『法曹』から拡がる可能性~検事経由
再生可能エネルギープロジェクトロイヤーへの道~

若林 美奈子 先生(弁護士)

経験から興味を得、興味を専門分野に

私が今担当しているのは「リニューアブル」といわれる分野の仕事です。風力や太陽光・太陽熱などの再生可能エネルギーの発電プロジェクトを、リーガルの立場からバックアップし、促進してゆくといった仕事です。
私は、以前はストラクチャード・ファイナンスの分野に携わっており、さらにその前は検察官をしていました。脈絡なく聞こえるかもしれませんが、こういう経緯があったからこそ今の仕事に巡り会うことができ、熱意を持って取り組めるようになったと思います。
検察官時代に様々な経験をした中で、一番印象に残ったのが東海村の核燃料加工施設の臨界事故です。当時、私は捜査チームに加わり、起訴までの半年以上、休みを返上して深夜まで働きました。その中で、放射線被害の恐ろしさを痛感しました。この事件は私にとって色々な意味で衝撃的で、原子力や放射線の脅威から解放される世界にしていきたい、そのために自分もいつか何かしたいと強く思うようになりました。 
とはいえ具体的なイメージはなく、世界で取り組むべきことだから国際機関で働くのがいいのでは、と漠然と考えていました。いずれにしろ、仕事の舞台を世界に移していきたいと感じるようになり、弁護士となりました。
弁護士になってからは、当初クロスボーダーのストラクチャード・ファイナンスの分野に携わり、米国留学を経て、現在の事務所に入り、リニューアブルの分野に携わりを担当するようになります。

再生可能エネルギープロジェクトロイヤーという仕事

私にとってリニューアブルは最も魅力的な分野です。開発の初期段階からプロジェクトに関わり、最終的に巨大な発電プロジェクトを成功させるというスケールの大きさも魅力的ですし、その結果、原発に依存しない電源を得られるかもしれないことは、臨界事故を経験した私にとっては、これこそが私のやるべき仕事なのではないかと思える、真実、魅力的な分野です。リニューアブルのプロジェクトは、風力発電でいえば、適した風が吹きそうな土地に風速計を立て、風のデータを得るために、土地の使用契約を締結するところから始まります。さらに、電力会社との電気の売買契約、風車の売買・建設契約、ファイナンス契約、政府との折衝等々、プロジェクトの中で扱う分野は非常に多岐に渡ります。
この分野は先例が少なく、日々技術や各国の制度が変わっていくので、高い専門性が求められます。大変なことも多いですが、やりがいのあるこの仕事が好きですし、熱意を持って取り組んでいます。

明日の法律家に向けて

リニューアブルを専門とする日本の弁護士は私以外にはまだいないのではと思います。一般的な法曹像とは違うと思いますし、私自身もこのような分野に携わると思っておらず、この分野に弁護士がの仕事があるとも思っていませんでした。  法曹は資格の一つにすぎませんが、これほどまでに様々なことに深く関われる資格は他にありません。幅広い可能性の中から自分の興味に応じて、目指すものを探し、それを活かして活躍の幅を広げていくことができます。従来の仕事にとらわれず、これまで法律家が携わったことのない分野にもどんどん目を向けていければいいのではと思います。
【プロフィール】
1998年 検察官検事任官 (東京、浦和、水戸地検)
2002年 現渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
2004年 オリック・ヘリントン・アンド・サトクリフLLPニューヨークオフィス(エクスターン・アソシエイト)
2005年 現渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー
2006年 オリック・ヘリントン・アンド・サトクリフ(東京オフィス)
現  在  オリックグローバル・ファイナンス(エネルギー・インフラ)部

■ 主な業務内容
「リニューアブル分野※」のリーガルバックアップ・促進
※持続的利用可能エネルギー(風力・太陽光発電)