2025.05.01

第358回 伊藤塾創立30周年

2025年5月3日で伊藤塾創立30周年を迎えます。憲法記念日に合わせて1995年に会社を設立し「伊藤真の司法試験塾」として真の法律家の育成を始めました。今回は少しだけ伊藤塾の歩みを振り返ってみることにします。

当時の受験生は、独学で基本書を読み込んだ後に中央大学真法会の答練を受けるか、司法試験3大予備校と言われていたLEC東京リーガルマインド、早稲田司法試験セミナー、辰巳法律研究所などを利用していました。そこに弱小後発組として参入するのですから、設立当初から既存の他校との差別化は不可欠でした。


「やればできる、必ずできる」「合格後を考える」、「ゴールからの発想(逆算思考)」といった基本理念はもちろん、塾という名称も、「人づくり」の場であり、決して他校と同じ予備校ではないという教育機関としての意思表示でした。予備校という呼称には、本来の教育機関が存在しそのための予備にすぎない、脇役という印象がつきまといます。私たちは大学における法学教育の予備ではない、この塾こそが法曹養成の本流なのだという自負から、今でも自分たちを予備校とは呼んでいません。受験指導校と自称しています。大学は学問研究の場であり、法曹など実務法律家の養成は、この塾で行うんだという気概で塾を始めたのです。法科大学院が始まったのが2004年ですが、塾生の募集を開始した当時のパンフレットの表紙に、「伊藤真の司法試験塾 ITO MAKOTO LAW SCHOOL」と表記してあります。まだ、日本に法科大学院(Law School)の影も形もなかったときから、自分たちが法曹養成を担っていくロースクールなのだという強い決意が込められていました。

このパンフレットの冒頭あいさつは以下のとおりです。
「受験生が自分の位置づけを発見し確認できる塾をつくりました。
自分は何のために司法試験に挑戦しているのか。 
このままでいいのか・・・ 
いろいろ迷うこともあると思います。
 私は皆さんが「自分はこう生きたい」という明確なイメージを、鮮明に持てるように手助けをしていきたいと思っています。人は意識によって変わります。だから、正しい意識をもたなければなりません。 
混迷する世界と日本の情勢の中で、地球人としてやらなければいけないことは何か。
 今、自分がこの地球に生まれた一個の人間として為さなければならないことは何か。 
それを一緒に考えていきたいのです。
物質万能の社会が終焉を迎えることは目に見えています。 
新しい価値観にも対応できる柔軟な、しかも確固とした自分の考えをもった法律家になっていってほしいと思っています。 
理念があり、原理原則を持ち、応用できる柔軟性もあり、行動でき、さらに自らを反省できる謙虚さを持った地球人になってほしいと願っています。 
そんなヤツいるわけがないなどと言わないでほしいのです。理想はあくまでも高く。そして足下はしっかりと見つめながら進むことが大切だと考えています。目標さえしっかりしていれば、日々の一歩一歩がいつかは必ず、頂上へつながると信じています。 
一緒に大きな夢を語りましょう………………… 
人は自分の思い描いた夢以上の人間にはなれません。 
いくら青臭いヤツだと言われようが私はそう確信しています。
1995.6 塾長 伊藤 真」

30年前から相変わらず青臭いことを言っていたなあと自分でも半ばあきれるのですが、志を見つけ、その志を実現するために伊藤塾を使ってほしいという思いは今も変わりません。当時は弁護士が会社の代表取締役になることには相当厳しい制限があったので、社長ではなく塾長として自分の名前を前面に出して会社を立ち上げました。その後、弁護士登録を抹消して退路を断って自分を追い込み、法曹養成に専念することにします。登録抹消を親に知らせたときには「せっかく合格したのに」と、とても残念がられましたが、もし再登録が認められないときは再度受験して合格すればいいやと考えていました。それで落ちたら相当かっこ悪いですが、幸い2006年に無条件で再登録が認められ、その後様々な憲法訴訟に携わることができています。

私が司法試験の受験指導を始めた1981年から論証パターン(論点ブロック)を活用した学習、フローチャートによる理解、法的三段論法や原則・例外思考、論文過去問学習法などを開発し広めてきましたが、伊藤塾を立ち上げてからは、自宅でも教室で受講するのと同じように映像教材で学習できる在宅学習システムを考案しました。しかも当時、他校では通学受講の3倍ほどの受講料をとっていたビデオ教材を通学生と同じ金額で提供する仕組みを作り、社会人受験生や全国各地の受験生の便宜を図りました。

法律学習の経験がない多様な人材に法曹を目指してほしいという思いから、他学部出身者や社会人受験生の応援にも力を入れてきました。法学部で訴訟法を勉強していない受験生も多いことから、民事訴訟法と刑事訴訟法の両方を学ぶようにカリキュラムを作成したのです。当時の司法試験受験科目は訴訟法が民訴と刑訴の一方のみの選択が可能だったため多くの受験生がどちらかを選択していました。ですが、法律家になったときには両方必要なのですから、伊藤塾では全員両訴選択としました。その後、試験科目の変更があり、本試験でも両訴必修となりました。塾生からは慌てないですんだと感謝されたものです。

合格後を考えるという理念の下で続けてきた「明日の法律家講座」は現在366回を迎えています。「スタディツアー」も合格者と共に沖縄のみならず、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、韓国、中国、台湾などに出かけました。このときの経験から国際人権のエキスパートになったり、起業したりした先輩塾生が何人もいます。こうした合格後を考えるプログラムは志を大切にする伊藤塾ならではのもので他校にはありません。

「ゼミ」も設立当初からの伊藤塾の特長です。法律は議論の学問ですから、講義でのインプットと問題を解くアウトプットのみならず、人と法律的な会話をすることも重要な学習と考えてきました。伊藤塾では仲間と法律的な会話をするゼミを重視していて、コロナ禍の中でもネットを利用して続けてきたものです。初年度はベーシックゼミ、アドバンスゼミの2つを全塾生向けに始めました。当初、私がゼミ長をやりましたが、その後は合格者や講師が引き継いでくれて現在に至ります。

2000年には「伊藤真の司法試験塾」から「伊藤塾」に改名し、2002年には司法書士、行政書士試験講座も開講します。その前から各地で司法書士の実務家向けの講演をしていたのですが、そこで実務家から司法書士試験の受験指導もしてほしいと依頼されて始めたものです。当時、憲法は試験科目になかったのですが、法律家としての司法書士になるためには憲法の理解が不可欠だと考えて、司法書士講座の中で憲法を教えていました。試験科目でもないのに塾生はよく付き合ってくれました。ですが、その後、司法書士試験でも憲法が受験科目になっていきます。

同じくこのころ始めた公務員試験講座では単に合格だけでなく採用されるために不可欠な内定をとるための面接指導やゼミなどにも力を入れ、近年の国家公務員総合職教養区分においてはその教育方法の先進性から圧倒的な合格・内定実績を誇っています。

2004年からは日本で初めてインターネット講義を開始し、その後もスマホ1つあればどこでも講義が聴け問題演習もできる仕組みを作り、近年では2026年開始予定の司法試験CBT試験への対応も万全なものとなっています。多いときには全国で13校舎ほどあった学び舎ですが、コロナ禍を契機にネット学習中心に切り替えました。

振り返ってみれば、開塾当初に営業差止めの裁判を提訴されたこと、伊藤塾でも法科大学院を作ろうとして大学教授に阻止されたこと、コロナ禍で受講スタイルが激変したこと、その他様々な困難を乗り越えてきた30年でした。自分の受験時代もそうでしたが、多くの困難を乗り越え続けた日々が受験生に寄り添える塾を目指してきた道程そのものでした。たとえ理不尽な批判や誹謗中傷にあっても自分を信じて続けること、ピンチはチャンスだと受験生に言い続けてきたことを自ら実践し続けることが大切なのだと改めて思います。信念を持って続ける力といえば、この雑感も30年間毎月続けていますし、雨の日も雪の日もカンカン照りの日も毎年欠かさず、短答、論文、口述の試験会場に立ち40年以上応援をし続けてきました。

司法試験や予備試験の論文試験では合格答案が公表されないため、受験生の再現答案の分析が不可欠です。これまで塾生の協力によって膨大な再現答案の蓄積があり、それが実戦的な合格答案を書くための指導の貴重なデータとなっています。数通の合格者の答案の分析はロースクールや他校などどこでもできるかもしれませんが、30年間にわたって蓄積した膨大なデータに基づく答案作成指導は、他校の追随を許さないと自負しています。これまでもこれからも伊藤塾の圧倒的な合格実績を支え続けてくれるに違いありません。

受験勉強は孤独なものです。最後は試験会場で、自分一人で目の前の問題と格闘しなければなりません。ですが、そんな受験生を孤独にさせない、自分には伊藤塾によるサポートがあると安心してもらえる塾であり続けます。私自身も30年前一人で教え初めましたが、今は一人ではありません。

開塾以来、3万人を超える伊藤塾合格者を含む多くの塾生の皆さん、日本評論社や弘文堂を始めとする数々の企業の支援のおかげでここまで来ることができました。現在、司法試験だけでも講師15人、伊藤塾全体で約50人の講師陣の仲間が日々塾生のために奮闘してくれています。答案添削や教材作成を手伝ってくださる合格者や弁護士スタッフは600人を超えます。150人を超える社員やこうした多くのスタッフのおかげで私たち自身の志を実現できているのです。何よりも、多くの伊藤真門下生や各界で活躍している先輩OBOG、数万の伊藤塾同窓生が様々な形で支えてくれています。

志は一人では実現できなくても、仲間がいればその実現に近づくことができます。
「人は有限の生命をもって無限の志望を抱くものなり」
これは先日、実家を整理していたときに出てきた、私が高校生のときに書いた日記にあった言葉です。確か坂本龍馬の言葉だったと思います。自分の命が尽きたとしても、志は次の誰かに引き継がれて無限に続いていくものだという意味と理解しています。最近は、志といってもピンとこない人がいるかもしれません。それでも、塾生の皆さんには志をもってほしいと願っています。

これからも伊藤塾は、あなたの志に、進むための確かな実力が必要なら最大限のお手伝いをします。自分だけなく誰かの幸せまで生み出したいと思う人や、社会の原動力となる実務家をめざす人のサポートを惜しみません。一つの区切り目を迎えて伊藤塾は次の30年に向けて新たに動き出します。一緒に頑張りましょう。今後ともよろしくお願いします。