弁護士は今 何をすべきか

掲載日:2012年8月

▲「弁護士の魅力vol4」でもご覧いただけます。

2011年は東日本大震災、欧州経済危機など多くの社会不安や世界情勢変化の年でした。
まさに今、この国に本当の意味で日本国憲法の価値観が求められています。
先の東日本大震災ほど憲法の視点が必要な事態はないといっても過言ではありません。
被災者の救済、原発事故の対応等にあたっては、一人ひとりを大切にする「個人の尊重」、そして一人ひとりの命と生活を守る「人間の安全保障」の視点が不可欠だからです。震災の犠牲になり、いまだに大きな不利益を被っている被災者の方々は全国民から見ると圧倒的に少数派です。
多くの国民にとっては他人事になりがちです。だからこそ、少数派を守るための憲法が必要なのです。この憲法の理念を実現するために、法律を学んだ皆さんがどのように活躍できるか、十分把握し実践する機会となれば幸いです。

大災害を前にして、弁護士は何をすべきか ― 被災者のために立ち上がった弁護士。

2011年3月11日、日本は東日本大震災という未曾有の大災害に見舞われました。犠牲者は行方不明者を含めて約19,000人にのぼり、多くの人々が家族を亡くし、家や仕事を奪われ、今も苦しんでいます。また、原子力発電所の事故による放射能汚染に対する不安と恐怖が日本全体を包み込んでいます。 震災から1年が経ち、状況がある程度落ち着いてきたことで、震災発生直後には露呈していなかった、様々な問題が被災者を新たに苦しめています。倒壊したり、流されてしまった住宅のローンの返済問題、雇用契約の問題、原発事故による損害賠償請求や、生活費の問題、様々な手続きの問題など、法律で解決できる問題もあれば、法律解釈を超えた問題も発生しています。
このような状況の中、被災者や被害者の救済のために日本全国から、多くの法律家が現場へと向かいました。ここでは被災された方々のために立ち上がった二人の弁護士をご紹介します。

(※写真提供 児玉晃一弁護士)

何が「正義」なのかを判断し、結果に責任を持つ。それが弁護士なのだと思っています。

児玉晃一先生は東京から被災地へと向かわれました。児玉先生は46期司法修習のベテラン弁護士です。受験勉強時代、まだ伊藤塾はありませんでしたが、伊藤塾長の講義を受講された経験があります。憲法の、人権感覚の鋭い熱い講義が印象に残っているそうです。合格後は、主にひまわり基金や法テラス赴任のサポート、弁護士から裁判官任官希望者のサポートを行う東京パブリック法律事務所の開設メンバーとして、一貫して公益活動に従事されています。
「ものに縛られるのが大嫌いで、黙っていられない」という正義感、敷居の低い弁護士事務所を目指した東京パブリック法律事務所での経験が、現在の活動に大きく影響しているそうです。

福島に残り、被災地に向き合う。被災地の弁護士だからこそできる活動はこれからです。

福島の法テラス事務所に勤務する加畑貴義先生は、東京のご出身で伊藤塾には開塾直後の1期生として入塾されました。
司法試験合格後は、公益的な活動をしたいと考え法テラスへ就職。偶然にも赴任された福島の地で被災されました。「二度と経験できない、人生でも得難い経験になった」と話され、今も福島の地に残り仮設住宅や集会所への訪問を繰り返しています。
福島では震災の被害だけにとどまらず、原子力発電所の事故という、現在、そして将来に渡って続いていく恐怖に、地域を離れる方、残る方に住民が二分され、地域のコミュニティが分断されてしまったといいます。小さい子どものいる住民は避難を選ぶ方が多く、「このままでは福島は子どものいない県になり、未来の見えない県になってしまう」と懸念されています。

復興へ向けて…

被災地で活動するお二人の先生は、口をそろえて、「災害時だからといって特別なことを対応するのではなく、今までの弁護士活動で培ってきた法律の知識や経験をふまえて、それを状況に合わせて判断し行動することには変わりはありません。それによって被災された方が元気になり、生きる力が生まれればいいと思います」とおっしゃっていました。
震災から1年以上経過しましたが、復興まではまだ時間を要します。今後も被災地での弁護士の活動は続いていきます。

気仙沼に今なお残るタンカー。海から数百メートル離れているところに、そびえ立っていて、圧倒される。凄まじい津波の力に言葉もでない。(児玉弁護士

すべての人に法的サービスを ― 様々な地域で働く弁護士。

弁護士人口の地域格差

弁護士の偏在は、弁護士大増員時代といわれる現在にあっても、大きな問題のひとつです。日本弁護士連合会の統計によると2012年2月現在の弁護士登録者数は32,099人、そのうち東京の弁護士会登録者数は15,076人と、弁護士の約半数が東京都に集中していることがわかります。
司法、立法、行政の中心地が東京であり、民間企業においても本社機能を東京に配置するケースが多く、法律問題も集中しているため、弁護士の扱う業務が多いのは事実です。
しかし、法的なサービスを求めている方は全国に存在します。弁護士が近くにいないために、法的問題を専門家に相談することができず、トラブルから抜け出すことができない人も少なくありません。
かつて多数存在した(1993年当時、74カ所)、「法曹ゼロワン地域」(地域地方裁判所の支部単位で弁護士がゼロあるいは一人しかいない地域)は、日本弁護士連合会のひまわり基金法律事務所や、法テラス普及によって解消されたものの、地方における法的サービスの普及は未だ行き届いているとはいえません。
日弁連や日本司法支援センターでは、全ての市民に司法アクセスを十分に保障するための体制を確立すべく、様々な活動を行っています。

弁護士の地域分布(人口比較)

右図は、都道府県別の弁護士数と日本人の人口を比較するために作成した日本地図です。弁護士の分布について弁護士10人を1マスとして、日本地図が作成されています。東京・大阪などの弁護士人口集中地域は、占める面積が非常に大きく、地方都市の占める面積は小さいことがわかります。
※注 弁護士数データは、2011年3月末日現在。「日本弁護士連合会」ホームページより

日本弁護士連合会による司法過疎対策

1.弁護士過疎地域の法律相談センターの開設資金・運営資金の援助

周囲に法律家がいないため、誰に相談したらよいか困っている。そんなときの相談窓口として、全国各地の弁護士会が法律相談センターを設置しています。

2.ひまわり基金法律事務所の設置と運営の援助

ひまわり基金法律事務所は、弁護士過疎解消のために、日弁連・弁護士会・弁護士会連合会の支援を受けて開設・運営される法律事務所です。日弁連から開設・運営資金の援助が行われるほか、事務所ごとに「支援委員会」が設置され、所長弁護士の活動をサポートしています。また、公設事務所への赴任を希望する弁護士を養成する法律事務所に対して養成費用の援助も行っています。

3.偏在解消対策地区で開業する弁護士を養成する法律事務所への援助

2008年1月から「弁護士偏在解消のための経済的支援」を開始し、偏在解消対策地区(人口や事件数に比べて弁護士が不足している地域)で開業する弁護士等への支援も行っています。

日本司法支援センター(法テラス)による司法過疎対策

借金、離婚、相続、様々な法的トラブルを抱えてしまったとき、誰に相談すればいいのか、どんな解決方法があるのか、こうした問題解決への道案内をするのが「法テラス」の役目です。刑事・民事を問わず、全ての地域の市民が法的なトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を受けられるようにしようという構想のもと、総合法律支援法に基づき、2006年に設立された法務省所管の公的な法人が、日本司法支援センター(愛称:法テラス)です。問い合わせの内容に応じて、解決に役立つ法制度や地方公共団体、弁護士会、司法書士会、消費者団体などの関係機関の相談窓口を無料で案内しています(情報提供業務)。
また、経済的に余裕のない方が法的トラブルにあったときに、無料法律相談や必要に応じて弁護士・司法書士費用などの立替えを行っています(民事法律扶助業務)。
このほか、犯罪の被害にあわれた方などへの支援(犯罪被害者支援業務)等、総合法律支援法に定められた5つの業務を中心に、公益性の高いサービスを行っています(ほかに司法過疎対策業務、国選弁護等関連業務があります)。

社会正義の実現のために ― 権利を守るために奮闘する弁護士。

弁護士法第1条が示す通り、弁護士の使命は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」。弁護士は、依頼者個人を救済するにとどまらず、公益的活動により、社会そのものを変えていくことができます。
自己の信念や正義に従って社会の不条理を暴き、高度の法律知識、技術を武器に、より公平な社会の実現を求めていくことができるのです。弁護士による公益的活動は、国内外を含め様々なものがありますが、ここでは一例をご紹介します。

“一票の不平等”問題

「一票の不平等」とは、議員一人あたりに対する有権者の数が地域によって異なるため、人口の多い地区の有権者の一票の価値が、人口の少ない地区の有権者の一票の価値に比べて小さくなる状態を指します。
一票の価値が異なるということは、国民一人ひとりの政治に対する影響力が異なるということを意味します。これは、健全な民主主義の基盤が担保されていないということであり、憲法14条で保障されている国民の政治的価値における平等性をも損なう大問題です。
このような不平等をなくすために、「一人一票実現国民会議」が発足され、伊藤真塾長も発起人としてこの活動に参加しています。
2011年3月、最高裁が「一票の格差」に関し、現在の小選挙区の区割りを「違憲状態」と判断しましたが、この訴訟には多くの伊藤塾出身弁護士が関わっています。
 

守られるべき権利を守るために ―

B型肝炎訴訟

B型肝炎訴訟は、幼少期に受けた集団予防接種等の際に、注射器が連続使用されたことによってB型肝炎ウイルスに感染した方々が、国に対して損害賠償を求めている集団訴訟です。闘病のために仕事を失った方、亡くなった方、差別や偏見に苦しんでいる方など、その被害は甚大です。現在でも各地の被害者が、弁護団とともに訴訟を提起し、被害者の救済とウイルス性肝炎患者全員の治療体制の確立を求め闘い続けています。

原発事故による損害賠償請求訴訟

2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故は、いまだ収束の目処もつかず、国民に大きな不安をもたらしています。同発電所から飛散した放射性物質は、周辺地域の土壌を汚染し、作物にも深刻な被害を与えました。家畜を処分せざるを得なかった人、生まれ育った土地を奪われてしまった人、農作物を作れなくなってしまった人、事故のために仕事を失った人――― こうした人々のために、多くの弁護士が立ち上がっています。


「子供の頃に感じた“怒り”を胸に ― チチハル毒ガス訴訟、原発事故の被害者弁護団にも参加しています」……高城昌宏 先生

弁護士過疎地域解消のための取組み

司法試験制度改革によって、弁護士数は増加したものの、弁護士の都市部への偏在は解消されておらず、人口あたりの弁護士の数が少ない地域、いわゆる「弁護士過疎地域」は未だ多く存在します。こうした地域では、弁護士に相談できないために、トラブルで泣き寝入りする住民も少なくありません。
そこで2006年、総合法律支援法に基づき、司法過疎対策を目的の一つとして、日本司法支援センター(法テラス)が発足しました。法テラスは、どのような地域でも等しく法的サービスを受けることができるよう、司法過疎地域を中心に、所属弁護士が常駐する「地域事務所」を設置しています。

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