2021.12.01

第317回 コロナと世界

オミクロン株が南アフリカで見つかり、イギリスでは市中感染も懸念されています。日本でも感染者が見つかりました。アフリカ、ヨーロッパだけでなく、アジアにも広がってきているようです。この変異株には、本来ギリシャ文字の13番目「ニュー」や14番目「クサイ」が使われるはずでしたが、人名などへの配慮から、15番目「オミクロン」の名がついています。それでも、これだけ変異を繰り返しているのかと改めて驚かされます。ちなみに最後のオメガまで行ってしまったらどのように名前をつけるのか気になるところです。

それにしても、最近の世界の急激な感染拡大は驚きです。欧州ではワクチン2回摂取を終えた人が多く、コロナ前の生活に戻りかけていただけにその影響も甚大です。オーストリアでは外出制限、店舗営業禁止など欧州でこの秋初めてロックダウンとなりました。ドイツでも準備していたクリスマスマーケットが突如中止となり、この時期の風物詩を2年ぶりに楽しみにしていた人々や業者から夢を奪いました。韓国では過去最高の感染者数、重傷者数を記録しています。

東京ではようやく飲食店の人数制限緩和など経済活動が活発になり始めた矢先のことですが、年末年始にかけてイベント、規制、会食時の制限など再び覚悟しておいた方がいいかもしれません。第6波については従来から警戒されていましたが、果たしてこれまでの経験は活かされていたのでしょうか。今回、水際対策は迅速に行われているようですが、既に手遅れになっていないことを願うばかりです。ちなみに米軍基地に離発着する軍用機を使っての入国は当然のことながら、日本側ではコントロールできません。独立主権国家と言い難い現状がこうした場面で顕在化する度に残念な気持ちになります。

先日、日弁連主催で「コロナと緊急事態条項」というシンポジウムを行いました。東大の石川健治教授に基調講演をお願いし、その後の、石川教授、世田谷区長の保坂展人さん、医師で作家の夏川草介さん、災害対策のエキスパートである弁護士の永井幸寿さんの4人によるパネルディスカッションでは私がコーディネーターを務めました。地方自治の現場、医療の現場、災害対策の現場からの発言はどれも核心を突く言葉ばかりで、それに対する石川教授のコメントも鋭く、とても勉強になりました。

それにしても、コロナと闘ってきた第一線の医師が、「政治家はかけ声ばかりで、政治に救われた感覚はない」と語っていたことが印象的でした。世田谷区長の保坂さん(伊藤塾で明日の法律家講座270回でも講演してもらっています。)は、客観的科学的データに基づく対策を全くしてこなかった政府にPCR検査拡大を説得するのに相当な苦労をされたようです。私も、たとえ検査体制のパンクという理由があったにせよ、なぜ政府は頑なに検査を拡大しようとしないのか疑問でしたが、ようやく謎が解けました。

今やPCR検査のオートメーション化は世界の常識なのですが、厚生労働省はそれを知らなかったそうです。そもそも日本の感染症対策は、歴史的に旧日本軍との関係が深い国立感染症研究所が中心となっています。そこでは検査を一つ一つ手で行う方法が最善であり大規模に検査を行うという発想が全くなかったため大量検査にブレーキをかけていました。世田谷区では高齢者施設などを対象に延べ4万人ほど検査をしたそうですが、大手の検査会社に検体を持って行けばPCR検査の数時間後には変異株の検査も行えるそうです。先日、政府も今後の感染拡大時には無症状でも無料でPCR検査を行う方針を発表しましたが、世田谷方式がやっと全国レベルになったようです。

まさに「知識は現場にある」のであり、こうした現場の叡智によって本当に効果的な対策を取ることができるのだと実感しました。アベノマスク、全国一斉休校のような愚策を生み出した中央への権力の集中をさらに進めることになる憲法上の緊急事態条項創設など愚の骨頂であることがよくわかります。

ところが、自民党の茂木幹事長は、衆議院選挙でいわゆる改憲勢力が議席を伸ばしたことを受けて、「新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている」として改憲論議を加速し、緊急時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設を優先的に目指す方針を示したそうです。現場の感覚とかけ離れたあまりに筋違いの言説に振り回されないようにしなければならないと改めて強く感じたシンポジウムでした。

日本では2回摂取した人の割合は70%を超えていて3回目という話が進んでいますが、アフリカのワクチン接種率は6.6%ほどだそうで、世界からみるとまだまだのようです。そうしたところからさらに変異したウイルスが入ってくるのですから、世界はつながっていると改めて実感します。先進国だけ3回目のブースター接種などと言っていても、いずれしっぺ返しが来そうな気配です。島国である日本には水際対策が効果的なのでしょうが、外国人、日本人と国籍で扱いを区別するのはどうなのでしょうか。もっと大きく世界の視点で対策を考えないと、かえって分断を生まないか心配です。経済は世界とつながっているのですから、このままでは抜本的な解決にならないことは明らかです。

人間はこれまで何度もウイルスの遺伝子の変異、すなわちコピーミスに苦しめられてきました。そういえば癌も遺伝子の変異から起こるものです。人間の身体の60兆とも言われる細胞は、新たに細胞分裂で生まれるものもあれば、同時に死んでいく細胞もあり常に入れ替わっています。私が20代だったころの細胞は全く残っていないでしょう。同じ伊藤真でも肉体としては別の細胞からできた別人だといえそうですが、新しい細胞に入れ替わるときに遺伝子をうまく完全コピーするから伊藤真でいられるということです。このコピーが行われる過程で生じたミスががん細胞を作り出します。がん細胞も変異ウイルスも同じ遺伝子のコピーミスですが、実は偶然のコピーミスによって生物は進化してきたともいえますから、たとえウイルスであっても、こうした遺伝子の変異は常にあり得ることなのだと受け入れた方がいいような気がします。

現状を受け入れながら、いかに幸せに時を過ごすかが、いろいろな意味で重要な時代になっています。地球との共存、環境変化との共存、多様な信仰や信条との共存、各自が抱える病気との共存、邪悪な心との共存、そしていつかは死ぬ弱い自分との共存など、現状をうまく受け入れつつ生き延びる術の工夫が自分の幸せ度(クオリティオブライフ)を上げるためには必要な気がします。皆さんには合格後の未来があるのですから、精一杯今を生きてください。