憲民刑の知識、問題へのアプローチ法実務でも基礎マスターの内容は活きます

高木 弘明 先生 (弁護士)

はじめに

西村あさひ法律事務所に入所して5年目になります。業務分野は、いわゆるコーポレートといわれる分野で、M&A・組織再編(合併、会社分割、株式交換など)、企業提携、その他会社法に関する案件に携わっています。最近は、一般にも議論になることの多い企業買収防衛策、会社法施行に伴う実務上の論点の検討等が、業務の中で大きな比重を占めています。

弁護士になった理由

私が弁護士を目指した理由は、プロフェッショナルとして経済活動に関与する弁護士という職業に憧れを持った(その意味で、当初から企業法務を意識していました)という程度のものでした。ただ、司法試験を受験するのであれば準備は早めから始めようと思い、大学1年生の10月から、伊藤塾の本科生として司法試験の勉強を始めました。基礎マスターで聴く内容は法律の前提知識がない者にとって非常に新鮮である一方、理解し知識として定着させることは個々人の努力を必要とします。そのため、論点の背景(問題の所在)をまず把握し、その上で学説の状況、キーワードをおさえる等の方法で、復習に重点をおいて勉強していました。 

実務で問われる能力について 
大規模事務所で勤務していると、一般民事の分野といわれる賃貸借、消費貸借、相続等の案件が比較的少ないこともあり、憲法・民法・刑法について直接検討する機会は、実際にはそれほど多くありません。しかし、コーポレートの弁護士が業務を行うにあたっては、会社法、証券取引法、独占禁止法、法人税法など、非常に多くの法律をチェックする必要があり、それらの法律のベースにあるものは、憲法・民法・刑法です
また、業務をしていく中で、意外なところでこれらに関する議論がされることもあります。
例えば、最近の最も話題性の高い分野ともいえる企業買収防衛策に関しても「新株予約権の発行により買収者に経済的損失を与えることは、財産権(憲法29 条)の侵害ではないか」との議論がされることがあります。この議論自体は横に置くとしても、憲法とは一見無関係に思えるところにも憲法(私人間効力の話ですが)の議論がされるということに私は驚きを感じるとともに、憲法は全ての法の基礎にあるという点を(当たり前のことなのですが)改めて認識しました。
また、以前、諸々の事情で一旦売却した株式を買い戻す必要が生じたという事案で、どのような法律構成をとるのが良いか検討する機会がありました。買戻しのため新たな株式売買契約を結ぶのが最も早いのですが、それでは証券取引法による強制公開買付け等との関係でクライアントのニーズに合いません。そこで検討したのが、錯誤無効、詐欺取消などといった、民法の基本ともいえる点でした。結局その件では合意解除を行い、原状回復義務に基づいて株券等を譲り受けるということで解決しました。
このように、法律実務においても憲法・民法・刑法の議論が当然のように出てくる場面があります(憲法・民法・刑法は法体系の根幹をなす法ですので、ある意味当然のことではあるのですが)。また、問題の所在(クライアントの置かれた状況)をまず正確に把握し、その上で論点の検討を行うという手法は、基礎マスターでの勉強方法と法律実務とで共通する部分が大きいように思います

メッセージ

受験生の方々は、司法試験制度が大きく変動する中、将来に対する不安を抱えながら勉強をされていると思います。しかし、今勉強されている内容、勉強方法は、法律実務家となってからも活用できるものです。諦めず、自分を信じ続ける限り、皆さんが法曹として活躍される日は遠くないと思います。ぜひ頑張ってください。
 

■Profile
2000年 司法試験合格
2002年 弁護士登録
西村ときわ法律事務所(現:西村あさひ法律事務所)入所


■事務所プロフィール
西村あさひ法律事務所
〒107-6029 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル(総合受付28階)
http://www.jurists.co.jp/

■所属弁護士数
約300名(2007年10月時点)

■事業内容
〔企業活動関連〕
「合併・企業買収・企業提携」「企業防衛・企業危機管理」「組織再編・再構築」「ベンチャー関連」「IT・電子商取引関連」「知的財産権法」「税法」「不動産取引」「環境法」「独占禁止法」に関連した戦略法務

〔ファイナンス取引関連〕
「バンキング」「証券業務」「アセット・マネージメント」「証券化、流動化」「アセット・ファイナンス取引」「保険」など

〔争訟関連〕
「国際的争訟」「国内商事・税務訴訟」「知的財産権争訟」「不動産争訟」「特殊な審判事件・行政手続」「国際通商事件」など

〔事業再生・破綻処理関連〕
銀行、保険会社、上場事業会社等の大型案件から、地方経済を支える中小企業まで幅広く、事業再生・破綻案件に関与

〔知的財産法関連〕
特許権、実用新案権、著作権、商標権、意匠権、不正競争防止法上の権利に関する多角的総合的な法的助言、ライセンス契約等の作成・検討・交渉、侵害行為に対する防御・対抗措置の遂行、侵害訴訟に対する対応など
取扱分野:音楽、映画、放送、スポーツ等を含むエンターテインメント法、IT法・インターネット法、ブランド・ビジネスやキャラクター・ビジネス、コンテンツ・ファイナンスなど