東日本大震災の経験をふまえて、災害発生時の弁護士に求められるもの。

大友 健治 先生(弁護士)

クラスマネージャー経験が合格へ導いてくれた
私は漠然とサラリーマンになるよりは、自営業で仕事をしたいと考えていました。東北大学法学部に入学し、周りに司法試験を受験する人が多くいたこともあり、私も弁護士を目指しました。短答試験は初受験以外合格していましたが、論文試験がなかなか合格できませんでした。
論文試験を4回受験したころ伊藤塾が仙台でのクラスマネージャーの募集をしていました。クラスマネージャーは勉強に役立ち、収入にもなると思い応募し仙台で初年度のクラスマネージャーに採用されました。受講生とともに改めて基礎から講義を受け、受講生からの質問に答えたりアドバイスをすることは大変役立ちました。
伊藤塾の講義では、各法律の全体像を把握でき、論点についても網羅的に論理的に説明されていました。特に塾長の講義では、「比較」をしながら説明がなされており(単に~ではなく~、など)、知識の整理に加え、論理的思考力を身に付けるうえでも大変役立ちました。以前に受講していた他の受験指導校の講義やテキストは基本書を引用しそれをただ単にまとめて説明していたようでしたが、伊藤塾の講義やテキストは実践的で、合格に必要な法的思考力と答案作成を意識した教え方でした。
また、それまで答案を書く時に、理由から考えそれを積み上げて結論を導く思考方法をしていたのですが、これはとても時間がかかり実践的ではありませんでした。伊藤塾の講義で、論点を把握し(何が争点か)、まずは結論を明確にする(何が言いたいか)という思考方法を学びました。これは苦手だった論文試験突破にも役立ち、実務に入った今でも準備書面の作成に役立っています。このようにして私はクラスマネージャーを担当した2年目には論文試験と口述試験に合格することができました。

「学ぶ楽しみ」のある仕事
 
私は実家が仙台に近く、大学も司法修習地も仙台だったので、仙台で弁護士をすることを考えていました。自営業に憧れていたものの、現実は司法試験に合格し、司法修習を経ても、まずは実務経験が必要と考えられます。自分のためにも顧客のためにもです。そこで、司法修習中に仙台で就職活動をしました。事務所によっては取り扱う事件が限られたところも多かったのですが、多様な事件を取り扱っており、所長の人柄も素晴らしいことから今の事務所を希望し、入所させていただきました。

私の事務所の取扱業務は、民事、行政、刑事、少年、家事、労働、医療過誤、多重債務、管財事件等、多種多様です。私も様々な事件を取り扱ってきましたが、印象に残っているのは会社経営者交代を巡る案件で、預金や不動産・登記の移転また契約書・決算書等から前代表取締役の行動等を推測することが必要でした。資料収集を行い多数の資料を精査し非常に手間と根気が必要で、決算書等を読み取るために会計の知識も必要でしたがその都度勉強しました。また医療過誤事件も扱いましたが、カルテを精査し、医学文献を読み取ることが必要となり、医学的知識をその都度勉強しました。裁判員裁判も担当しましたが、裁判員に対し書面や説明をわかりやすく理解してもらう工夫が必要となりました。弁護士の業務は、単に法律的知識だけでなく、他の専門分野の知識などを勉強することが必要になりますが、自分自身の成長となり、学ぶ楽しみがある非常に魅力的な仕事だと思っています。


東日本大震災被災地の弁護士として

2011年3月11日、東日本大震災は東北地方に大きな被害を与えました。私は事務所で被災したのですが、長い時間の大きな本震と余震はいつ終わるのか、ビルが倒壊するのではないかとまで考えました。事務所は本棚が倒れ、事件記録や書籍が散乱し出入口も塞ぐほどになりました。ライフラインはストップし、復旧まで電気は3日、水道は1週間、ガスは1か月近くかかりました。営業している数少ない店で食料品を調達するためレジに4時間並ぶこともありました。地震直後は停電のため立体駐車場から車が出せなかったのですが、車が出せるようになってもガソリンスタンドが閉鎖され給油できず、車が利用できない状態が続きました。幸いにも私の事務所や家族には怪我人は出なかったのですが、ここまで不自由になるとは思いませんでした。

このような状態の中で3月中は裁判所は閉廷となりましたが、弁護士会は被害のひどかった沿岸部で法律相談を行うことにしました。私も担当させてもらい、震災関係の勉強をしたうえで、法律相談に行きました。沿岸部は津波で街が根こそぎ奪われており、惨憺たるものでした。震災直後は法律相談どころではないようで、あまり相談はありませんでした。その後弁護士会の震災電話相談などを担当しましたが、時間が経ってくると、弔慰金や生活再建支援制度等の問い合わせ、ブロック塀の倒壊による近隣トラブルなどの相談が増えてきました。更に時間が経ち、金融機関の支払猶予の時期が過ぎると、負債問題、特に二重ローン問題が多く寄せられるようになりました。津波で流された家の住宅ローンの問題です。この二重ローン問題については私的整理ガイドラインが取りまとめられました。不十分な制度と言われていますが、現在もガイドライン運営委員会と弁護士会で協議を行い、実効性のある運用を行おうとしています。私も私的整理ガイドラインの登録専門家として微力ながら申出支援等を行っています。

このような大災害を契機に改めて考えさせられたのですが、基本的に弁護士は依頼者からの相談があって初めて動き出します。相談・依頼があり、それに対して法的手段で問題・紛争を解決します。しかし災害時には待っていても相談があるわけではなく、弁護士ができることも法的分野に限られ無力であることを痛感させられました。その中でも積極的に自ら被災地に相談に行き、法的アドバイスを行い、少なからず起きてくる紛争を代理人あるいは仲裁人として解決し、災害による被害に対し救済を図るなど弁護士にしかできない役割があるはずです。私も微力ながら今後も災害復興に尽力していきたいです。
 
出会いや紹介から就職も弁護士の就職難といわれていますが、私のころもいろいろな出会いや紹介で、一般的に募集をしていない事務所に就職した人もいます。仙台はまだまだ仕事があり、特に今後は震災・原発関係のため弁護士の力が必要になってくると思います。仙台は暮らしやすく、弁護士数も400人弱で「顔が見える」関係にあり、弁護士業を行うにはお勧めできます。
試験勉強は大変ですが、正しい方法で努力すれば必ず合格できるはずです。素晴らしい仕事が待っていますので頑張ってください。

(2012年4月・記)

【プロフィール】 1997年 東北大学法学部 卒業
2004年 司法試験 合格
2005年 司法修習生(第59期)となる
2006年 司法修習終了
2006年 弁護士登録(仙台弁護士会)
ひろむ法律事務所入所
仙台弁護士会法律相談センター運営委員会委員
仙台弁護士会日本司法支援センター対策特別委員会委員
仙台弁護士会裁判所・裁判官検討特別委員会委員
(先生のプロフィール等は取材時のものです)


■事務所プロフィール

ひろむ法律事務所
〒980-0804  仙台市青葉区大町1-2-1 
ライオンビル8F
TEL:022-223-2905
FAX:022-223-2915
■事務所の特長
当事務所は、現在、弁護士4名、事務職員7名のスタッフで業務をおこなっております。業務の範囲は、一般民事事件、家事事件、行政事件、刑事・少年事件、倒産・再生事件などはば広い分野に及んでいます。
ひろむ法律事務所の由来をご紹介いたしますと、当事務所は2004年(平成16年)1月、斉藤睦男(むツオ)と阿部弘樹(ひろキ)の個性の異なる2人の弁護士がパートナーシップを組むことにより、事件解決力を高めることをめざして発足したものです。
■所属弁護士会
仙台弁護士会