タグ:11月

2025年

第364回 スパイ防止法と立憲主義

自民党と日本維新の会による新しい連立政権が発足しました。その政策合意書の中には、「インテリジェンス政策」という新しい言葉が記されています。国家情報局の設立や長官ポストの新設、さらには対外情報庁の創設など、日本のインテリジェンス体制を抜本的に強化しようという構想が掲げられています。加えて、スパイ防止法の制定や、情報要員の養成機関の設置も検討項目として挙げられています。

インテリジェンス活動は大きく「諜報(情報収集)」「防諜(情報防衛)」「...

2025.11.01

2024年

第352回 法律家と教養

 皆さんは音楽を聴いたり、絵画を見たりすることは好きですか。小説や哲学書、歴史書を読んだりしますか。受験勉強や仕事が忙しくてそんな余裕はないという声が聞こえてきそうです。まずは目の前の試験の準備が大切であることはいうまでもありません。ですが、合格後を考えるという観点でみたときに、法律とは一見無関係に見えるこうした文化、芸術に触れて、一筋縄ではいかない人間の営みや人間存在そのものについて思いを馳せたり、創造の世界で感情を揺さぶられたり、自然に感性を刺激されることは重要な意味があると考えています。

 歴史を知り現在と未来を見る目を養ったり、世界の情報を得て日本の常識を...

2024.11.01

2023年

第340回 意見の対立

 40年以上前に司法試験の受験指導を始めましたが、そのころは話し方が生意気だとずいぶんと批判されたものです。テキパキ話せば「早すぎる」と苦情を言われ、ゆっくりと話せば逆に「眠くなる」と言われながらも、少しずつ自分の講義スタイルを作ってきました。今でこそタイパが重要ということで1.5倍や2倍速で講義を聴く受講生も増えてきましたが、当時から少し意識してテンポ良く話すようにしていました。少し早めの話を頑張って聴いてもらった方が受講生の脳への刺激と訓練になると考えたからです。意識して早く話し、その代わりに語尾をはっきり発音したり、重要なことを繰り返すなどの工夫をして、カセットテープ(当時)を早回しで聴いても理解してもらえるような話し方をしてきました。

  言葉遣いにも随分と気を遣ってきました。ただ塾立ち上げの頃、刑法の講...

2023.11.01

2022年

第328回 言葉と民主主義

不登校YouTuberのゆたぼんさん(13歳)が原爆ドーム訪問の際の動画で「1945年8月6日にアメリカが日本の広島県と長崎県に原爆を落とした」と発言したところ、ネット上で「長崎は8月9日だろ」などと批判されていることに対して、脳科学者の茂木健一郎氏が「ゆたぼんにレベルが低い、義務教育受けろ、と言っている人たちの方がレベルが低い」とツイッターに投稿しました。

そして、「中学入試の学力ごときの知識やスキルが学力だと思っている」「そ...

2022.11.01

2021年

第316回 多様な人材

衆議院総選挙が終わりました。翌日の新聞には、「自民伸びず過半数は維持」(朝日新聞)、「立・共協力に温度差」(読売新聞)、「立憲伸びず維新躍進」(毎日新聞)などの見出しが躍っていました。個人的には安倍・菅政権下での非立憲的政治が変わるのか、改憲発議に向けた議論が活発化するのかなど気になることも多いのですが、何よりも投票に行かなかった人達の意識が気になります。9月に行われたドイツの総選挙の投票率は、大洪水に見舞われたため気候変動問題が大きな選挙争点になり76.6%に達しました。日本でもコロナ対策や災害など身近な争点があったはずなのですが、今回の投票率は約56%で戦後3番目に低かったそうです。

「何も変わらないから投票に行かない」という声を聞くことがあります。選挙...

2021.11.01

2020年

第304回 続ける力

先月、一人一票裁判の最高裁弁論をしてきました。15人の最高裁判事を前に言いたいことを言うこと自体は充実感があるのですが、果たして伝わっているのか、実はすでに結論は決まっている上での儀式にすぎないのではないかなどと思うと空しくもなります。10年も一人一票を実現するための裁判を続けてきて高裁、最高裁を合わせると100以上の判決を得てきましたが、その中で違憲無効判決はたった2つです。最高裁判例も3歩進んで2歩下がる感じでなかなか人口比例選挙になっていきません。

それでも確実に一人一票に近づいていますし、最近は憲法学者の間でも現状を...

2020.11.02

2019年

第291回 裁判官への期待

 先月末に立て続けにいくつかの裁判と判決がありました。裁判の1つは、全国で25の裁判を展開している安保法制違憲訴訟において、東京で集団的自衛権の行使や後方支援活動の差止めを求める訴訟の最終弁論です。翌31日は、同じく横浜で行われた安保訴訟において証人尋問を行いました。そして一人一票実現訴訟のいくつかの判決です。7月に提訴された参議院選挙無効訴訟ですが、2つの違憲状態判決が続いた後、合憲判決ばかりで残念です。たった0・34票分の投票価値しか保障されていなくても許されてしまう国が民主主義国家といえるのか本当に疑問です。

 この問題についてはこれまでも何度か書いていますので、今回は安保法制違...

2019.11.05

2018年

第279回 裁判官の独立

憲法では司法権の独立に関して、外部からの独立だけでなく、司法内部における個々の裁判官の独立も重要なことを学びます。「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定する憲法76条3項が実効性を持つためには、裁判官が司法行政の統制からも自由であることが必要となります。報酬、任地、昇進などにより統制されるようでは、裁判官が自らの良心に従って独立して裁判などできないからです。もちろん、ここの統制には懲戒処分も含まれます。不当な処分を恐れて裁判官が萎縮するようでは、裁判官の独立、司法権の独立そして司法への国民の信頼は失われてしまうからです。司法権という権力の正統性の根拠は国民の信頼にあります。裁判結果が正しいかどうか誰にもわからないからこそ、公正な裁判がなされるはずだという信頼が裁判所の存立基盤なのです。

2018年10月17日、最高裁大法廷は東京高裁判事岡口基一裁判官に対す...

2018.11.01

2017年

第267回 多様性

先月は、雨のせいで天然パーマの髪がクルクルになってしまいました。これが私の自然の姿です。誰にでも、その人のありのままの姿があります。内面はもちろん、外形も含めて多様性があるのが個人です。無限の要素から成り立つ個性を尊重し、それを伸ばすことが、教育の本質だと思っているのですが、先日、信じられない報道に接しました。

大阪府立高校の女性生徒が生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう強制されたこ...

2017.11.01

2016年

第255回 おまえがガンバれよ

7月10日参議院選挙の無効を求める1人1票実現訴訟の高裁判決が全国で続いています。少なくとも最高裁大法廷判決の趣旨にそった判決が出ると思っていたものですから、東京高裁での合憲判決には驚きました。裁判所の判断のところで、憲法の条文が一切出てこないものでした。正確には、46条という参議院の任期に関する条文だけ引用されていましたが、私たちは任期など争っていませんからほとんど意味のない引用です。憲法の条文解釈は全くなされてない判決でした。国会の判断を追認するだけのものであり、塾生の皆さんに条文解釈が重要だと言っている立場からはとても評価できるような代物ではありませんでした。

7年間ほどこの訴訟を続けていますが、この間、最高裁判例で積み重ねられて...

2016.11.01

2015年

第243回 多数決と少数意見

11月1日の東京新聞に私の憲法絵本「あなたこそたからもの」の掃除当番を多数決で決めるエピソードが紹介されました。人権は多数決によっても奪えない価値であり、それを憲法に書いておくという説明まで紹介してもらいました。これまでも人権や立憲主義の重要性を教えるときにこのように多数決の危険性を指摘してきました。

ナチスのような、人類の多数決による悲劇の歴史を知っているためか、法律家...

2015.11.03

2014年

第231回 不条理

世の中は多くの不条理に満ちています。閣議決定による憲法解釈の変更がなされ、国会承認もなしに日米防衛協力ガイドラインが策定されようとしています。これにより地球規模の日米軍事同盟関係が強固に構築されていく。憲法による弱者の保護など絵空事のような社会保障政策。個人の尊重とはほど遠いヘイトクライム、ネットによる名誉毀損やいやがらせ。しっかりした避難計画すらない中での原発再稼働。火山の噴火による突然の命の断絶。愛する人との一方的な別れ。そもそも私たち人間は、生まれ落ちた瞬間から死に向かって生き続けているという不条理が人生だと言ってしまえばそれまでですが、それにしても不条理が多い。

天災や個人に降りかかる不条理は受け入れるしかないとしても、人災ともいえ...

2014.11.03

2013年

第219回 合格

各種試験の合格者の報告がぞくぞく入ってきます。司法試験では予備試験ルートからの合格者120人のうち、伊藤塾の有料講座を受講された塾生が96人もいました。司法試験業界では、単にテキストを買っただけで合格実績にカウントしてしまうところがあるようですから、こんな数字を出しても信用してもらえないかもしれませんが、この数字には私自身も驚きました。塾生の皆さんは本当によく頑張ってくれました。

世間ではまだまだ予備試験が認知されておらず、法曹志望者にとって隠れたチ...

2013.11.06

2012年

第207回 憤り

「住む場所によって『あなたは0.2人前の価値しかない』となれば、ふざけるなと思いませんか」1人1票参議院判決の記者会見で思わず声を大きくしてしまった私の言葉が朝日新聞天声人語で10月の言葉として紹介されました。そこには「沖縄に関して、日本の民主主義は機能しないのです」という作家の目取真俊さんの言葉も沖縄の深い憤りを伝えるものとして取り上げられています。

何かに憤る気持ちは大切です。特に法律家や行政官にとって、不条理・理不尽...

2012.11.02

2011年

第195回 貧困と法律家

1%の金持ちが99%の富を握っているとして「ウォール街を占拠せよ!」という合い言葉でアメリカから始まったアクションが世界中に拡大していきました。10月15日には日本を含む世界各地(約80カ国・950以上の都市)の「反格差デモ」に広がります。

ノーベル経済学賞受賞のクルーグマン教授は、ウォール街の人々は「複雑な金...

2011.11.04