それが弁護士のプロフェッショナリズムだと思います。仕事の期日を守ることは当然のことですが、これではたたかえない!と思うぐらい手元に資料がないとき、時間がないときであっても、もてる知識・経験を総動員をして、最善を尽くす。それを続けることで自分の能力の閾値が上がっていくのだと思います。

伊藤塾で得たもの

まず当然のことながら、伊藤塾で学んだ法律の基本的知識は、修習・実務を通じて大変役に立っています。限られた時間・資料の中でも諦めずに最善を尽くす、という姿勢も、受験生時代に伊藤塾で培ったものだと思います。

これから法律家を目指す方へ

法曹人口増員の流れのなかで、就職先や仕事の確保を不安に思っている方も多いと思います。決して楽観視できる問題ではありませんが、仕事を始める前から萎縮してしまっては、法律家としての能力を十分に発揮することができません。声がかかるのを待つのではなく、自分から積極的に行動すれば、必ず道は開けると思います。現場では、皆さんの力を必要としている人がたくさんいます。自分を信じて、頑張ってください!

■Profile
2003年司法試験合格
2006年弁護士登録
川崎合同法律事務所入所
 
■事務所プロフィール
川崎合同法律事務所
〒210-8544 神奈川県川崎市砂子1-10-2 ソシオ砂子ビル802号
 
■所属弁護士数
12名(2007年6月時点)
 
■現在の「ある一日のスケジュール」
【事務所にいる日】 
 07:30  起床
 09:30  事務所に出勤
 10:00  国選弁護士の公判(ホームレスの窃盗事件)
 12:00  昼食
 13:00  依頼者と打ち合わせ(多重債務の任意整理事件)
 13:30  事務所の法律相談担当(元夫が養育費を支払わない)
 14:00  私選の刑事事件の証拠開示請求起案、依頼者や相手方と電話など
 15:30  法律相談
 17:30  依頼者と打ち合わせ(法律扶助事件)
 18:00  起案
 22:00  帰宅
 01:00  就寝
 
【外出が多い日】 
 07:30  起床
 09:30  事務所に出勤、刑事事件の被告人、家族と裁判の打ち合わせ
 10:00  刑事事件公判(条例違反の自白事件)
 11:00  事務所に戻って、午後の裁判の資料を確認
      移動
 12:30  依頼者裁判所で待ち合わせ(労働審判)
 13:30  労働審判第1回期日
 15:30  弁護士会館で、学習会の企画について会議
 16:30  弁護団事件弁論(神奈川こころの自由裁判)
 17:15  原告団、市民に対する報告集会
 19:00  買い物をしてから外食、帰宅
 22:00  メールチェック、原稿の執筆など
 02:00  就寝