司法試験対策で身につけた基本姿勢が現在の仕事を支えてくれています
正田 美和 先生 (弁護士)
はじめに
2004年10月の弁護士登録と同時に森・濱田松本法律事務所に入所し、主に企業法務に携わるようになってから、1年半が経過しました。
森・濱田松本法律事務所は、現在200名以上の弁護士が所属するいわゆる大規模法律事務所で、私は主に知的財産や訴訟に携わっており、特に海外との関係が問題となる案件を中心的な業務分野としています。また、離婚事件や刑事事件にも、積極的に取り組んでいます。
当事務所のような大規模法律事務所では、司法試験や司法研修所における勉強とは全くかけ離れた業務を行っているかのように言われることがあります。しかし、実際は異なり、むしろ慣れ親しんできたはずの民法や商法、民事訴訟法等の法分野に頭を悩ませながら日々過ごしています。
心掛けていること
弁護士として仕事をしていくうえで、いくつか心掛けていることがあります。
第1に、原理原則や趣旨に立ち戻ることです。クライアント、特に企業で法務を担当している方は、一般的な法知識を備えている方が多く、弁護士に対しては、著名な判例や文献にはない論点についてアドバイスを求める、ということも頻繁にあります。そして、数百、数千という数の裁判例を探して検討しても妥当するものがない、ということも珍しくありません。そのようなときでもクライアントが前に進むためには、弁護士として相談を受けた私が、考え抜き、結論を出す以外に方法はありません。
第2に、一読して誰もが理解できる文章を書くことです。どんなに有利な事実や証拠があっても、法的に評価して裁判官を説得できなければ、意味がありません。そして、何度も読み返さなければ理解できない文章では、裁判官を説得することは到底できません。私は、一度書いた文章を、時には数日に渡り何十回となく読み返し、助詞の使い方等を含めた詳細な表現にまでこだわり、裁判官を一読して「なるほど」と思わせることができるか、常に確認するようにしています。
第3に、労力を惜しまないことです。自分が十分良く理解していると思っていた論点を、何時間もかけて調べ上げることもよくあります。先日、ある訴訟で、文書提出義務の存否が争われ、貸出稟議書の自己使用文書性に関する平成11 年の最高裁判例で提示された規範への該当性が問題になりました。もちろん、この判例は司法試験受験中から馴染みあるものですが、具体的事実に照らして裁判所を説得するためには、関連する裁判例を全て調べ上げて、事実と評価手法を詳細に分析しなければなりませんでした。かけるべき労力をどこかで怠っているときは、やはり不十分な点が残っているものです。大丈夫、と思うときでも、もう一瞬踏みとどまり考えることが、正確な法的アドバイスを可能にしてくれます。
以上は、いずれも極めて当たり前のことで、司法試験の受験過程においても繰り返し指導されてきたことです。しかし、いずれも法律家としての最低限の素養であり、個々の知識そのものよりも、司法試験の受験を通じて身につけたこのような姿勢が、現在の仕事を支えてくれていると思っています。
志す弁護士像
自分がどのような弁護士になりたいか、その答えは人それぞれ異なるでしょう。私は、クライアントが企業であっても個人であっても、プロフェッショナルとして求められる以上は、そのときの自分に可能な全てを傾けてクライアントをサポートできる弁護士でありたいと思っています。Best For Clientこそ、私たちの事務所の理念であり、私の目指すところです。皆さんも、法曹の一員になった自分を想像し、法曹としての目標を常に意識して、ぜひ頑張ってください。
森・濱田松本法律事務所