定年間近という年齢で法曹を目指した私でも、継続的に勉強することにより合格できました。
原 文之 さん(61歳)
◆出身大学/東京大学法学部卒業
◆受 講 講 座/ペースメーカー論文答練、全国公開模試、合格答案徹底分析講義 ※プロフィールは、2010年合格時点のものです。
はじめに
私が、法曹を目指そうと考えたのは、55歳の頃(2004年頃)でした。私は、それまで30年以上金融の世界に身をおいていました。金融は経済の血液であり社会的に有意義な仕事ではありますが、より直接的に社会の役に立つ仕事をしたいということから法律家の仕事に興味を持ちました。また、ちょうどその頃、司法制度改革により、社会人経験者が法曹を目指すことが奨励される雰囲気にあったこと、法科大学院を修了すれば大半の者が新司法試験に合格するといわれていたことなども私の背中を押した要因です。
法科大学院受験のため、適性試験対策をする必要があり、週末に受験指導校(伊藤塾ではありませんでした)で答練を受けることから始めました。仕事をやめて法科大学院に入学したのは、57歳の春のことでした。
私がとった勉強方法
基礎的な法知識・法理論の修得
基礎的な知識・理論の修得は、ほとんど100%法科大学院の授業と教科書・判例評釈などの復習によっていました。それまで、ビジネスの世界にいた私にとって、若い人たちと一緒に受ける法科大学院の授業は楽しくて仕方がありませんでした。基礎科目以外にも興味のある先端科目の授業を選択したり、授業で紹介された論文などをなるべくたくさん読むようにした結果、授業以外に勉強する時間はほとんどありませんでした。あくまで新司法試験に1回で合格することを目指すのであれば、科目数を絞って試験対策に時間をかけるべきなのでしょうが、その場合でも基礎的な知識・理論の修得はあくまでも法科大学院の授業と教科書を中心にすればよいと思います。
そんな私でも、2年生の冬くらいからは新司法試験のことが気になってはいました。しかし、夏休みのようにまとまった時間の取れる時期を別とすれば、本格的に受験勉強を始めたのは3年の最後の期末試験が終わってからでした。その結果、最初の試験では失敗してしまったわけですが、これは明らかに準備不足、特に論文式試験の準備が不足していたためだと思います。
短答式試験対策について
短答式試験は、解いた問題の数がストレートに結果に結びつく試験だと思います。私は、2年生の冬頃から、市販の過去問集に取りかかり、3年の夏以降は受験指導校の答練(在学中は在宅で、その後は通学で受けました。)を始めました。とにかく問題を解き、間違った問題(たまたま勘で当たった問題は間違えた問題に含めました。)は、もう一度解き、それでも間違えた問題はさらにもう一度解くという繰り返しの作業です。そのおかげで、短答式は1回目の試験でも合格することはできましたが順位2001番でしたから、短答式で稼いだとはいえない結果でした。その後も受験指導校の答練を次々に受け、必ず直後に答え合わせをして間違った問題にマークをして後日繰り返して解くということを重ねてゆきました。また、最後の半年くらいは覚えにくいポイントを自分のノートにまとめていきました。
単調な勉強であり、一度にそれほど長く続けることのできるものではありませんが、繰り返すことにより徐々に成果が出始め、今年の本番の短答は356位で通過することができました。
論文式試験対策について
私の昨年の論文式試験の結果は、素点の合計が268点で、総合評価の対象外という惨憺たるものでした。特に憲法がひどかったと思います。これは、論文式試験は、あくまでも論文「式」であり、「論文」ではなく、「答案」を書くことを期待されているということを理解していなかったためだと思います。
そこで、特に憲法については新たな視点を増やすような勉強は敢えてしないで、答案作成の練習を心がけました。
刑法・刑事訴訟法も同様です。それに対して民事系の科目については、理解を深め、広める勉強と、アウトプットの練習の両方をしました。
アウトプットについては、伊藤塾のペースメーカー論文答練が大変役に立ちました。参考答案や解説講義から、覚える必要のあること、答案作成上のヒントなどをノートにまとめ、時々読み返していました。憲法については、岡崎講師にカウンセリングをお願いし、適切なアドバイスを頂戴しました。そのおかげで今年は公法系で137.89点を取ることができました。そのほかに、各科目について「事例研究」(日本評論社)や「事例演習」(有斐閣)のシリーズを利用しました。演習本を利用する際には、自分で問題を解くのがベストですが、解説を読む前に少なくとも答案構成だけはするように心がけました。
直前期の対策について
自分で作成したノートの見直し、「判例百選」・「重要判例解説」「紛争類型別の要件事実」の見直しをしました。また、内田民法(Ⅰ~Ⅳ)をざっと読み返しました。
伊藤塾の受講スタイルとフォロー制度について
伊藤塾ではペースメーカー論文答練と全国公開模試を利用しました。ペースメーカー論文答練では、解説講義は原則としてライブで、論述検討講義は(時間差があるので)インターネットで受講しました。また、アウトプットの量を増やすことが必要だと考え、他の受験指導校の論文答練も一部受講しました。しかし、他の受験指導校の解説講義は内容が乏しく、時間の無駄だと考えほとんど受講しませんでした。
法科大学院の受験対策、伊藤塾の活用
法科大学院では、受験対策につながるような授業はありませんでした。しかし、受験対策も各科目の基礎が理解できていなければ始まらないので、授業は大切だと思います。
ところで、「出題の趣旨」などを読むと、受験生の「正確な理解」を確認するのが試験の目的の一つであるとの記述が目に付きますが、正確な理解をしていることを示すためには、それを記憶してアウトプットする必要があります。したがって、新司法試験においても、基本的知識の「記憶」の必要性は明らかです。残念ながら法科大学院の授業だけでは記憶の定着には不十分です。
また、学生が集まって私的に行う勉強会は論文式試験におけるアウトプットの練習には役に立ちますが、指導者がいないため悪い癖があっても気がつかないという危険があります。したがって、多くの受験生にとって、受験指導校の答練は論文式試験対策のために必須なのではないかと思います。もっとも、添削者は機械的な採点をせざるを得ないので、添削の結果に一喜一憂する必要はないと思います。むしろ解説講義の内容の充実した答練を選ぶべきです。
学習スケジュールの管理について
私は、カレンダーを作り、受験指導校に行く日、受験指導校の答練の結果をレビューする日などを記載し、その他の日には勉強する予定の科目を書きました。勉強する科目に偏りが生じないようにするために作った予定表なので、具体的に何をするかまでは書き込みませんでしたし、予定を無視して他の学習をすることもありました。
合格後に必要なこと
初心を忘れずに、公正と正義の実現を目指すことを少なくとも頭の片隅に常に置くべきだと思います。また、実務については、修習やその後の経験により身につくと思いますので、理論面についても一生涯勉強するという姿勢が大切だと思います。
最後に
私は、定年になろうかという年齢で法曹を目指したわけで、特殊なケースだと思います。しかし、記憶力の衰えた私のような者でも、継続的に勉強することにより新司法試験に合格することができるという事実は、社会人経験者のみならず、すべての受験生を勇気づけるものではないかと期待します。
私は、しばらくは再び企業で仕事をし、その後に司法修習を受け、投資者保護及び投資紛争の解決に資するような仕事をしたいと考えています。またそれによって、法曹有資格者の活躍の場をより広くすることに貢献したいと思います。 (2010年11月・記)