刻々と変化する状況に冷静な対応が必要な仕事サッカーと共通する手ごたえを感じています

八十 祐治 先生(弁護士)

目標に向かって挑戦

私は、大学卒業後、ガンバ大阪・ヴィッセル神戸・アルビレックス新潟等で2000年12月に31歳で引退するまで、計約8年サッカー選手としてプレーしてきました。引退後は、人材派遣会社の営業担当として勤務していましたが、私にとって、引退後のサラリーマン生活は、目標に向かって日々努力を重ねていたプロサッカー選手時代の生活と比較すると、非常に物足りないものでした。そもそも人材派遣会社での営業の仕事は、私が本当にやりたいと考えて選択した仕事ではなく、いわば生活するため仕方なく選択した仕事であったため、人材派遣会社での営業の仕事にどうしてもやりがいを感じることができなかったのです。 そのようなサラリーマン生活の中で悶々としていたのですが、仕事上で弁護士から法的アドバイスを受けることがあり、プロサッカー選手と同様、法律のプロとして、自らの知識・技能・経験などを駆使して問題を解決していく弁護士という職業を強く意識するようになりました。その結果、サッカー以外の分野でも、何か目標をもって挑戦してみたいと強く想うようになり、弁護士を目指すことを決意し、司法試験の勉強を始めたのです。

合格後をイメージしながら

私が司法試験の勉強を開始したのは、31歳の時でした。私は大学が法学部ではなく、経営学部出身であったこともあり、法律の基礎を一から勉強する必要がありました。また、31歳という年齢的なものや結婚して妻と子どもがいたこともあり、一日も早く合格したいという気持ちが非常に強い一方で、仕事をしていることから、勉強に多くの時間を割くことができず、正直なところプレッシャーに押しつぶされそうな毎日でした。そのような状況においても、私は、とにかく一日一日を無駄にしないように心がけていました。
早く合格したいという焦る気持ちは強かったのですが、いろいろなものに手を広げ過ぎず、伊藤塾の入門講座で先生がご指摘されていたように、何度も何度も基礎知識の修得に努めました。確かに、何度も何度も基礎知識を修得する作業は、決して楽なことではありません。そんな地道な作業を継続していくために、私は、伊藤塾が提唱する「合格後を考える」こと、つまり、合格後、弁護士になって自分自身が法廷に立っている姿をイメージしながら、自分自身を奮い立たせていました。
その結果、基礎知識を修得できたことで、論文を書く力も飛躍的に伸び、4回目の受験で、最終合格を果たすことができたのです。受験生の心理として、いろいろなものに手を広げたいという気持ちは十分理解できますが、私は、手を広げ過ぎず、基礎知識を何度も何度も頭に叩き込んだこと、そして、合格後の自分自身を思い描き、モチベーションを維持できたことが、結局は合格への近道だったのだと実感しています。 

状況変化に即応する冷静さ

現在、弁護士として4年目を迎えています。日々の業務は、交通事故・離婚・相続などの一般民事、虐待やいじめの問題や殺人・強盗などの刑事弁護や少年事件まで、様々な分野の事件に取り組んでいます。個人的には、虐待やいじめの問題、少年事件など、子どもの権利に関する問題に注力しています。
まだまだ弁護士として一人前といえるにはほど遠い状態ですが、弁護士として業務を行う上で感じることは、実際の業務は、法律の知識だけでは解決できない問題がほとんどだということです。法律に依拠しながらも、依頼者の気持ちや時には相手方の気持ちも酌み取りながら、最も良い解決策を探っていかなければなりません。法律家には、そのようなバランス感覚が求められているのではないかと痛感しています。
そんなときは、プロサッカー選手時代や、サラリーマン時代の経験を通じて培ったバランス感覚が少しは役に立っているような気がしています。また、サッカーにおいては、刻々と変化する状況に、最大の力を発揮していかなければなりません。そのためには常に冷静でいることが要求されていました。弁護士の日々の業務においても、サッカーと同じように、刻々と変化する状況に、即座に対応し、様々な選択を迫られる場面に遭遇することは多々あります。そこで、私は、どのような状況に遭遇しても、常に冷静さを失うことのないよう対応することを心がけています。 
このように、弁護士という職業の魅力は、法律知識はもちろんのこと、弁護士になるまでに得た様々な経験や知識も駆使しながら、自ら考え、主体的に行動し、問題を解決していくことにあると思います。そして、自ら考え、主体的に行動した結果、依頼者から感謝の言葉をいただけた時は、法律家になって本当によかったと実感できる瞬間で、人材派遣会社の営業の仕事では得ることができなかった達成感や満足感を、弁護士の業務を通じて得ることができるのだと思います。

逃げず立ち向かえばゴールは近い

司法試験制度が変わったことで、法科大学院の学費の問題
や合格率の低下、法曹人口が増加したことで、弁護士の「就職難」の問題などが新たに発生し、不安を持っている方も多いと思います。その上で、さらに働きながら法曹を目指すことは、非常に大変なことだと思います。しかし、それを乗り越えれば、きっと想像していた以上のやりがいのある世界が開けていると思います。そのことを信じ、決して困難に負けることなく、自らの信念を貫いてください。
私も、受験勉強時代は、合格というゴールが全く見えず、不安になることが少なからずありました。しかし、そのような不安を吹き飛ばすことができるのは、自分自身でしかありません。合格というゴールが見えずに不安になった時こそ、合格後の理想の自分を思い描いてみてください。きっと力が湧いてくると思います。苦しいとは思いますが、受験勉強から逃げずに立ち向かっていってください。そうすれば、意外と合格というゴールは近くにあるかもしれません。
頑張ってください。
 
(2010年11月・記)

【プロフィール】
2005年 司法試験合格
2007年 弁護士登録
摂津総合法律事務所入所
 

■ 事務所プロフィール
摂津総合法律事務所
〒530-0047  大阪府大阪市北区西天満4-1-2
中之島日光ビル4階
■ 当事務所の所属弁護士数
5名(2010年12月現在)
■ 事務所の主な業務内容
一般民事(交通事故・離婚・相続等)、刑事、少年事件、その他