理系から法曹へ。好奇心の先で見つけた「一番やりたいこと」
Q.自己紹介をお願いいたします。
弁護士法人 淀屋橋・山上合同に所属している、中野雅司です。
Q.実務家(法律家)を志した理由は何でしょうか?
高校までは理系だったので、法曹を目指して法学部に入ったわけではなく、当初は民間企業への就職を考えており、大学1回生の4月からは民間企業での長期インターンなどをして過ごしていました。
そんなときに、伊藤真先生が大学へ講演に来られ、お話に魅せられて、未知だった法曹という選択肢が自分の中で急浮上しました。
とはいえ、すぐに決め切ることはできず、オーストラリアや台湾へ留学に行ったり、色々なアルバイトやサークルを掛け持ちしたりとゆっくり過ごしました。
そんな中で様々な人と出会い、相対的に好奇心旺盛なタイプであり、興味関心が移ろいやすいタイプであることを自覚しました。
弁護士であれば、その移ろいゆく関心に応じて、様々な法分野や領域について探求し、ワクワクし続けられるのではないかと思いました。
また、ゆっくり過ごしていた時期にも、唯一大学1回生の頃からずっと継続して力を入れられたことが、法律相談活動でした。
これは、法律関係のトラブルで悩んでいる地域の方々に、大学までお越しいただいて相談に乗らせていただくというものです。学生なりにそれぞれ専門分野を作って、本気で勉強して当日に臨んで回答させていただいていました。来ていただいた方に「ずっと1人で悩んでたけど今日来てみて良かったよ、今後の見通しが立って一気に肩の荷が下りたよ」と言っていただくことがあり、「ああ、自分が1番やりたいことはこれだ」と思って法曹を目指すようになりました。
歴史はあっても、キャリアは自由。挑戦を後押しする大阪四大の環境
Q.どうして今の事務所を選びましたか?
AI技術が進歩した世界では、「広く浅く」では淘汰されかねないのではないかと考え、スペシャリストとして専門性を極めようと思っていた時期もありました。
そのため、東京四大事務所やブティック法律事務所なども調べていました。伊藤塾や予備試験のおかげで、就職先の選択肢を広げることができたのは大変ありがたかったです。
一方で、事務所説明会やクラークなどを通じて様々な先生のお話を伺う中で、「最初は先端的な知財分野をやりたくて入所したけれど、技術の細かい部分、この部品が何ミリでどうなっているか、といった話に興味を持てず、労働分野に転向した」という話も聞きました。
そうした経験から、実際に仕事をしてみなければ分からないことが多いのではないかと感じるようになりました。
弁護士人生は長く、弊所の87歳の山上は現役で働いています。私自身も、これから60年ほど働くかもしれません。
そう考えると、最初の2~3年は、自分にとってどのような分野が楽しいのかを知るための時間にしてもよいのではないかと思いました。
「好き」と「得意」は必ずしも同じではありません。自分にはどのような分野の仕事が合っているのかを模索することは、長い弁護士人生全体の充実度を高めるための投資として、十分に価値があると思っています。
AIとの関係で補足すると、若手のうちから仕事の領域を絞りすぎることには、リスクもあるのではないかと考えています。現在の企業法務の中で大きな割合を占めているDD(デューデリジェンス)や不正調査などは、AIによって代替される可能性が高い分野です。入所後、そうした分野だけを黙々と担当していると、ある日その分野のAIサービスが広く普及したタイミングで、仕事が一気に減ってしまうことも考えられます。もちろん、ストラクチャリングのレベルから関与している人まで仕事を失うという意味ではありません。
AI時代には「問いを立てる力が重要になる」とよく言われますが、それは弁護士業界にも当てはまるのではないかと思います。確かに、知識量だけでAIに勝つことが難しくなる時代は、残念ながら来ると思います。
但し、複数の分野を経験しているからこそ、「これとこれも気にかけておかなければいけないのではないか」といった発想を出せることには、これからも付加価値が残るのではないかと思っています。
Q.事務所の魅力を教えてください。
日本で初めて弁護士法人化した歴史ある事務所であり、古くからお付き合いのある企業の大きな案件がある一方で、未開拓の分野への挑戦も自由にでき、それを応援してもらいやすい環境があります。
例えば、まだ「スタートアップ」という言葉すら一般的ではなかった時期に、スタートアップ的なベンチャー企業へ出向し、上場を経験してから事務所へ戻り、社外役員を数多く経験した上で別のスタートアップでスイングバイIPOを経験した弁護士もいます。
通常であれば、当時、そのようなベンチャーへの出向を快く思わない事務所も多かったのではないかと思います。事務所の主要な顧客との関係維持を目的とした出向が多い中で、前例が無い挑戦を応援したからこそ、唯一無二のキャリアを歩んだ弁護士が生まれているのだと思います。
留学についても、一般的なアメリカ留学だけではありません。税法の本場であるライデン(オランダ)で学び、タックスロイヤーとして活躍している弁護士や、シンガポールで日本人として2人目となる弁護士資格を取得した者もいます。その他に中国や、香港、韓国、インドネシア、イギリス、ドイツなど、様々な国での留学経験を持つ弁護士がいます。
このように、自分の興味や志向に合わせてキャリアをデザインできる自由度の高さは、大きな魅力だと思います。
AI法務を専門に、手掛ける世界中の「あらゆる」実務
Q.これまで、具体的にどのような実務に取り組みましたか?
事務所の理念は、「世界中の人々のあらゆるニーズにこたえる」というものです。
そして実際に、この理念のとおり「世界中の人々のあらゆる」案件に携わらせていただいています。
就職活動をしていた頃にこの理念を聞いたときは、正直、あまりピンと来ていませんでした。しかし、実際に入所してみると、インドやスイスの会社とのAI案件、中国の水素燃料スタートアップの買収案件、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの諸外国におけるAI規制のリサーチなど、「世界中の」案件を担当させていただいています。
M&Aだけを見ても、対象となる業種はエネルギー、スポーツ、IT、食品、物流、住宅などさまざまです。
規模についても、所内の弁護士10人と海外の弁護士がチームを組んで進める案件から、弁護士2人だけで全体像を把握しながら進める案件まであります。本当に「あらゆる」案件を経験できていると感じます。
その他にも、LBO、ファンド組成、エクイティファイナンス、不正調査、特許権侵害訴訟、法人清算など、企業向けの案件を幅広く経験しています。また遺産分割、遺言、成年後見、債権回収、保全、交通事故、刑事事件など、個人向けの案件も幅広く経験しています。
特にAI案件の割合は多く、開発をめぐる紛争、国をまたぐライセンス契約や共同開発契約、汎用型AIが持っていないデータを用いた新規事業のPoC、AIポリシーの策定、自社AIの開発に際しての英文利用規約のチェック、「企業でこのようなAIの使い方をしたいが、適法なのか」といった相談など、さまざまな案件に対応しています。
ここまでは事務所事件についてですが、個人事件としてもAIスタートアップ十数社の顧問を務めています。
事務所事件と個人事件の稼働時間の比率は、何となく98:2くらいにしたいと考えており、既存の顧問先への対応を優先する観点から、お断りしてしまった顧問依頼も多くあります。
それでも、個人として興味のある分野に取り組むことについて、特に制限なく認めてもらえる環境はありがたいと感じています。
入所後を振り返ると、1年目上半期には、IVS2025(67か国から12,000人が参加した日本最大級のスタートアップカンファレンス)のAIアンバサダーや、東京都主催のGEMStartup TOKYO(民間企業の知財等を活用したカーブアウトによる起業や新規事業の立ち上げを支援するプログラム)のメンターに選任していただきました。
また、GVA TECH主催の「生成AI実践コミュニティ」(AI活用に積極的な弁護士約1,000人が参加する団体)で登壇したり、BAMBOO INCUBATOR主催の生成AI勉強会で「生成AI活用時の機密情報の取扱いを考える」というテーマで講演したりする機会にも恵まれました。
1年目下半期には、弁護士知財ネットAIチームの事務局に選んでいただいたほか、NHKラジオで「AIと法」についてお話しさせていただいたり、「知財ぷりずむ」に「AIによるイラスト・キャラクター生成の著作権法上の問題点」という論文を掲載していただいたりしました。
2年目上半期には、先程の論文と異なり共著ですが、「はじめての知財法務Q&A-基礎知識から契約・出願・侵害対応まで-」、「税制適格ストックオプションの教科書」、「士業の生成AI入門」の執筆にも携わりました。また龍谷大学で「AIガバナンス概論」という授業も担当致しました。
弁護士資格から始まる「掛け算」。専門性を重ね、価値をつくる
Q.実務の魅力や遣り甲斐、苦悩を教えてください。
魅力は、人生や会社の命運がかかった案件も多く、1件1件にドラマがあることです。遣り甲斐は、困っている人の力になれること、そして、困っている人の力になる事業を支えられることです。
一方で、苦悩もあります。AIへ聞けば答えが分かるような簡単な問題はほとんどありません。そのため、とにかく悩んで、調べて、また悩んでということを繰り返してしまい、なかなか迅速に対応しきれないことがあります。
「目指せる」をつくる。伊藤塾と予備試験が広げた選択肢
Q.伊藤塾で、どのような学びや気付きを得ましたか?
自主ゼミを一緒にする仲間ができたことです。教材が同じなので、「●ページの▲に書いている内容について」といった形でコミュニケーションがスムーズに取れることも大きかったです。
また予備試験の重要性を知り、目指すことができたことで、事務所選びの幅が広がりました。その結果、どのようなキャリアでも築いていける可能性を残し続けることができたと思っています。
伊藤塾のキャリア説明会でお話をされていた事務所に魅力を感じ、法科大学院のエクスターンシップでも第1希望として選び、最終的にその事務所に就職することができました。
Q.伊藤塾の最大の魅力や価値は何だと思いますか?
最大規模の司法試験受験指導校として、長い歴史があることだと思います。
司法試験では、みんなができるところを外さないことが最も重要です。そして、どこまでを確実に押さえるべきなのか、そのラインを判断するための確かなデータがあることは大きな価値だと思います。
また、これまで輩出してきた先輩法曹のバラエティも豊富です。ゼミのた清水先生には、今でも大変お世話になっています。
志に実力をつけた先に。AI分野で見つけた自分だけの道
Q.法律家を志す方へメッセージをお願いいたします。
AIは弁護士登録できません。DDや危機管理など、一部の分野がAIに代替されることはあると思います。しかし、核融合やブレインテックなど、新しい産業が生まれ、時代が変化する限り、新しい法律問題も発生し続けます。そして、AIだけでは解決できない問題も必ず残ります。
AIは確率・統計的な処理や、過去のデータが蓄積されている分野における類型的な判断を得意としているからです。これからも、弁護士だからこそ担える、面白く、社会にとって重要な仕事は残り続けると思っています。
Q.法律を学ぶ意義はどんな点にあると思いますか? (得られること、社会へどう役立つか。)
リーガルマインドが身につくことです。日本には5,000以上の法令があり、初めて直面する法律問題にぶつかることは日常茶飯事です。それでも、法律を学んでいると、「何となくこの辺りに、こういう規制がありそうだ」という感覚を持てるようになります。
これからの社会では、ほぼ間違いなくガバナンスモデルの変更が求められると思っています。アジャイルガバナンスが実装された社会の中では、リーガルマインドが持つ価値は、むしろ高まっていくのではないかと感じています。
Q.志と実力の関係を、どのように考えますか?
あのとき伊藤真先生が大学へ来てくださっていなかったら、法曹という選択肢を考えていなかったような気がします。
その世界線では、興味のあるIT企業に就職して、今頃はAI関係の仕事をしていたのではないかと思います。それはそれで良い人生だったと思いますが、本気で勉強して司法試験に合格したことで、今、AIの分野で自分にしかできない関わり方ができているという自負があります。
「その志に、実力を。」という言葉どおりの実力をつける機会を与えてくださった伊藤塾には、感謝しています。
好きだから続く。のめり込める分野で、唯一無二の弁護士へ
Q.どのような弁護士像が理想ですか?
学生時代、経営者の方とお話しする際によくいただいた言葉があります。
「弁護士に新規事業の相談をしても、『それは○○法に違反しているからダメですね』と回答されるだけで、『では、どういうスキームなら適法なのか』というところまで一緒になって考えてくれない」というものです。
私は、そうした新しい事業こそ、まだ解決されていない社会課題に取り組む、意義深いものだと思っています。そして何より、そうした領域が一番ワクワクする分野だと感じています。
VCでのインターンや学生起業に挑戦してきたのも、こうした思いがあったからです。
弁護士としても、単にブレーキをかけるだけではなく、ビジネスサイドと同じ熱量で、適切なアクセルの踏み方を一緒になって考え抜いていく、相方のような存在になりたいと思っています。
Q.今後の展望を教えてください。
インターン生から「忙しい中で、どうやってAIを勉強しているのですか」と聞かれたことで、自分がAIのキャッチアップを「勉強」だと思っていないことに気付きました。
勉強だと思わないくらいのめり込める分野に、弁護士として関わっていきたいです。そして、その分野で自分ならではの価値を生み出し、唯一無二の価値を社会に届けられるようになりたいと思っています。
まとめ
AI法務を専門に、法律だけでなく起業やVCなど幅広い経験を掛け合わせながら、自分ならではの強みを築いています。
AI時代に生まれる新たな法律問題に向き合い、ビジネスの「相方」として新しい挑戦を支える。専門性と経験を掛け合わせ、唯一無二の価値を社会に届けようとしています。